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8話 ともだち

 お昼ごはんを済ませて、のんびりポーチの長椅子に足を投げ出して風に吹かれていたら、あちらの丘から鹿のアーバンがやってくるのが見えた。

「やあ、アーバン。ひさしぶり」

「やあ、元気かい?」

 彼は汗を拭きながらポーチへ入ってきた。

「まあ、座ってよ。」

 椅子を勧めてアイスティーを入れにキッチンへ入る。

「ああ、おいしい。生き返ったよ。」

 アーバンはアイスティーを一気に飲み干し、にっこり笑った。

(この人はホントおいしいときはおいしい顔をするし、嬉しいときは嬉しい顔をするし、素直なんだな)

 僕はアーバンの鼻に浮かぶ玉のような汗を眺めた。

「で、最近調子はどうだい?」

「うん、まあまあさ。朝のうちに枝豆の苗を植えて、お昼過ぎからはスグリの実を取りに行こうかと。明日市場へ持っていこうかと思って・・・」

「そうか」

「ところで、実と言えばこないだ取れたかい?あの赤い実」

「ああ、それがどうも教えてもらった道を間違えてしまったみたいでたどり着けなかったんだ」

「おお、それは難儀だったな。僕がついて行ってあげれば良かったな。で、無事下りてこれたかい?」

「うん・・」

 その時僕は山の上で会ったおおかみのことを思い出した。

 その事をアーバンに話そうかとふと思い

「うん、それがね・・・」

 言いかけて僕は口をつぐんでしまった。

「どうかしたの?」

「・・・ああ、いやなんでもないんだ。又、今度一緒に登って教えてよ。」

「ああ、いいよ」

 アーバンはそれから小半時ほどしゃべっていったが、薪を取りに行くんだと言い、林へ出かけて行った。


 僕は後になって、何故アーバンにおおかみの話をしなかったんだろうと考えた。

 たぶんそれは、きっとそんな事ありえないと信じてもらえないだろうとか、おおかみに食べられそこなって、しまいに足をくじいておおかみにおんぶしてもらったなどという不名誉な山羊として笑われるんじゃないだろうかとか、いろんなことが一瞬頭をよぎったからだと思う。

 でも、よく考えてみればアーバンは素直で人の好意をストレートに受け止め、ストレートに返せれる人だ。僕の話をばかにして笑ったことなんてない。

 なのに、僕は臆病だ。心を開く事に躊躇してしまう。でも、そればかりではない。

 いや、そうなんだ。あの出来事を、あの山の上で見た神様のような素敵な景色を、天敵であるおおかみと一瞬心が通じ合ったあのなんとも言えない気持ちを、きっと心の中だけで大事にしまっておきたかったんだろう。


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