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第三章 ~(3)~(改)

 ミルカたちを見送ってから掲示板に戻ると依頼書は大分剥がされていた。シュイは先ほど流し見たB級の依頼書をそそくさと確認した。

 しかし、影獣退治の依頼書は既に誰かに持ち去られていた。この短時間で取られてしまったことには悔しさもあったが、気を取り直してもう一つの方の依頼書を探してみた。


 ――えーと。お、<魔法教えてください>。間違いなくこれだ。



 ――B級任務、基本魔法の家庭教師、定員一名、報酬150万パーズ(達成後即払い)、任務時間未定 締め切りまで残り七日。



 シュイはざっと概要を確認し、任務時間が書かれていないことに首を捻った。次いで、きっと教える対象が覚えてくれるまでだろうと自得した。

 魔性を持たない者が魔法に開眼するためには、教え方以上に当人の才や姿勢に因るところがある。教師役である自分の教え方、生徒の課題に対する取り組み方、そして二人の相性が合致するかという要素もある。

 それから、基礎魔法と一口に言っても種類は色々あり、習得難易度も異なる。炎や雷を生み出して対象を破壊する攻撃魔法。信仰の強さや施術者の精神力で対象を癒す治癒魔法。異なる世界に繋がる門を創造して英霊の力を借りる召喚魔法。対象の持つ魔力と己の持つ魔力を結合する付与魔法。自分に内在する力や自然の力を増幅させる強化魔法等々。

 その中でも特定の覚えたい魔法があるのか。それとも基本に類する物ならなんでもいいのか。依頼書から読み取れる情報が曖昧に過ぎる、ともすれば不確定要素が多いため一抹の不安は拭えない、

 ただ、報酬の額は非常に魅力的だし、簡単な任務の可能性も十分にある。定員一名ということを考えれば、失敗したところで誰かに迷惑をかける事もない。

 ひとまずは依頼人の話を聞き、それから判断するればいいだろう。前向きに考える事にしたシュイは、依頼書を剥がして受付へと向かった。



「お疲れ様です。依頼の受諾手続きですね?」

「ああ、これをお願いしたい」


 そう言って剥がした依頼書を見せると、男性の受付員は恭しくそれを受けとった。


「承りました、身分証の確認させていただいて宜しいですか?」


 シュイは肯定の返事を返しつつ、皮袋から身分証を取り出して提示した。


「シュイ・エルクンド様、ですね。はい、結構でございます。ついさっきまで、依頼人の方がこちらにいらっしゃっていたのですぐ連絡を取ってみます。少々お待ちいただけますか?」


 シュイがうなずくと、受付は連絡用の青い魔石を引き出しから取り出し、念を込め始めた。ほどなく、青い石が砕け散り、代わりに水色の鳥を模した可愛らしい霊体(スピリット)が現れた。受付の手の平から羽ばたいた鳥は宙へと舞い上がったかと思うと、勢いよくいずこかへ飛び去っていった。



 それから五分ほども経っただろうか。いかにもどこかの貴族、といった感じの亜麻色の髪の女が姿を現した。貴族と言ってもひらひらのドレススタイルではなく、フード付きの青いケープに黒いベスト、白いズボンといった狩猟にでもいけそうなフットワークの軽い出で立ちだ。おそらくアウトドア派なのだろう。肌は綺麗な小麦色に日焼けしている。


「依頼を受けてくださる方が見つかった、と連絡を受けたのですが?」


 威厳ある態度で、女は受付に話しかけた。年の頃は三十には届いていないように思われた。


「はい、こちらの方です」そういって受付はシュイの方を示した。


 こちらを見た途端、女の顔があからさまに険しくなった。全身黒ずくめでしかも巨大な鎌を背負っているのだから無理もない、とシュイは独りごちた。


「……あなたが?」

「……ああ」


 失敗だったか。返事を返しながらも、シュイは(いぶか)る依頼人を前にして早くもそんな事を思い始めていた。依頼人が傭兵を信用できないとごねたらその時点で終わりだった。


