第十九章 ~故郷(1)~(改)
眼下にあるだだっ広い草むらが一斉にざわめき始めた。遅れて、なだらかな丘の上に牧草の素朴な香りが風に乗って運ばれてくる。高原の涼やかさを伴ったそれを鼻に感じながら、黒髪の少年は両手の平に収まるくらいの黒い物を乗せ、日差し遮る梢の付け根にあるもじゃもじゃとしたものを見上げていた。
黒い綿のようなもこもこが少年の手の上で頼りなく揺れ、少年は慌てて左右の親指同士をくっつけて蓋をした。そうしてやらなければ、十秒もしないうちに足元の枯れ草の中に埋もれているはずだった。
「うーん、少し高いなぁ」
少年が呟くと、指を組んで作られた檻からも同意するかのように、コルク抜きを回す時のようなか細い音が発せられた。閉じられた手の中に、小さいながらもちゃんとした温もりを感じた。束の間、指の隙間に視線を落とし、それから小枝を寄せ集めて作られた見事な野鳥の巣を見上げた。とうに命を終えたはずの枯れ枝が生き物の住処としてしっかり役立っているのを見ると、何とも不思議な気持ちになった。
「イェルド、こんなところで何をしている?」
背後から声が発せられ、少年が後ろを振り返る。と、牛皮で誂えた薄茶色のコートを着た、背の高い青年がいた。少年は見知った顔を見止め、満面の笑みを浮かべた。
「イヴァンさん! 丁度良かったー。あ、その前にこんにちは」
イェルドが元気良くぺこりと頭を下げるのを見て、イヴァンと呼ばれた青年はわずかに目を細めた。
「ああ、こんにちは。相変わらず元気だな、おまえは。それはそうと、村でディアーダ卿のご息女がお前を探しておられたぞ」
「えぇ、アディが? おっかしいなー、今日は来られなくなったって聞いていたんだけど」
イェルドは記憶を探るように首を傾げた。
「急遽予定がキャンセルになったそうでな、帰りに立ち寄ったらしい。折角だから後で顔を見せてやれ、彼女も喜ぶ」
「うん、わかったよ。あ、それよりイヴァンさん。これ、なんだけど」
「うん?」
イェルドはおずおずと、両手の平に乗せている物を差し出した。尾根の先が白い以外は薄黒い羽衣で覆われた、丸みを帯びた生き物がもそもそと動いていた。
「トルバの雛、か。それでしきりに木の上を見ていたのだな」
イヴァンは納得したようにうなずいた。
トルバは夏季に繁殖期を迎える渡り鳥で冬鳥の代名詞だ。今頃は雛が巣の中で親鳥にせっせと餌をねだっている時期なのだが、何かの拍子で落下してしまったのだろう。
「戻してあげたいんだけど、巣の場所が高過ぎて僕には無理っぽくて。でも、イヴァンさんならこれくらい余裕でしょ?」
イヴァンは雛からイェルドに視線を戻した。
「あまり気が進まないな」
「え、何で? このまま放置したらこいつ絶対に助からないよ」
眉を潜めるイェルドにイヴァンは少し困った顔をし、間を取って言葉を選びながらゆっくりと話し出す。
「自然の流れ、生命の循環は人がおいそれと手を出していいものではない。助からなかったはずの命を救ったことで、失われる何かが必ずある。世界とはそういうものだ」
イェルドはその言葉の意味を考えてみた。確かに、この雛を助けたことで失われる命は増えるだろう。雛がいる以上親鳥はせっせと餌を運ぶし、やがて成長すれば自力で虫や小動物、或いは果実を食するようになる。失われる命は確かに増える。あるいは、この雛を食べることによって他の動物が生き長らえることもあるかも知れない。
「言いたいことは、何となくわかるけど」
「仮に巣に戻したところで、親鳥が一度落ちたそいつを育ててくれるかはわからないぞ。最悪の場合、殺されてしまうことも考えられる。そういった例も少なくないからな」
「ううぅ、でもさぁ」
