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・ザリンジ・ホスマン(清掃人・男)の暮らし  III

 まず先に、高い方の石とは何であるかを記しておこう。魔法使いの杖というのを諸君も知っているだろう。

 長い旅の間に身体を支えるため、地面を何度も突きながら、身体の重さにだって耐えるくらいに頑丈さも要求される、その類の長い杖である。

 最近は知識を求めて東奔西走する魔法使いというのも少ないし、別口の移動手段もあるため、徒歩での旅を選ぶ事も無くなって来ている。なので、わざわざこれ見よがしに持ち歩く魔法使いも少なくなっているが、未だに魔法使いの象徴であると、それを大事に所有している者が大半であるとの事である。

 そうして、その杖の先端には、やはりその魔法使いの特徴を示す、宝石や鉱石が取り付けられるものなのだそうだ。

 ザリンジ・ホスマンが言う高い石とは、その手の宝石であるとの事である。

 高い石と表現する以上、それは高く売れた事を意味しているのだろうが、それを聞いた時点で一つの疑問が我が輩の中にも浮かんでいた。諸君らのうちでもそうであろう。

 その様な高い宝石が、ゴミとして捨てられる事などあるものなのか?

 ザリンジ・ホスマンの答えとしても、普通は無いと内容のものが返ってきた。

 だからこそより一層、ザリンジ・ホスマンの記憶に、その宝石が強く残っているのだという。

 発端と言えば良いのか。前述した件の惨たらしい状況の実験室。そこを清掃してから数日後の事、廃棄予定品が集められる王立魔法大学敷地内の端の端にある小汚い小屋の中で、ザリンジ・ホスマンはそれを見たそうだ。

 小屋の扉を拓けば、迂闊に取り扱えば厄介な現象を起こすからとしっかりと区分けされ、並べられた廃棄物が目につく。

 しかしそちら側にでは無く、それとは別に、ちり紙やくず板やらが山となっている方に、それでも光に照らされて輝くその高い方の石を見たのだそうだ。

 ゴミの中から価値あるものを探して、懐に入れるという作業を何時もの日課にしていたザリンジ・ホスマンは勿論、その宝石に対しても同様に扱ったという。

 杖本体の材質は恐らく木材。それが先端付近で折れ、握り込める程度の短い木の棒になっているそれに、紫の色に輝く宝石は、木の先端部分に埋もれる様に付いていたらしい。

 それを一見したザリンジ・ホスマンは、まず、それを見て要警戒という判断を出したそうだ。

 確かにゴミの売却で金銭を得ているとは言え、そこにあって不自然なものには危機感を覚える勘というのも、職業柄あるらしい。

 気になるし、あれは高く売れるかもしれないが、一旦は放置。途中で何やら間違ったものを捨ててしまったという話が入ったり、他の清掃人や目聡い生徒が持って行ったのなら、きっぱり諦める。

 高そうに見える宝石みたいなゴミと、自分の今の家族を支えられる職業を天秤に掛ければ、どちらを選ぶかは当然に判断出来る事もまた、この手の職業に就く人間がけして愚かではない証左になっている。

 そんな判断力を行使した結果、ザリンジ・ホスマンはその宝石を知り合いの古物商に売る事を決めた。一週間程小屋に置きっぱなしにしても、誰からも何も言われなかったからだそうだ。

 小屋は厳重に戸締りをしているわけも無く、ザリンジ・ホスマン以外の人間の目にだって付いただろうに、その宝石はずっとそこにあったという。

 そうして、予想通りと言えば良いのか、ザリンジ・ホスマンがそれを馴染みの古物商へと見せたところ、それを高く買い取ってくれた。生活費にして数か月分。おかしな交渉などもせず、代金を受け取った後は、子どもにおもちゃの一つでも買って帰ってやるか、などと考えたそうだ。

 さて、ここまでの我が輩が書き綴った内容であれば、不思議な点はあるものの、ある種、ザリンジ・ホスマンの武勇伝に類する話になるだろう。

 清掃人の間で、上手くやったと噂される程度の話である。ザリンジ・ホスマン自身、ここまでは悠長に語ってくれた。彼の話す内容がやや重くなって来たのは、ここからの内容である。

