第1話 就活からの転生
「それでは、新しい世界を存分に楽しんでよね。指示出すまでは自由にするといいよ」
俺はその言葉に「おう、行ってくる」と自信満々に答えたのだった。
その数時間前までの俺を今、俺は殴ってやりたい…。
事の起こりは数日前
~自宅~
「うわー、就活だりぃ」
大学4年目の春を迎え早い奴らからすれば遅い俺の就職活動が幕をあけていた。
特にこれといってやりたい事もなく、かと言ってニートは嫌だというどうしようもない思考のまま適当に就職先を探す毎日だった。
「異世界 転生 経験不問」
就職支援サイトに登録して適当なキーワードで仕事を探していたところ
「お、なんか4件ヒットした」
えーと、経験不問ゲーム作りに興味のある方はわが社で一緒にオンラインゲームを作成しましょう。
主な業務はシステム構築とデバック作業、事務兼任って
面倒くさそうだな…パス
時給制で誰でも簡単ファンタジー世界に転生した勇者になれます。
主な仕事は遊園地やデパートでのヒーローショー…って着ぐるみとかバイトじゃねーか。
これもパス!
週休二日制をお約束します。
あなたに熱意があればわが社で働いてみませんか。
経験者優遇、未経験でも可。
主な仕事ゲームの企画開発。ってこれもゲーム開発か…
「どれもこれもやる気になれねぇなぁ、残るはあと一つ」
私の世界を救ってくれる勇気ある者を探しています。
経験不問、主な業務は異世界へ冒険の旅に出ること。
時折こちらからの指示を出しますのでその時は指示に従って行動してください。
それ以外はあなたの裁量にお任せします。
「面白そうじゃん。どこの会社だ? えっと女神コーポレーション?おいおい、女神コーポレーションっていやぁVRMMOの最大手じゃんか」
VRMMOの企業ってことはゲームの運営スタッフになれってことだろ?
これで経験不問ってのはラッキーだ。
でも試験とかどうなってるんだろう。
大手だとかなり募集人員も多いだろうし、試験も大変なん…っマジか!面接だけ?
すっげぇ、ダメ元で受けてみるのもありか。
というわけで俺は面接を受けるためにエントリーした。
それから3日後、俺はパソコンの前で面接が始まるのを待っている。
「ふう、いよいよか」
最近の企業がどんな面接をするのかは知らないが、俺の面接はいわゆるテレビ電話的な面接で、面接官と数分間の面接を画面越しに行うものだった。
「…ジジッ…間もなく面接が始ります…」
と画面に案内と面接時の注意事項が表示される。
面と向かって面接じゃないから緊張しないと思っていたが、画面越しでも緊張するもんだな。
画面に向かって黙って待つ俺。
なんかシュールな気がする
アナウンスが流れ面接官が表示された。
「私が面接担当天使のクレアです。お名前を教えていただけますか?」
面接官は真っ白な服を着た怖そうな美人だった。
丁寧な口調なんだがかなりトゲがある。
天使とか自分で言っちゃう変な人が面接官ということで大学時代を灰色の野郎ばっか生活している俺は完全にてんぱっていた。
「国友 まさひろ です!」
あ、大学名言い忘れた。
終わったー、このミスはでかい!
いや、まだ巻き返せるはずだ!
「はい、国友さんで間違いないようですね。ではいくつかの注意点をお話しする前に、一つ聞かせてください。」
ごくっ…どんな質問がきてもはっきりと返事をしなくては…
「転生に同意したとみて間違いないですか?なにか言いたい事はありますか」
「はい!っ「ありがとうございます」…ぇ?」
勢いよく返事をした後に続けようと思ったセリフにかぶせてお礼を言われた俺は、いわゆるポカーンとした顔で死んだ。
いや、何を言ってるか俺も分からないんだが、返事の後すぐに俺のPCが大爆発して俺死亡。
唯一の救いはハードディスクごと吹っ飛んだことだろうか。
そんでもって今俺は真っ白な世界で同じように死んだ奴らの列に並んでいる。
どうしてこうなった?