 女はしばらくの間云々唸っていたが、シルフィールの知名度を考えたのか

「ま、まぁ人は見かけによらない、といった格言もございますものね。そうね、あなた、今ここで何か魔法を使ってくださるかしら」そう言った。実力を見て判断する、ということらしかった。


「は、はぁ」


 何を使えばいいだろうか。シュイはあれこれと模索を始めた。


 今のところシュイが一番得意と言えそうなのは付与魔法だった。ただ、それを見せるにしても、解いた鎌の布を巻き直すのが結構面倒くさかった。建物内で攻撃魔法、障壁魔法は論外。防御魔法はまだろくに使いこなせない。治癒魔法、そもそも怪我をしていない。


「……どうしましたの? 早く使って見せてくださらない?」


 気がつけば、周りにいる傭兵たちがちらほらと、こちらの様子に注目し始めていた。ただでさえさっき悪目立ちしたばかりだ。

 とっととこの場を切り抜けないと、などと焦り始めたとき、打って付けの魔法があったことを思い出した。


「……まさか、できないんですの? シルフィールの傭兵ともあろう者が――」

<これでいいかな?>


 途端、女が口を結び、周りをきょろきょろと見回し始めた。受付の男は、依頼人のその様子を見てきょとんとしていた。


<どうかしたのか? 魔法を使え、と言われたからやっているんだが>


 そこまで言われて、やっと謎の声の発信源が目の前の黒ずくめの男だと気がついたのだろう。見開かれた女の目がシュイをしげしげと見つめていた。その様子があまりにもおかしく、シュイは笑うのを必死に堪えた。

口を閉じるのも忘れていて、美人が台無しだった。


「あ、あなた、一体これは……」


 女がたどたどしく声を出した。


<念話というものだが、ご存知ないかな?>


 シュイは、自分の頭をトントンと右人差し指で叩いた。もちろん知らないはずが無かった。上級魔法の中でも使い手の少ないものとして知られている。


<で、どうする? キャンセルするか? それとも……>



――――――



 ギルド支部を出て女の後についていくと、背の高い外灯に一頭の立派な馬が繋がれていた。全身が黒く、毛並みも揃っている見事な若馬だった。人通りの多いところに繋がれていた馬は十にも満たぬだろう子どもたちに囲まれていたが、行儀よく主の到着を待っていた。

 女が一言詫びを入れると、子どもたちはいささか怯えた様子で馬から遠ざかった。その際には多分に視線を感じたが、気にしないことにした。


「あなた、乗り物は?」


 女が馬を繋いでいる紐を手際良く解きながら尋ねた。


 要らない。シュイがそういうと、女は何故か首を捻った。どうやら質問に対する答えの意図が違ったようだった。


「も、持ってないということかしら?」

「えっと? ……あぁ、そういうことか」


 シュイが納得したようにうなずいた。


「その、私の屋敷まで少し距離があるのだけど、あなたの分、馬を借りましょうか?」


 一応依頼を引き受けた、という事で気を遣ってくれているらしかった。シュイは小さく首を振った。


「大丈夫。二、三時間でいける距離なら、馬とそう変わらないスピードで走れる」


 シュイの返答を聞いて、女が思わず吹き出した。


「ウフフフフフ、お、面白い冗談ですわね」


 シュイは耳の辺りを掻きながら、冗談のつもりはなかったのだが、と宙に視線を彷徨わせた。


「まぁ、ゆっくり行っても一時間はかからないですし、いいですわ」

「まぁ、気を遣っていただくのはありがたいことだが」


 そう言いながらも辺りを見回したシュイが、ある一点で目を止めた。


「ご婦人、あの店が見えるかな? あのお花屋さん」


 シュイは50メードほど先にある、白い看板の店を指差した。


「え? ええ……」


 依頼人の女は怪訝そうな顔をしながらもそちらの店を確認し、うなずいた。相当に距離が離れていたため、眼を限界まで細めないとそれが花屋とわからなかった。


「じゃあ、三秒間だけ目を瞑ったらあの店を見てくれ」

「え、ええ。わかりましたわ」


 一体この男は何を考えているのか、といった様子で女は目を瞑った。


 ――3……2……1……0!


