第5話 6歳、家族旅行は王都
女になって最初の日にお風呂場で出会った母さんの姉…テレサ・バスール。
なんで師匠かというと、俺に生きるために必要な事を教えてくれる先生だったからだ。
父さんの武術の訓練や家庭教師の魔術の勉強だけでは足りない生きるための訓練。
それは、礼儀作法!
師匠は言った。
「女として生きるために必要な事、全部俺がお前に教えてやるよ!」
それはもう過酷なものだった。
女の子の礼儀作法から話し方、歩く時の姿勢までみっちりと教えられた。
それはもう俺の中の男が完全に砕けてしまうほどの衝撃だった。
おかげで、女の俺はそれはそれは完ぺきなお嬢様を演じられるようになった。
あとで母さんに聞いたのだが、師匠は母さんのしつけも行っていたらしい。
それと、凄腕冒険者でもあるらしく、かつては母さんと二人で「鮮烈姉妹」と異名まで取っていたらしい。
母さんはなぜ姉を呼んだのか、
それは俺を旅行に連れていく為だった。
そして、今日は6歳の誕生日。
両親と師匠と旅行に行く日…
あ、今さらだけど言わせてくれ。
グレイノース家は代々続く武門の家系でその力で国を守ってきたらしい。
父さんは婿養子ってわけだ、ドラゴンだしね。
そんで世間に敵も味方も結構いるらしい。
結果俺は今日まで家から出たことがなかったわけだ。
外では危険がいっぱいらしい。
俺いま美少女だしね!
目的地の王都までは馬車で5日。
王都に父さんと母さんが仕事で行くことになって、俺一人残しておくわけにはいかないから連れていくために礼儀作法をみっちり教え込まれたわけだ。
「ユウリ、つかれてないか?」
「ええ、大丈夫です、お父様」
そう、お父様…だ。
師匠が目を光らせているからな。
普段からお父様、お母様で通している。
「つらかったら言うのよ~」
「アリス、語尾を延ばすなと何度言ったら分かるんだ」
「あら、自分のことを俺とか言っちゃう、テレサ姉さまには言われたくないわね~」
「まぁ、二人とも。王都はもうすぐなんだ喧嘩は良くないな」
そう、王都はもうすぐだ。
魔物に襲われることも、盗賊に襲われることもなく王都についてしまった。
異世界なのに平和な旅で…退屈だったぜ!!
「ユウリ、みてごらん。王都の門だ大きいだろ」
父さんの言う通り、王都の門はでかかった。
なんていうんだろ、パリの凱旋門みたいな感じだ。
行ったことも、見たこともないけど、たぶんそんな感じ。
「この門はな、並大抵の魔物の攻撃じゃびくともしない魔法がかけてあるんだぜ」
と師匠が言う。
「たしかに、おっきいですね。あれ?門の上の方壊れてませんか?」
「ああ、あれはそこのバカリオが昔ブッ壊したんだ」
「ええ、リオが私に出会ったのもこのころだったわね~」
「ははは、懐かしい思い出だね」
父さん…王都で指名手配とかされてねぇだろうな。
つーかびくともしないはずの門を壊すとか!
いや、いいんだけど。
王都は各門で4つに分けられていて、それぞれ市民街・商業区・貴族街・王宮区となる。
門を入って直ぐが市民区、その先にさらに門がありここからが商業区、それを超えた先に貴族区、王 宮区とある。
それで、市民は商業区までしか入れない。
商人は商業区以外の場所で商売出来ない。宿屋も商業区にある。
貴族は原則王宮区に入れない。
あと、むやみに市民区に行くと危険らしい。
んで、俺達が泊るのは貴族街…じゃなく、商業区の一流宿だ。
なぜかというと、貴族街は父さん、母さんによってくる奴らが鬱陶しいからだってさ。
敵も味方も多いってのは面倒なんだな。
今、宿屋に着いたんだけど、俺前世でもこんなホテル泊ったことないぜ!
自分の家もなかなかでかいけど、このホテルもかなりでかい!
しかも、奴隷式のエレベーターまで完備!
まぁ、想像つくだろうけど、奴隷が頑張って人が乗ったエレベーターを上に下にとロープで動かしている。
奴隷とか初めて見たよ。
俺たちが泊るのは全6階建の4階。
父さん母さんが1部屋、俺と師匠が1部屋だ。
父さんたちは着いてすぐどっか行っちまった。
だから今は師匠と二人っきりだ。
「ユウリ」
「はい、何でしょう」
「私もちょっくら昔のツレに会ってくる。勝手にどっか行くんじゃねぇぞ」
「わかりました。いつ頃戻られますか?」
「そうだなぁ、夜には戻ると思うが…くれぐれも問題起すんじゃねぇぞ」
「わかっています」
そう、わかっているさ…両親不在で師匠もどっか行く…
つまり王都大冒険の幕開けだってことだろ!
「部屋のカギはお前に預けておく。あと、一応これを持っとけ」
渡されたのは汚い財布と財布の中には銀貨が入ってるみたいだ。
「まぁ必要になることはないだろうが使うならパーっと使え」
「わかりました」
「じゃあ、また後でな」
師匠はそう言ってホテルから出て行った。
俺はとりあえず、部屋に戻るとするか。
お金いくらあるか数えないと行けないし。
どうせなので、エレベーターに乗るか。
「お嬢様、何階に御用でしょう」
と執事服のダンディーなおっさんがいうので、4階と伝える。
執事のおっさんは奴隷に向かって4と書かれた札を見せる。
すると奴隷が一生懸命エレベーターを引き上げてくれると。
いや、これ超怖いんですけど。
奴隷の人たち一生懸命ひっぱりあげてるし、一応落下防止もしっかりしてるみたいなんだけど、まずドアがないから外丸見え。
引き上げられるんだけど、少しずつ上がっていくから怖さ倍増。
とりあえず。もう乗らないと胸に誓った。
「4階に到着いたしました。足元にお気をつけください」
「あれがとうございました」
ふう、なんとか4階だ。
部屋は402号室。
中は寝室とリビングで出来ている。
寝室には簡単なベットが二つあるだけで、リビングにはテーブルと椅子があるだけだ。
とりあえずテーブルにお金を広げてみた。
銀貨が4枚と鉄銭2枚、銅銭が1枚だった。
今さらだけどこの世界の貨幣について説明する。
金貨1枚 = 100万円
銀貨1枚 = 1万円
鉄銭1枚 = 1000円
銅銭1枚 = 100円
つまり、4万2100円あるってことだな!
ちなみにまちで一食ご飯を食べると、銅銭3枚300円だってさ。
お安い!
こんだけあれば何でも出来そうじゃん?
早速街に繰り出すぜ!
そして、宿を出て直ぐに迷子になりました。