 宝石を売り払ってからも特に変わった事は無く、あれはあれで美味しいゴミであったなと考える様になって来ていたザリンジ・ホスマンは、その考えを改める事柄にぶつかってしまった。

 あの宝石が、また同じ小屋で捨てられていたというのだ。

 紫の色をした、綺麗で、輝いていて、やはり折れた杖の先端についているそれ。

 ぞっとしたとザリンジ・ホスマンは語る。

 宝石がまた戻ってきた。この小屋に。どういう流れで?

 さすがにその宝石をまた売り払うなどという事が出来るわけも無く、ザリンジ・ホスマンは暫く、その小屋にある宝石を、無いものとして扱ったそうだ。

 好奇心はあれど、それに対する恐怖心とてあれど、最近良く食べる様になってきた三男の食費を稼ぐ方が、彼の悩みの種として大きかったのだとザリンジ・ホスマンは漏らしていた。

 だからこそザリンジ・ホスマンは深入りせず、一方で普段の仕事をしないわけにも行かず、その宝石に意識を極力向けない様にしたのだろう。

 それで良かったとザリンジ・ホスマン自身は語っている。その宝石を意識しない様にし始めてから暫くして、それは小屋から無くなっていたそうだ。

 損をしたなどとは現在、思っていないそうで、誰か別の人間が拾ったにせよ、本当にどこかに消え去ったにせよ、三度目が無かった事は幸運だと考えている。そんな風にザリンジ・ホスマンは語っていた。我が輩の目から見て、嘘偽りの色は無さそうであった事を補足しておく。

 これが高い方の石に纏わる清掃人ザリンジ・ホスマンの話である。高く売れた石の話であり、高くつきそうだった石の話でもあるという事だろう。

 一応、それを語るザリンジ・ホスマンは口淀んでいたものの、語り自体は流暢なものであったので、語り慣れては居そうではあった。恐らく、聞かせたのは我が輩が初めてではあるまい。それもここに書いておく事にしよう。

 もしかしたらこれまで我が輩が書いた内容も、清掃人の間で語られる、単なるお話である可能性もあるからだ。

 我が輩としても、どこまで真偽が確かであるかを判断するには、清掃人という職について知らない事が多い。

 ただ、ザリンジ・ホスマンが語る清掃人の仕事については、少なくとも生活感に溢れている。

 紙を無駄に使うので、この本には詳しく書けないものの、ザリンジ・ホスマンが話の合間に漏らす家族の話もまた、ザリンジ・ホスマンの実感に富むものであった。

 例えば今の仕事を長男に継がせるべきかどうか。魔法大学の清掃人という枠を継がせるのは、現在の世情を考えれば出来ぬ事だろう。なんならザリンジ・ホスマン自身、魔法大学には今後、居られなくなるかもしれない。

 一方で、清掃人という仕事そのものが無くなる事はあるまい。

 世間から清掃人は良く見られないものの、将来どこかで兵士として取られる可能性を考えれば、小汚くとも清掃人を継がせるべきか。であるならば、どこでどうやって仕事を憶えさせるか。などと悩むザリンジ・ホスマンの姿は、口伝人伝で語られる様な、曖昧な話では無く、確かな形となってそこにある、人間一人である事を感じられた。

 故にこの本を読む諸君らは、ここに書かれているものの真偽より、生活の匂いの様なものを感じ取ってくれれば幸いである。

 恐らく、それこそが、我等がサントクマルク王国というものであるからだ。

 偉大にして尊敬するべき王を抱く、肥沃にして富多き地サントクマルクという言葉だけでは伝わらぬ、我が輩達が生きた我が輩達のサントクマルク。

 それをこれ以降も我が輩は書き綴っていく。それをどう見るべきかについては、無責任やもしれぬが、これを読む諸君に委ねてしまう事にしよう。




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