11話 あの実
「それはそうとあのおおかみが持ってきた木の実って、そんなにいいもんなのかい?」
イタチおばさんが話題を変えた。
「ああ、見るかい?」
おじさんは店の奥へ手招きした。
僕もついていった。
「これだよ。」
おじさんが籠の中から木の実を取り出した。
おばさんと僕が覗き込んでみると、それはスグリの実より一回りほど大きい赤い実だった。
つやつやして鮮やかな赤色の実。
これは、あの実だろうか。
アーバンが教えてくれた実。つやつやして、ちょっと酸っぱいけど甘みがあって美味しいといわれるあの実だろうか。
その実を採ろうと思って、モラウル山に入っていき、道に迷った。そしてあのおおかみに会った。
あのおおかみがこの実を持ってきたって事は、おおかみもモラウル山でこの実を採ったのだろうか? 僕とおおかみが会った日は、おおかみもこの実を採りに山に入っていたのだろうか?
僕はいろんなことを思い巡らせていた。
そうすると、おばさんが
「ああ、この実はとてもいいね。大きいし、つやもあるし、甘そうだ。」
「ひとつ食べてみるかい?」
「ああ、ありがとう。」
僕とコーラルおばさんはひとつずつもらい口に運んだ。
「うん!これは確かに甘いね。」
「そうですね。とてもおいしいや。」
と僕も続けた。
(これは売れるに違いない。)
「それで、あのおおかみはいくらで売るって言ったんだい?」
「20キロで5000ベウルだよ」
なんと。僕とおばさんは目を丸くしてしまった。
確かにそれは吹っかけ過ぎだ。
10キロ1000ベウルから1500ベウルが相場だ。この実は確かに極上ものだが、それでも5000ベウルはふっかけすぎだ。僕のもってきたスグリだって1キロ200ベウルなんだから。
あのおおかみはどういうおおかみなんだろう。
僕が山で会ったおおかみと、市場でトラブルを起こす気の荒そうなおおかみとは、頭の中でイコールにならなかった。
僕はバールに寄ってビールをひっかけて帰るつもりだったけど、なんとなく気乗りがしなくなって、必要な生活雑貨、歯磨き粉とか石鹸、バターナイフなど、それと小麦や乾燥したお茶の葉などを買って家路を辿った。
市場から同じ方向に帰る狸のリーフと一緒になって、彼の荷馬車に乗せてもらい、麓まで帰ってきた。
リーフは、市場でちょくちょく顔を合わす仲間なんだけど、何となく元気がなくなった僕は、リーフの話も上の空だった。