不慮の事故?それとも求人票にあった転生が本当だったって事だろうか?
面接官のクレアさんも「転生に同意するか?」とか聞いてたし…
じゃあ、これから俺異世界行くの?
うっは!テンションあがってきた。
上がっていたテンションは今急降下して、どん底だった。
なぜかって?
なげぇんだよこの死者の列!!
一体どんだけいるんだ!
寝ることも食べることもなく並び続けてたぶんだがもう1週間になるはずだ。
やる気が全然起きなくなって人生を振り返る遊びをし始めたころついに俺の番が来た。
「お名前は」
「国友まさひろです」
やるきなさそーな受付に、これまたやる気のない俺が返事をする。
「転生ですので右手のゲートから入って4番と書かれた部屋に行ってください。これが入場券です」
と腕輪を渡された。つけろってことか。
俺こーゆうの嫌なんだよね。つけるものは自分で決めたいっていうか?
まあ、つけるけど。
俺の後ろの奴は左側に案内されていた。
ちらっと聞こえた感じだと頭の中が空っぽになるまで長蛇の列に並び続けるらしい。
俺、転生でよかった…
「えーと、4番4番…あ、ここか」
目の前には4と書かれた部屋がる。
まぁ数え切れないほど部屋が並んでるみたいだし、1万超えてそうなんだよね。
俺4番でよかった。
ドアを開けつつ
「失礼しまーす」
あけてびっくり。中は図書館のようだった。
「ああ、転生の方ですかこっちへどうぞー」
声のする方に歩いて行くと本に埋もれている机に、これまた埋もれるようにして幼女っぽいやつが座っていた。
「いやーすまないね、片付けようにも何から手を付けていいのか分からないありさまで」
「あ、いや別に平気ですけど」
「まぁ、そこの本にでも座ってよ」
すすめられるままに本に座る。
これ崩れたりしねぇだろうな。
「えっと、まずは自己紹介をさせてくれ。私はこの神様不在の世界に着任したばかりの新米女神でメイルといいます。前は別の世界の神のサポートをしていたんだが、今回は自分の世界を任せてもらえるようになったのだ!」
と目の前の幼女が胸をはる。胸ないけど。
「おめでとうございます」
とりあえず祝っておく。
「ありがとう!…で、任せてもらったはいいものの手付かずで長いこと放置されていた世界だからやることが多くてね、地上に降りて世界を見てくる人を探していたんだ。」
「それが、俺ってことですか?」
「そういうこと。君は話が早くて助かるね~。あ、普段私はここから動かないから専属の天使を使いにしてるんだ。その天使から詳しいことを聞いてると思うんだけど、もう決めてる?」
ん?決めてるってなんのことだ?
「すみません、なんのことですか」
「えっ!?天使から聞いてないの?」
「聞いてないです」
「な、なんにも?」
「なんにも。天使ってあのクレアって人ですよね?問答無用でした」
そう、問答無用だった。
面接開始から俺がしゃべったのは自分の名前くらいなもんだ。
そんなことを考えている時、女神メイルが机の上のベルを鳴らす。
かなりきれいな音だった。
「ちょっとまっててね。今天使を呼び出してるから」
ガチャッ
背後でドアが開いた音がする。
「およびですか?」
振り向くとそこには面接官の美人さんがいた。
「も~、およびですか?っじゃないよ!説明はどうしたのさ」
「申し訳ありません。注意点を説明をする前に殺してしまいました。」
「ちゅ、注意点って…最初の最初じゃないか!転生時の記憶の消去とか残される家族に対するアフターケアとかの話すらしてないの!?」
俺はかなり理不尽に殺されたようだ。
「はい。しておりません。事後承諾です。」
死んだあとに承諾とられた覚えねぇけどな!
「それに、メイルを困らせたくて、手間を省きました」
「またそうやって意地悪する~。仕事はしっかりやってくれないと困るよ」
「はい。私がしっかりしないとお子様なメイルは困るんですよね」
「え…私はもうしっかりしてるから大丈夫だけど、仕事なんだからさ!」
「はいはい、わかっております」
「もー、絶対分かってない!」
俺はどうしたらいいんだ?