 女が目を開け、先ほどの花屋を見ると、店の前に見覚えのある格好の男が立っていた。えっ、と女が周りを見回してみた。つい先程まで隣にいたはずの男は、どこにもいなかった。



「はぁっ!」


 力強い掛け声と同時に黒い馬に鞭が入れられた。シュイは騎乗した依頼人に遅れまいと、畦道の土埃を浴びないくらいの距離を保ちながら後を追った。

 周囲にはのどかな田園風景が広がっていた。農水道では粉引き小屋に併設された水車が水飛沫を巻き上げている。畑の奥には鬱蒼とした森が見え、その上空を小さな鳥が群れて飛んでいる。段々になっている小麦畑の合間合間には、やはり水路が設けられている。チラリと後ろを振り返ると、既に長老樹の背丈よりも高い位置まで上ってきていた。


「そう言えば、自己紹介を忘れていたな。俺は、シュイ・エルクンドだ」

「エルクンドさん、ね。私の名前はケイ、ケイ・モーガンですわ」


 ケイと名乗った女は続けて尋ねた。


「それにしても、何故さっきは目を瞑らせましたの? そのまま走っても良さそうなものですのに」

「よりびっくりさせる演出だ。あまり気にするな」


 それを聞いたケイは、見かけに寄らず子供じみた事をなさるのね、と笑った。シュイは、子供で悪かったね、と聞こえないくらい小さい声で呟いた。



 美しい田園風景を抜けると、刈り込まれた植木の壁に割り入るように赤い薔薇のフラワーアーチがあった。薔薇のトンネルを潜り抜けると、眼前に蔦で覆われた古めかしい屋敷が姿を現した。三階建ての赤い屋根で、二階部分にはバルコニーが見えた。


 ケイはどぅどぅと手綱を引き、ひらりと馬から飛び降りる。そつのない身のこなしからすると、ケイも相当に活動的らしかった。やや遅れて、シュイも特に息を切らす事もなく辿り着いた。手すりに馬を繋ぎつつ、ケイは半ば呆れた様子で口を開いた。


「どんな訓練をしたらそんなふうに走れるんですの?」


 速度の事か、それとも持久力の事かと問うと、両方だ、という言葉が返ってきた。


「話せば長くなるが、コツを掴めば意外といけるぞ」と軽く請合った。ケイは半信半疑といった面持ちで、腕を組んだ。


「そういえば、魔法を覚えたいと言うのはあなたなのか? 少しは使えそうに見えるが」

「……いえ、私の……息子です」


 歯切れの悪いケイに、シュイは不思議そうな顔をした。


 ――子供か、ある意味楽かも。


 何を教えるにしても、大人よりは子供の方が呑み込みは早い。本人の感受性が非常に重要視される芸術や魔法なら尚更だった。


「まずは屋敷の中へお入りください。御茶でも入れますわ」


 ケイはそういって幾何学的な彫刻が施された木の扉を開け、シュイを招きいれた。



「おかえりなさいませ、奥様」


 二人が玄関に入ると、執事とメイド4人が出迎えた。執事は主人の後ろに続いたシュイに気づくと、その格好をじろじろと舐め回すように見始めた。シュイも珍しかったのか、執事とメイドとを交互に見つめていた。