「残酷に感じるかも知れないが俺たちは自然と共に生きる民だ。起きた事象を有りのままに受け入れることも――」
「――矛盾してるよ」
イェルドが冬籠りに備えた栗鼠のように頬を膨らませた。
「矛盾?」
「だってそうじゃん。自然と共に生きるなら僕ら人間だって自然の一部だってことでしょ?」
「そういうことだな。だからこそ」
「あぁ、待って。今言わないと多分忘れちゃうから先に最後まで言わせて。つまり、僕が落ちていたこの雛と出会ったのも自然に起きた現象だよ」
「それがどうかしたのか?」
「そんでもって、僕がこいつを巣に戻したいなーって気分になったのも自然に起きた現象で、偶々イヴァンさんがここに来たのも」
「ま、待て待て。それは屁理屈じゃないか」
イヴァンが慌ててイェルドの言葉を遮った。
「屁理屈じゃないよー。イヴァンさんの考え方は、自然と共に生きると言いつつまるで人間だけ自然と独立しているような感じじゃん。人間が自然の一部に含まれるというなら、起きた事象もその一部のはずじゃない。例えばー、その考え方だと奇特な猫とか鳶とかが雛を咥えて巣に戻すのはいいんでしょ?」
「それは、まぁそうだな」
イヴァンは宙に視線を向け、きまり悪そうに同意した。
「そうでしょ? じゃあ、人が戻しちゃいけない理由って一体なんなのさ。知性があるから? それとも感情があるから?」
イヴァンは切り返しの言葉に詰まった。今回だけではなく、時折目の前の少年は年に似合わぬ聡さを見せる節があった。
「人が自然の流れを乱しちゃいけない。そんなことを考えるのは傲慢だよ。人だってその流れにいるんだから。世界の懐はもっと広くて深くて、僕らはその中にいるちっぽけな存在だ」
「そう考えられないこともないが……しかしだな」
「そうでしょそうでしょ。というわけで、はい!」
あからさまに反論されなかったことにほっとしたような笑顔を浮かべつつも、イェルドは黒い羽毛に覆われた雛を差し出した。イヴァンは束の間、雛の小ささと愛らしさに見入ってから、深く溜息を吐いた。
「……甚だ不本意ではあるのだが」
半ば諦めた表情のイヴァンは親指と人差し指と中指、三本の指で雛を軽く支えると、視線を木の上に向けた。木漏れ日煌く深緑色の天井に程近い巣の位置を見定め、ゆっくりと両膝を曲げ――
強く息を吐き出すと共に真上に向かって高々と跳躍した。イヴァンがイェルドの傍に着地した時、その大きな手には何も握られていなかった。イェルドの顔に、満面の笑みが宿った。
――――――
目蓋に映る闇が少し薄らいだ気がした。ゆっくりと目を開けると手の届きそうな所に真っ白い天井があった。
「ん、ここ、は、……うぐっ」
体中の痛みに顔を顰めながらも、なるべく痛みが出ないように、慎重に身を起こした。何かが一瞬だけ視界を遮り、手元にぽとりと落ちた。数瞬して、白い濡れタオルだと認識した。誰かが看病のために自分の額に乗せていたのだ。
長方形のベッドの四角には透けるような薄さの、レース付きの柱が備え付けられていた。高級なベッドにのみついているそれを見て、シュイは天井と思っていた物がベットの天蓋だったことに気づいた。次いで、何故自分が一生縁もなさそうなベッドで寝ているのか、疑問に思った。
「ここ、どこなんだろ、って、あれ」
違和感に気付いたシュイが慌てて腕を、次いで胸を見た。肌を覆っているのは着馴れた黒衣ではなく、白いシャツだった。生地が羽毛のように柔らかく、半ば無意識に指を這わせて滑らかな手触りを確かめた。もちろん、全く見覚えがない服だった。頭を両手で抱え、程なくして記憶が途切れていることに気付いた。
シュイは記憶をゆっくりと遡り、思い出した地点から再び辿っていくことにした。
