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第4話 庭でペットを手に入れた

 5歳の誕生日を迎えた日の午後のこと。

 武術の訓練がいつもの先生から父さんに変わった。


 「ほらユウリ、足元が留守になってるぞ! 集中するんだ!」

 「は、はい、父さん!」


 先生にならった組手や痴漢撃退(ちかんげきたい)術を駆使(くし)して父さんに一撃を与えようとするんだが、当たらない。

 

 「ははは、いい調子だ。動きは完ぺきだな。あとは体力とスピードがたりないな!」


 笑いながらよける、こっちは汗だくになってるってのに!

 なんとか一撃入れたいところだ。

 動揺させるか?それでいけるだろうか…


 「どう、して、武術の先生から、父さんに、変わったんです、か!」


 動きながらだから、息が途切れながらになった。


 「どうしてって、それは…」

 「どう、したんです?」


 動揺を誘う作戦を始める前の話のきっかけ作りだったのに、すでに動揺しているのはなんでだ?

 まあいい、隙アリ!!


 右足で足払いをかけるが、軽くステップを踏んでよけられる。

 追撃を入れるため左足を軸に時計回りの回転をかけ、右足を戻す。

 いわゆる回し蹴りだ。


 「おっと」


 まぁ、よけられたんだけどね。

 一旦距離を取り息を整える。


 「ふう、これだけしても当てられないなんて」

 「ははは、これでもドラゴンだからね。体力には自信があるし、そもそも冒険者相手に比べたらどうってことないね」

 「冒険者と戦ったことがあるんですか?」


 そもそも、この世界冒険者とかいるの?

 って思ってたんだがいるようだ。


 「まあ、楽しい思い出じゃぁないけどね。アリスに出会う前のことだよ。今日はここまでにしておこうか」



 訓練が終わって庭の芝生に父さんと二人で腰を下ろす。

 いやー男だった頃より体力が落ちてるわー。

 まあ、当然…なのか?


 「ユウリ」

 「はい?」

 「さっきの質問なんだが…」


 さっきの質問?

 ああ、武術の先生が変わったことか?


 「それはな、武術の練習中にユウリが怪我しないか心配で、私が無理を言って変わってもらったのだ」

 

 なんと、男のときには一切そんなこと言わなかったのに、女になった途端にやさしくなったぞ。

 実の父親ながらキモイな。

 口には出さないけど。


 「男の時には言われませんでした」


 あ、つい嫌みみたいに言っちゃった。

 まあ、いいか。


 「それは男は強くあるべきだからだ。だが女性はやさしく護るものだとアリスが言っていたし、私もそう思うのだ。」

 「あ、そうですか」


 子供だからって理由ではなく男だから女だからって話なんですね~。

 よく考えたら父さんてドラゴンなんだよな。

 人間の常識の大半は母さんから吹き込まれたものなのかもしれない。

 じゃあ、あのメイド服も母さんに吹き込まれたんだろうか?


 「だからといって、ユウリ、お前が心配じゃなかったわけではないよ?」


 と頭をなでながら微笑んで言われた。

 「(その瞬間俺の中の乙女が父親であるにも関わらず反応する…ドキン)」


 「そうですか」

 「…?」


 確かに男も魅了しそうな笑顔だったが、ドS天使クレアのセリフは余計だ。

 いきなりだし、しかも抑揚なく棒読みとか!

 せめてもっと演技をだな!

 

 「(もっとバリエーションを用意しろ…ということですね、あなたに言われるのは(しゃく)ですが任せてください)」


 こころを読まれた!?


 「(はぁ、で、何の用だよ)」


 つまらん用事じゃなかろうな。

 こいつは嫌がらせの為に何するか分からない。


 「(メイル…様…から、女の子記念プレゼントを預かってます。今そちらに送っています。届きましたか?)」

 「(なに?)」


 「ん?なにか来る」


 何かを察知したらしい父さんが立ち上がって周囲を警戒する。

 とんでもないもんじゃねえだろうな!


 「(届いたようですね、しっかり飼育してください)」



 にゃーん


 現れたのは背中に羽の生えた子猫だった。

 いや、かわいいんだが…羽が生えてるのはどうしてだ?


 「こいつは…うん、この匂い間違いないな」

 「父さんはこの子の事を知ってるんですか?」


 抱きかかえて父さんに見せる。

 俺はこんな生き物知らないが、この世界特有のにゃん子だったりするのか?


 「ああ、かなり珍しいし、下位の魔物は私の匂いを怖がってよって来ないはずなんだが…こいつはグリフォンだろう」

 「グリフォン!?」


 グリフォンっていやあ元の世界でも有名じゃん!

 (ワシ)(タカ)の上半身に獅子(ライオン)の下半身を持つって…あれ?

 こいつ完全に体は猫で、背中に羽が生えてるだけじゃね?


