番外 ~お嬢様と執事(3)~
―――シルフィール本部・最上階―――
何かに聞き入っている様子のラミエル。手に持っているのは最近発売された伝達用の魔石だ。おそらく、誰かと交信しているのだろう。と、そこへビリーが紅茶ポットの乗ったトレイを持って入ってきた。
「お嬢様?」
「……」
「あの、お嬢様?」
「……」
「お嬢、様?」
「……1-11、1-11」
「もしや、何かの暗号でございますか」
「……来い、来い、来い、来ぉい!」
「……何となくわかりました」
1分後―――
「……ふぅ」
ラミエルはビリーの淹れた紅茶を飲んで一息付いた。
「残念でしたね」
「当たったわ」
「これは、予想外の展開」
「中継の人もそんなことを言っていたわ」
「ということは〝穴〟でございますね」
「穴。何だか卑猥な響きね」
「そう言われて初めて気付きました。これから意識してしまいますね」
ビリーは顔を赤らめる。
「そもそも、予想通りにいくはずはないわ」
「人生ままならぬものですからね」
「走るのは馬よ。人ではないわ」
「これは一本取られました」
「ふむ。仮に、競馬場で人が走るとしたら」
「相当に揉めそうですね。外枠か内枠か」
「馬達だってきっとそう。内心何で俺こんなに外なんだよゴラァ、て思ってる」
「表情がわかりにくいのも良し悪しですね」
「でも、内側は泥水が溜まるしぬかるみもあるのよね」
「……大分詳しくなられたようで」
「まるで人生の縮図ね」
「と、申しますと」
「内側はたくさんの人が走ろうとするから水が跳ねて泥塗れ」
「左様でございますね」
「外側は遠回り、時間がかかるから誰もが避けていこうとする」
「そして、大外からの鋭い追い込み。なるほど、人生ですね」
「届かずに終わるのも、また人生よ」
「深いですね、お嬢様。―――ところで」
「何かしら」
「お幾ら勝ったのですか」
「10万パーズ」
「おお、中々の高配当。今夜はしゃぶしゃぶですね」
「配当はもっと上よ」
「と、申しますと」
「ああ、ビリーの言っているのは勝ち負けの方ね」
「お嬢様が仰ったのは売り買いの方でしたか」
「御明察よ、ビリー」
「これは、不覚にも私の台詞が奪われてしまいましたね」
「油断は禁物ね、それで配当の方だけれど」
「ドキドキの瞬間でございます」
「147.3倍、だったかしら」
「素晴らしい! やはりすき焼きに致しましょうか」
「そうね、ところでどっちが高くつくの?」
「より良い肉を使った方でしょう」