「確か、飛竜と戦って、それから……ああ、あいつだ」
シュイはエグセイユのことを思い出した途端に顔を顰めた。あの妙に鮮やかな青い髪を思い出すだけで胸糞が悪くなった。だが、それも長くは続かなかった。
「――はっ、アミナ様! ぐっ」
立ち上がろうとした途端、強烈な頭痛に襲われた。シュイが頭皮を鷲掴みながら呻いた。
と、部屋の角にあるドアがゆっくりと開いた。シュイが何とか片目を開けてそちらを見ると、見知った顔があった。
「あら、お目覚めになられたのですねー。おはようございます」
茶色いセミディの髪が縦にふわりと揺れた。優雅に頭を上げた女を見て、シュイは絆創膏の張られたその顔に見覚えがあることに気付いた。
「……あれ。確かリズさん、でしたよね」
シュイの言葉に、リズは微笑を浮かべた。その両手には淵に白いタオルのかかった金属製の洗面器が握られていた。
「はいー、リズでございます。たった一度で覚えていただけるなんて光栄ですわ」
「……もしかして、看病してくれていたのリズさんだったんですか。あ、ありがとうございます」
「こちらこそ、その節は姫様が大変お世話になったそうで、本当に感謝しております」
シュイが目を丸くした。
「姫様! そっか、ここは王城の中なのか。道理で……」
シュイは寝ていたベッドの豪華さにようやく得心した。
「じゃあ、アミナ様はご無事、なんですか?」
「お陰様で大事には至りませんでした。もう公務に復帰しておられます」
「そうですか。……良かった、本当に」
「だ、そうですよ。姫様?」
安堵した様子のシュイを見て、リズはころころと笑った。
リズがそう言うのを聞いて、シュイは不思議そうな顔をする。と、リズの後ろからひょっこりと、銀髪の少女が姿を現した。二重の驚きで、何と言えばいいのか思い付かなかった。
「め、目覚めたようだな。此度は色々、その、世話を掛けた、な」
恥ずかしそうにもじもじとする少女の肩に、リズが小動物に触れるかのようにそっと手を置いた。淡い水色のワンピースを身に付けた少女の唇にはほんのりと赤い口紅が塗られており、深い緋色の瞳と相俟って大人びた印象を与えていた。白い革のベルトが腰回りを引き締め、スタイルの良さをも印象付けている。
「ア、アミナ様、ですよね?」
普段のジャケットとホットパンツではなかったものの、その面影に明らかな共通点を見出したシュイは恐る恐る訊ねた。
「う、うむ。や、やっぱりこんな格好は私には似合わぬな。すぐに着替えて――」
「――ま、待ってください! ……その」
慌てて部屋を飛び出そうとしたアミナを、シュイがギリギリで呼び止めた。
「み、見惚れてしまいました。童話の世界のお姫様みたいで、凄く素敵です」
その真っ直ぐな褒め言葉に、アミナの三角耳が慌しく動き始めた。が、その涙ぐましい放熱も込み上げてくる熱には及ばないようだった。褐色の肌でもそれとわかるほど、顔が火照っていた。
「リ、リズぅ」
「わ、私を見つめられても困りますわ」
頬を真っ赤に染め、助けを求めるような視線を送ってくるアミナから、リズは何とか顔を逸らした。見てしまえば自分にもそれが伝染してしまうのがわかっているようだった。
「あぁっ!」
唐突に、シュイが小さく驚きの声を発した。我に返った二人がシュイを見ると、感触を確かめているかのように自分の顔をぺたぺたと触っていた。ややあって、その顔がすぅと青褪めていく。
「ああ、そう言えば顔を隠されていたのでしたね。申し訳ないのですが、着ていた黒衣の方はあまりにぼろぼろで泥だらけでしたので廃棄処分にさせていただきました」
それどころか顔につけていたはずの魔法樹脂までがなくなってる。シュイは、いつ取れてしまったのか思い出そうとするが、心当たりがあり過ぎて確定のしようもない。
