さいごに
他にも数多くの人、仕事、暮らしがあるのが、我等が栄光あるサントクマルク王国であるが、用意出来る紙にもインクにも限りがある。多くの人々にこの本を届けるためにも、我が輩はここで一度筆を置く事にする。
簡素極まる形であり、紹介出来た街の数もせいぜい三つ。サントクマルク王国にはそれ以上の街が勿論、数多くと言える程に存在している。そこで生きる人々の数たるや、一つの街中を見渡すだけでも無数とも言える程に目に入り、それぞれがそれぞれの生活を続けている。
そんな国の只中で、我が輩一人が選んだだけの事柄を、ここに書き綴った形になる。それだけの物で、いったいこの国の何が現せるのか。そこについて不安が無いわけでは無い。
しかし、我が輩が書いた人々の生活も含め、まさにサントクマルク王国はここにあって、一目見るだけでも形あるものだと断言出来る、そういう類のものなのだ。だからこそ我が輩とて、紙面に筆を走らせる事が出来る。何も無い空に、空想だけでここまでを書く力は我が輩にはないのだ。
既に諸君らも知っている事だと思うが、サントクマルク王国はオグマドクト帝国との戦争に破れ、その存続すら危うい状況である。
噂で聞くに、我々サントクマルク王国に住んでいた人々という枠だけ残し、自治区だとか居住区だとか、そういう扱いとして帝国内に組み入れるというのが、オグマドクト帝国が隣国へ侵攻し、勝利した際のやり方であるらしい。
我々がそうなるとは断じられないが、そうなるだろうと予想は出来てしまう。そういう状況だ。
いずれ、何代も後の子々孫々が、サントクマルク王国など忘れ去り、我こそはオグマドクト帝国の臣民であると名乗る時も来るのだろう。
そうなった時、一目見るだけで、この国には形があった。サントクマルク王国とはこういう物であったと語れるものは、どれだけ残っているのか。
だが、それでも、この地で暮らし続けた者たちの痕跡の様なものは残り続けると我が輩は信じたい。暮らしの中で、サントクマルク王国というものの名残りがあり続けるのだと希望を持っているのである。
百年後の人々が、その名残りの中に、サントクマルク王国を見つける事が出来る様、拙著がその助力となる事を祈り、筆を置く事にする。
著者:カルノク・ディ・フォーク




