番外 ~お嬢様と執事(4)~
――シルフィール本部・最上階――
ラミエルは書斎机に頬杖を付き、物思いに耽っている。その向かい側ではビリーがラミエルの代わりに書類にペンを走らせているが、書類の向きはちゃんとラミエルの方に向いている。
「何だか少し頭が重いわ、ビリー」
「少し顔がむくみ気味のようですね、ちょっと失礼」
ビリーはラミエルの額に手を当てる。
「あら、大胆ねビリー」
「熱はないようですね、むしろ」
「むしろ?」
「ヒンヤリしている」
「ならいいわ。でも、何だか息苦しいわね」
「もしや、悩み事でございますか」
「確かに、悩みは尽きないものね」
「左様でございますね、お嬢様」
「でも、悩みは人を成長させる」
「私も成長するために日々悩んでおりますよ、お嬢様」
「あらそう、今日はどんなこと悩んだの?」
「珈琲と紅茶、結局どちらが美味しいのか、でございます」
「それは迷うわね」
「永遠の命題にございます」
「紅茶は今のために、珈琲は明日のために、ね」
「詩人でございますね、お嬢様」
「ということで、紅茶淹れてくれるかしら」
「畏まりました、お嬢様。ところで」
「何かしら」
「今日は中々イカした格好でございますね」
「わかる? 闇祝祭に備えているの」
「おお、レムース教の伝統ある祝祭で巨大西瓜のお化けを被る風習があるあのお祭り、でございますね?」
「……詳しい説明ありがとう」
「光栄にございます。もう一つ気になったのですが」
「なにかしら」
「くり抜いた中身はどうなされました?」
「ジュースにしたわ」
「おお、果汁100%の西瓜ジュース、ちょっと惹かれますね」
「後で一緒に飲みましょう」
「うれしゅうございます。では、先に紅茶をどうぞ」
「頂くわ、……あら?」
「如何なされました?」
「ぬ、脱げないわ、ビリー」
「お、お嬢様、お気を確かに」
「な、何故一度入ったのに抜けないの」
「ふむ、指輪に良くあるエピソードですね」
「そういえばそうね」
「夫を失った後も太って抜けない婚約指輪。ああ、何たる悲劇」
「……ビリー、私を放置すると後が怖いわよ」
「ぞ、存じております、お嬢様」
「何とかできる? ビリー」
「おまかせください!」
ビリーがラミエルの頭に触れるとそれは粉々に砕け散った。
「流石ね、仕事が早いわ」
「光栄にございます、心なしかむくみが取れましたね」
「後で作りなおすの、手伝ってくれるのよね?」
「え、……はい」