「そなたの素性のことなら安心しろ。現時点で知っているのは信頼出来る者たちだけだ。ランベルトとリズと私、それに王宮治癒術師が二名だな。一応全員に口止めはしてある」
「そ、そうですか。本当にすみません」
シュイは申し訳なさそうに謝罪した。
「謝るのはこちらの方だ。私を助け出すために、その、随分と無理をさせたようだな」
しおらしいアミナの言葉にシュイは呆気に取られたが、程なくして納得した。
「<滅祈歌>のことですね。今にして思えば軽率に過ぎる行為でした。下手をしたらアミナ様にも害を及ぼしかねなかった」
「滅祈歌、というのか。あの技、と言っていいのかはわからぬが」
考えている風なアミナに、シュイは一息おいて口を開く。
「あれは、<我が心身を修羅と化せ>といって、魔法言語の一種です。術者の周囲に存在する微細な力を掻き集めた後に、己の魔力と結合させて魔印に組み換えます。それで魔法陣を形成、展開することによって強化呪法と自己催眠を同時に掛けるものです。痛覚を遮断し、その他の感覚と身体能力を強化する。ある意味、強化魔法の集大成と言えるかも知れませんね」
「それは、凄まじいですね。そんな闘法があるなどとは終ぞ知りませんでした。ですが、それだけのメリットがあるならリスクも生半可なものではなさそうですが」
その言葉からはリズも何らかの武術を心得ていることが窺えた。シュイは口を挟んだリズに、少しばつが悪そうにうなずいた。
「おっしゃる通りです。身体能力を無理に底上げするわけですから、長時間使うと身体の方が過負荷に耐えきれなくなります。具体的に言うと全身の筋肉の断裂、神経系の麻痺。それと、戦闘中に負った傷。あくまで魔法陣の展開中に痛みを感じないだけであって、術効が失われれば痛みは一挙に襲ってきます」
アミナはシュイが絶叫した時のことを思い出したのか、ぶるりと身を震わせた。
「また、術者が使用する際の思念に共鳴した、ええっと。要するに詠唱の際に考えていることに似た想念が集まるのですが、掻き集めた想念の量が多過ぎると自我が抑制され、最悪取り込まれてしまいます。完全に融合したら、二度と戻ることは不可能だそうです。もっとも、記録に残っているだけでそうなった人を実際見たわけではありませんけれど」
「では、あのときも?」
「焦りと怒りに任せて、つい。考えなしと言われても否定できません。初めはコントロール出来ていたのですが、途中で感情を乱してしまったのか、自我が集まった怒りに呑み込まれてしまい、正直その後の記憶は定かでは――」
「――馬鹿者が! そなた、そんな危険な術を用いたと言うのかっ!」
いつの間にかベッドの間近まで歩み寄ってきたアミナが、体を強張らせながらも怒鳴った。
「返す言葉もありません。どうなるかもわからない博打みたいな魔法を使ったんです。処分はいかようにも受けるつもり――」
「――そんなことを言っているのではない!」
「……え」
「自我がなくなるということは、お前がお前でなくなってしまうということだぞ。お前と言う存在がこの世から消えてしまうのだぞ!」
「それは、そうかも知れませんが」
まだわからないのかと言わんばかりに、アミナは握る拳に力を込めた。
「そうかも、ではない! そなたは、自分に頓着が無さ過ぎるっ!」
アミナの目に涙が滲み出たのを見てシュイが慌てて頭を下げる。
「も、申し訳ありません」
「謝って済む問題ではない! 私が助かったとてそなたが助からなかったら、私はそなたを大切に想う者たちに何と詫びればいいのだ!」
返す言葉が見つからなかった。半ば、自分と己を対等に扱うアミナの情の深さに感じ入り、反して己の浅はかさに恥じ入るばかりだった。
