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7話 代わり映えしない毎日

(あ、起きなくっちゃ・・・)

 目が覚めたベッドの中で、僕はぼんやりと、今日しなくてはいけないことをあれこれと頭の中にめぐらせた。

(今日も良い天気みたいだな)

 しっかりと閉めていないカーテンの隙間から朝日がもれている。

 僕はベッドから起き上がり、まずカーテンを開ける。そして、チェストの上に飾ってある母さんの写真に心の中で「おはよう」を言う。

 母さんが亡くなってから5年経つ。父さんは僕が物心ついたときからいない。

 この山の麓で、この土地で、母さんとふたりで暮らした。母さんはいろんな仕事をしながら僕を育ててくれた。この村で唯一の学校を卒業してからは、僕は母さんとふたりで土地を耕し、いろんな作物を育てて生計を立てた。

 学校の同級生たちはほとんどが街へ仕事を求めて出て行った。そしてほとんど戻ってくる者はいない。僕は街がどんな所か知らない。行こうと思ったこともない。

 卒業するときに母さんは僕に「街へ行ってもいいんだよ」と言った。

「母さんは?」って聞いたら「私はここでずっといるよ」って言ったから、僕もここにいることにした。母さんを助けて早く一人前になって楽をさせてあげたかった。だから、土地の耕し方、種の蒔き時、天気の予測の仕方や、いろんなこと覚えた。

 だけど、今はひとりだ。

 母さんは病気をして、あっというまにあちらの世界へ行ってしまった。


(今日は枝豆の苗を植えて、午後から市場へ行かなくちゃ・・)

 今日の段取りを考えながら顔を洗い、歯を磨く。

 パンと卵で簡単な朝ごはんを食べる。

 キッチンの硬い木の椅子に座って、パンをかじりながら、僕はまたふと憂鬱な気持に襲われる。

 最近はこんなことが多い。やらなければならない事は山のようにあるし、毎日がなんだかんだとあっという間に終わってしまう。

 でも、ふとした瞬間に、なんだか寂しいようなむなしいような気持ちに襲われてしまう。

(何故なんだろう?)

 ひとりでの農作業は単調で、日々おんなじことの繰り返し。農作物を作り、自分が食べる分以外は市場へ持って行き売り外貨に換え、日々の暮らしにいるものを買う。夜は時々友人のアーバンがやってきて、ふたりで家のポーチに置いてある楢の木で出来た長椅子に座り、お酒を飲んだりチェスに興じる。

そうでなければ簡単に夕食を済ませた後は、読書をしたり、ポーチから星空を眺めながらギターを弾いてたりして、早めにベッドへ入る。

 

 これといって困ったこともない、不満があるわけでもない。なのになんでこんな気持ちになるんだろう?

 例えるとしたら、泳げるのに泳ぐことに怯えたり、そうかと思うと、自分の足元まで水がやってきているのに泳ごうとしない自分にいらだったり・・・そんないろんな感情がごちゃまぜになって、胸の中に重く溜まっていくような。そんな感じ。

 自分の生活に何か足りないものがあるような気がしたり、それが何なのかわからずもがいている自分を自分が冷静に見ていたり。

 そのことにとらわれると僕はいつもぼんやりして考え込んでしまう。

(いけない、いけない。早くしないとお日様が昇りきってしまう。)

 僕は気を取り直して、皿をキッチンのシンクに放りこむと、籠に枝豆の苗を入れ始めた。


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