「ただいま、ロディ。外の馬と、お客様の紅茶の用意をお願いするわ」

「畏まりました。……お、奥様。もしかしてこの方が?」


 ロディと呼ばれた執事はシュイに視線を移し、目を丸くした。


「ええ、家庭教師をしてくださるシュイさんよ。こんな格好ですけれど、魔法の腕は確かみたい」


 こんな格好。そんなに変だろうか。少しは傷ついてみせた方がいいのだろうか。シュイは少し項垂れてみた。


「お坊ちゃまをこのような者に任せて宜しいのですか?」


 そんなシュイの心情を忖度することなく、年配の執事はうさんくさい格好をしたシュイに対し、あからさまな侮蔑の表情を披露した。シュイはむっとして顔を上げた。


「魔法の才に目覚めるかどうかについては、教える側より教えられる側の姿勢に比重が偏ると言われている」

「……それはつまり、お主の教え方関係なしに、覚えられるかが決まっているという事か?」


 執事の顔が一層険しくなった。干からびた動物の糞の臭いを意図せず嗅いでしまったような顔だ。


「そこまでは言ってない。要は打ち込む情熱があるかどうかが肝心だってことさ」


 シュイはそう言って肩をすくめた。ニルファナ曰く、魔法は誰にでも使えるものだ。ただ、そのコツを掴むまでが大変で、途中で挫折する人間が多すぎるだけのこと。これはどの分野においても良くあることだろうから、魔法だけが特別と言うわけではない。


「ロディ、さっきからお客様に不躾よ。あなたの気持ちはわからないでもないけれど、私がそうと納得してお連れしたの」


 窘められた執事が小さく頭を下げた。シュイは、いい気味だとばかりにフードの奥で頬を緩めた。ついでに茶菓子を所望しようとも考えたが、さすがにそれは大人げないのでやめた。


「はっ、申し訳ありません。すぐに支度致します」

「ええ、お願いね。シュイさん、カイルは二階にいるのだけど、お茶の前に案内してもいいかしら」

「構わない」


 シュイはケイに視線を戻し、そう言った。こちらとしても、執事とこれ以上顔を突き合わせ続けるのは勘弁願いたいと思っていた。



 赤い絨毯の轢いてある螺旋階段を登ると、奥の壁に埋め込まれている美しいステンドグラスから柔らかい日差しが差し込んでいるのが見えた。二階に上がり、一番奥の部屋の前まで来ると、ケイがドアの方を向いた。口を開きかけ、すぐに噤んだ。明らかな躊躇の様子を目にして、シュイは首を傾げた。


「カイル、いるかしら」

「……何? ケイさん」


 部屋の中から小さいが、男の子っぽい声がした。


「以前魔法を覚えたいって言っていたから家庭教師を連れてきたの。鍵を開けてもらえないかしら?」

「……今、忙しいから」


 会話に明らかな違和感があった。お互いの言葉にどこかよそよそしさを感じた。少なくとも、家庭教師を連れてくることが子どもの方に告げられていなかったのは確かなようだ。そして、親の名をさん付けで呼ぶ子どもなどそうはいない。


「そんなことを言わないで、あなたもたまには外へ――」

「うるさいな!」

 怒鳴り声がドアを貫いて飛んできた。ケイは思わずたじろいだ。


「……カイル」

「ほっといてよ、……僕なんて別に死んだって良いんだ!」


 途端、ケイの表情が変化した。彼女が初めて見せた、今にも泣きそうな顔だった。


<ちょっと、下で話を聞いていいか?>


 青褪めたケイは、何とかシュイの方を向き、唇を震わせながら小さくうなずいた。



 屋敷の一階にあるリビングはかなり広々としていて、美しい柄の絨毯やシンボル入りの立派なソファーが置かれていた。壁には鹿の剥製や写真等が飾られていて、ぱっと見ただけでもなかなか裕福な生活をしていることが一目でわかった。


「……お恥ずかしいところを」


 ケイはシュイにソファーに座るよう薦めると、ぽつりと呟いた。


「いや、大体事情は飲み込めた。あなたは、あの子の生みの親ではないのか」

「……やっぱり、わかりますわよね。私は夫、ジェイク・モーガンの第二夫人です。あの子の母、ミゼルは私の親友で、あの子が生まれて直ぐに亡くなりましたわ。私はカイルが二歳の時に再婚いたしましたの」


 メイドが話の合間にティーカップを二つ運んで来た。それをテーブルの上に置くと一礼して直ぐに立ち去った。中身はミルクティーのようだ。シナモンの落ち着いた香りが部屋をゆっくりと満たしていくのを感じた。