 「父さん…ぼ、私の知っている姿とは異なるようですが」


 あ、今さらだけど母さんから、女の子の時はちゃんと『私』って言うようにって言われてるんだ。

 違和感あるけど、あの時の母さんの目は断ったら何されるか分からない目だった。


 「ああ、それはこいつがまだ幼生だからだろう。私もグリフォンなど久しく食べてなかったし、姿はあんまり覚えてないが、魔物は幼生・生体の2種類あるからな」

 「…へえ、そうなんですね。知りませんでした。」

 

 さすが父親…ドラゴンなだけあってグリフォン食べたことあるんだ。

 過去はあんまり聞かない方がいいかも。


 「あら、かわいいわね~。二人だけで独占するつもりだったのかしら?」


 と背後から母さんが声をかけてくる。

 父さんと二人して驚く。

 いや、大袈裟じゃなくて気配が全然なかったんだ。


 「あ、アリス?どうしたんだい…驚いたよ」

 「あら?やましいことでもあるの?ないなら別に平気でしょ」

 「いや、心臓に悪いから驚かさないでくれと言っているんだ」

 「ドラゴンの心臓だから平気でしょ?」

 「今は人間の心臓だよ!?」


 と二人でイチャイチャし始めている。

 まぁ、どっちかというと一方的に父さんがいじられてる感じだけど。

 でも面白い夫婦だなぁ。

 父さんが銀髪メイドの時は母さんの事を軽く流したりするのに、今だといいようにいじられてる。


 「それで、リオ。そのグリフォン食べるの?」

 「いや、どうやらユウリになついているようだし、止めておくよ」


 なついてなかったらお前、父さんに食べられてたかも知れないぞ?

 と手の中の子猫(?)に言う。


 にゃーん、にゃーん

 かわいい。ナイスな贈り物だ!


 「あら、久しぶりにリオとグリフォンを食べるのもいいかと思ったんだけど、ざーんねん」


 おどけて母さんがいう。

 てか、あんたら揃いも揃ってグリフォン食ったことあんのかよ!

 一体昔なにしてたんだ!?


 「(羽の生えた猫をマスコットにして戦う。女の子にぴったりですね)」

 「(この猫をそんな目的の為にプレゼントしてきたのか!?)」

 「(選んだのは私ではありませんが、これを送るように誘導したのは私です)」

 「(じゃあ、やっぱりお前の仕業じゃねぇか!)」


 この天使ほんとそういうことしかしねぇのな!

 仕事しろ。


 「ユウリ、この子飼うつもりなら名前を付けて縛っておきなさい」

 「うむ、そうしないと暴れるかもしれないからね」


 縛る?名前を付けるのは分かるけど縛るってなんだ?

 まあ、分からないことは聞くのが一番だ。


 「名前を付けるのは分かりました。でも、縛るってどういうことですか?」

 「えっとね、魔物と呼ばれるもの達は本来は上位の個体の言うことしか聞かないのよ。で、たま~にはぐれた魔物が現れるんだけど、その魔物が自分より弱かったり、すご~く弱ってる場合は名前を付けて味方に出来るのよ」

 「ユウリ、私はねすごーく弱らされてアリスの味方になったんだ」

 「へー…え?」

 「アリスはすごーく強いよ」


 いやーとんでもない事実を聞かされた。

 父さん(ドラゴン)より母さん(人間)の方が強いって?

 どんだけだよ!

 母さんは父さんの性別以上に未知数だ…


 「それで、どういった名前にするんだい?」

 「かわいい名前がいいわね~」


 ふむ、そうだなぁ。

 こいつ今はかわいいけど、ゆくゆくはあのグリフォンになるんだろ?

 ならカッコイイ名前にするべきか?

 どっちでも行ける名前がいいかも。



 「じゃあ、この子の名前は(アルタイル)にする!」


 アルタイルは鷲座のα星だ。

 うん、鷲の頭に獅子の体のグリフォンには丁度よさそうだ。


 「あら、随分と男っぽい名前になったわね?」

 「まあ、喜んでいるみたいだしいいんじゃないか?」

 「そうね、女の子なのに」


 何だと?

 メスだと分かってたらベガって名前にしたのに!

 ちなみにアルタイルは彦星でベガが織姫星だ。


 今からでも遅くないか?


 「ちなみに、名前のつけなおしは出来ないわよ?」


 そっか…メスでアルタイルでもいいよね?



 この日俺にマスコットキャラクターが出来た。





 夕食後、訓練で掻いた汗を流すのと、拾ったばっかりのアルタイル、通称アルを洗う為にお風呂場に来ている。


 そこで思い出した。俺女の子になってるじゃん…と。


 どうするべきだ、目隠ししてお風呂に入るのか?

 いや、無理だ。

 いやまて、自分の体だし、それに子供だ…。


 別に恥ずかしいことじゃないってことだな!


 よっしゃ、気合い入れてお風呂に入るぞー。

 続けアル! にゃー。


 開けてびっくり知らない女性がお風呂に入っているじゃないか。


 「お。 お譲ちゃんもお風呂かい? 一人で入れるのかー?」


 とりあえず誰だー!?


 「あの、どちら様でしょうか、私はグレンノース家の一人娘…ユウリと申します」


 ああ、一人娘って名乗ってるけど間違いじゃないんだ。

 母さんから女の子はおしとやかに、そして名乗る時は一人娘と名乗りなさいって強制されているのだ。


 「おー、じゃあお前さんがアリスの娘かー。っと俺の名前はテレサ・バスール。姓は変わってるがお前の母さんの姉貴さまだ!」



 それが俺の師匠との出会いだった。


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