「姫様。私も是非その言葉を使って差し上げたい方が一人いるのですが?」
背後からのリズの穏やかな声に、アミナが一瞬身体を竦ませた。
「み、水を差すでない! シュイ、此度のことに関しては言葉では伝えられぬほどの感謝がある。それを踏まえた上で敢えて言わせてもらう。もう何があろうとあの技は絶対に使うな。私との約束だ、いいな!」
「は、……はい」
シュイはそう答えつつも、既にニルファナとの約を違えてしまったことを思い出し、胸中では存分に後ろめたさを感じていた。
アミナは潤んだ目を袖でごしごしと擦ると、シュイに向き直った。
「戦いの最中に性格が攻撃的になっていったのはそういうわけだったのだな。合点がいった」
「すみません。その……生意気な口の利き方をしまして」
今度は、アミナは口元に微笑みを湛えた。
「そなた、先ほどから謝ってばかりだな。そんな瑣末なことは気にしておらぬ。まだいくらでも訊ねたいことがあるのだが、構わぬか? 疲れてはいないか?」
「大丈夫です。話すくらいなら何てことありません」
頭痛はまだ収まっていなかったものの、起きた当初よりは随分和らいでいた。シュイは布団を取り払おうとしたが、アミナが手で制止した。
「そのままで良い」
「で、ですがアミナ様が立たれているのに、それは」
「そなたのは名誉の負傷であろう、案ずるな。まぁ、こちらが立っているのがどうしても気になると言うなら椅子もあるしな」
「ここで宜しいですか? 姫様」
いつの間にか、リズが壁際に置かれていた三つの肘掛椅子の内、二つを拝借してきた。
「うむっ……て、リズ。何故二つも持ってきたのだ」
「あら、まさか姫様は私を仲間外れにするおつもりなのですか?」
「そ、そんなことはないが、シュイにだって聞かれたくない話というものもあるだろう」
「構いませんよ、アミナ様。リズさんは口も堅そうですし」
シュイがそう言って微笑んだ。
「そうですよ。エルクンド様もこう仰っておられることですし、ささ、姫様もどうぞお座り下さい」
そう言いながらもリズはちゃっかりと持ってきた椅子に腰掛けている。アミナは釈然としない様子で、それでもリズが奨めた椅子に腰かけた。
「では、何から話しましょうか」
シュイはベッドから向かって右側に置かれた椅子に座る二人を見比べながら訊ねた。
「本心を隠さねば初めから全てを、と言いたいところだが、そなたが話せると判断したところまでで良い。だが、イヴァン・カストラについては出来得る限り詳しく頼む。あやつを取り巻いている事情がわかれば、その狙いを予測して阻止できるかも知れぬからな」
「そう、ですね。あの、この話は絶対に漏らさないでもらえますか?」
「フォルストロームの名において、シルフィールの名において他言はせぬと誓う」
「私も、メイドの誇りにおいて他言は致しませんわ」
アミナとリズの宣誓に、シュイは小さくうなずいた。
「あのとき、イヴァンさんも少し触れていましたから、最初に断っておきます。一年半前、セーニア教国の騎士団長を殺した犯人について」
その言葉に、アミナとリズが目を見開いた。
「コンラッド・ディアーダか。い、いきなり核心ではないか」
「それを話さないと、おそらく納得は出来ないと思いますので」
「……うむ。そなたがそう言うならそれで構わぬが。それで、コンラッド・ディアーダを殺めたのは誰なのだ。やはりカストラのやつか? それとも他に誰か真犯人が?」
「誰か、ではありません」
「……あの、どういうことでしょうか?」
「彼を殺したのは……」
シュイはしばしの間口を噤み、掛け布団をぎゅっと掴んだまま目を瞑った。そして――
「俺、なんです」
重々しい溜息にも似た、小さな声を零した。