「あの子の父親は?」

「カイルの父親、つまり私の夫ですが、セーニア教国の第二師団中隊長を務めておりました。私たちは二年ほど前まで、セーニアの城下町に住んでいたのです」


 フードの奥で、シュイの顔が一瞬強張った。ケイはそれには気付いた様子もなく、昔語りを続けた。


「優しい人でしたわ。そう、ちょうどその頃のセーニアでは隣国に対する開戦論が持ち上がっていた時期でした。夫は和平派についていたのですが、心労からか病に倒れ、急逝してしまったのです。あまりに唐突な別れで、葬儀の段取りやら何やらで悲しむ暇もなかった」


 一貴族の死ともなれば親しい関係の王侯貴族や商人はもちろん、友人知人、はたまた多くの部下や屋敷の住人など付き合っている人間は非常に多い。彼らに連絡を取るだけでも一手間だったはずだ。


「それは、気の毒だったな。それでこちらへ?」

「ええ、ここは私の実家の近くでしたので。ご存じのように空気は良く、自然も多いのんびりとしたところですから。子どもの教育には良いかと思ったのです。ところがある日、ついうっかりして置きっ放しにしていた戸籍票を見られてしまいまして、私が本当の母ではないことを知られてしまって」


 シュイはちゃんと聞いていることをアピールするように深くうなずいた。あの子、カイルは声の様子からするとせいぜい十かそこらだろう。多感な年頃にそのような事実を知ってしまったのだから、相当なショックがあっただろうことは想像に難くなかった。


「あの子は、自分が天涯孤独なのを知って自暴自棄になってしまったのです。一年ほど前からああして部屋に引き篭もってしまいまして、何度かは自分の手首を切りつけるような事も」


 そう言ってケイは眼をハンカチで拭う。

「それは心配だろうな。なら、あの依頼というのは?」

「あの子は、主人の生きていた頃から魔法に興味を示していたのです。本当なら、ちゃんとした魔法学校等に通わせて上げたいのですが、私たちの関係すらご覧の有様で」


 ケイは寂しそうに笑った。


「それで、家庭教師というわけか」

「……ええ。心から学びたい物ができたら、部屋の外にも出てきてくれるのではないかと。何より、少しでも生きる希望が見出せるのではないかと考えたのです」


 彼女の言葉と表情からは何としてもカイルを外に出したいという想いが滲み出ていた。健康面や精神面も気遣っているのはもちろんのこと、彼の将来も憂いているようだ。


「これも訊いておきたい。何でわざわざ傭兵ギルドに依頼を? 魔法の家庭教師なら探せば幾らでもいると思うが」

「ええ、実際のところ最初はそのつもりでした。これまでも何人かに手紙を出してみましたし。でも、一向に返事が来なかったんです。さすがに変だなと思い、伝手(つて)を辿って事情を探ってみましたら、つい最近になって腕の良い家庭教師の多くが派遣協会をやめてしまったようなのです」

「教師を、辞めた?」

「はい、何でも報酬の良い仕事が近隣の国にあるということで、そちらの方に向かわれたとか」


 少し話の内容にきな臭さを感じた。魔法の家庭教師を大勢雇用するまともな理由などそんなにはないはずだった。

 あるいは戦争の準備だろうか。国家間が至って平穏な現状で早合点は出来なかったが、全くないとも言い切れなかった。


「フリーの教師は当たり外れが激しいということですし、かといって著名な方は半年待ち、下手すると三年待ちといった状況です。ほとほと困り果てていたんですが、ある知人が勧めてくれたのです。シルフィールは他のギルドと比べて受けてくれる依頼の幅が広いし、腕も良い人が多いから一度行ってみてはどうかって」

「なるほど、大体事情は飲み込めた。じゃあ、最後の質問になるが、あなたはあの子を愛しているか?」

「当然ですわ! カイルの寝顔を見るたび、私が本当に生みの親であれば、と何度思ったことか」


 勢いよく立ち上がったケイの言葉からは一切の曇りも感じられなかった。



「そうか、なら問題ないな」


 おもむろに、シュイもすくっと立ち上がった。ケイは不思議そうに眉を上げた。


「ちょっとあの子を借りても良いか?」

「え? え?」


 話が飲み込めない、そう言わんばかりに口を半開きにしているケイに、シュイは畳み掛けるように言った。

 甘ったれた餓鬼に残酷な現実を見せてやる、と。

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