理不尽に殺され、目の前の美人と幼女のやり取りを眺め…眼福眼福って、そーじゃねぇよ
こいつら俺のこと忘れてんじゃねえだろうな。
声かけてみるか。
「あの~、俺はどうすれば?」
すると二人そろって「あ、こんなやついたなぁ」みたいな顔でこっちを見てくる。
「あ、ごめんね?とりあえずもう死んじゃって転生まで決まってるんだし、大まかな事だけ決めちゃおうか」
「メイルそれは無責任じゃありませんか?」
「誰のせいだと思ってるんだよ!」
また話が流れそうになるので軽く咳払いをする。ウオッフォン
「クレア、とりあえず決めないと行けないことは何がある?」
「そうですね、通常ですと、スキル・属性くらいです」
ふ~ん、通常の転生はそんなの決めるんだ
「じゃぁ、何から決めようか」
と幼女メイルがきいてくる。
え、通常じゃない場合を聞かないの?なら俺が聞こう!
「すみません、通常じゃない場合は?」
あ、通常じゃない場合もあるんだ…みたいな顔をするメイル
ちっ、余計な事をって感じに睨んでくるクレア
「通常じゃない場合ですと、種族・スキル・属性・ギフトを選択します」
「ギフトってなんですか?」
「説明が面倒ですが…しかたありませんね。全部説明するから聞き逃さないように」
んで、聞いたことをまとめると
種族はその名の通り転生する種族。
転生先の世界の住人の種族限定で選べるらしい
選べるのは10の種族から2つまで。
二つ選ぶとハーフになるらしい。
ロマンあふれる種族も行けるぜ!
スキルは何が出来るかを表したもので、あと後増えたりするらしい。
属性は魔法の属性で選ぶ種族によって選べる範囲が変わってくるらしいんだが、選べるのは[火・水・風・土・炎・氷・嵐・地・光・闇]らしいのだが多すぎる!
しかも炎あったら火いらなくね?って感じの下位互換選ぶ意味なさそうだ。
ギフトは生まれつき神様からもらえる祝福のことで、後からもらうのは出来ないとのこと。
「以上です。なにか質問は?」
「えっと、炎あれば火いらないんじゃないか?」
気になったので聴くことにした。
「ばかですか?」
んでもって罵られた。
「あなたは思い違いをしています。炎を取るためにまず火が必要なのです。それに氷はだせるけど水が出せないとか、嵐は起こせるけど風は起こせないなんて…クズです」
罵られているのは俺なのだが、幼女神メイルも同じことを疑問に思っていたのか、クズというセリフでダメージを受けたような顔をしていた。
「それでは通常どおりに転生させましょう」
「うん、そうだね」
「ちょっと待ってくれ。今回はそっちのミスで死んだみたいなもんなんだし、特別な方にするべきじゃないのか?」
と一応言ってみる。
言うだけならタダだしな
「た、たしかに…そうかもしれないね」
幼女たやすい
「っち、それでは特別な転生をしましょうか」
話し合いの末俺は空族と人族のハーフになって、スキルは【空族言語】と【人族言語】【詠唱省略】、属性は[火・風・土・炎・嵐・光]となった。
まあ実際は火と風と光の3属性がつかえるみたいなもんだな。
ギフト【信託】と【才能】をもらうことが決まった。
信託は神様からの指示をもらうために必要だったから当然もらうとして、才能はなぜかクレアが取れって進めてきた。
絶対に裏があると思うんだが、説明を聞く限りじゃ良さそうだったからもらうことにした。
ちなみにこれだけ貰えたのは幼女神がたやすかったからだ。
幼女楽勝w
「それでは、新しい世界を存分に楽しんでよね。指示出すまでは自由にするといいよ」
「おう、行ってくる」
「逝ってらっしゃいませ」
こうして旅立ちが決まった。