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6話 けったいなおおかみ
僕たちは麓へ下るまで、お互いのこと、毎日の生活のことなど、取り留めない話をしながら山を下った。それは時間にするとあっという間の出来事だったけど、こんな不思議な組み合わせで山を下りるなんて、絶対に出来そうにない体験だ。おおかみはその怖い風体に似合わず、時々冗談を口にし、僕を笑わせた。
本当にこれが天敵のおおかみなのか。
僕は何が何だかよくわからなくなってきた。この世界広しと言えども、おおかみの背に乗って山を下りた山羊なんて僕一人に違いない。不思議で少しひやりとする体験だ。
こんなことがあるんだな。
こんなことってあるんだな。
僕はおおかみの背中のたてがみに掴まりながら、先ほど見たあの神々しい光景を何度も何度も頭の中で描き続けた。




