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・アダー・スン・ジャックス(戦争技術実験官・男) I

 サントクマルク王国に住む人々の在り方や生活を見せるという都合上、ここで書くべきか迷ったのであるが、面白い人間からその仕事内容や日々の生活を聞けたので、あえて書いておく事にする。

 実際、オズフリアンクが前線都市としてあった時には、まさに一風景としてもあった、戦争技術実験官という仕事についてだ。

 一定、サントクマルク王国においては相応の地位のある役職であろうが、所属としては国軍に属しているものであろう。

 元来、この手の役職というのは、高位のものであれば王都で働く仕事である。

 しかし我が輩がここで紹介する相手はそうではない。つまり立派な肩書の中においては、そこまででも無い地位という事だ。そうして主に、オズフリアンクで働いている。

 そんな仕事をしているのが、アダー・スン・ジャックスという男であった。

 大層な字面が並ぶ役職というのは、その字面を追えばそのまま仕事内容を現すものであるが、アダー・スン・ジャックスの仕事もそういう類のものだ。

 戦争に役立つ技術を実験するのである。

 アダー・スン・ジャックスは王立魔法大学を出た人間でもあり、そこで得た知識や技術を期待されて戦争技術実験官となり、さらにオズフリアンクへと配属された。

 何故オズフリアンクなのかについては、オズフリアンクが隣国との国境近くであるからが答えとなるだろう。

 本格的な戦争になる前から、隣国オグマドクト帝国は警戒するべき国であり、戦争関係の技術を研究するというのなら、まさに現場となるそこに、技術実験官を置くべきである。

 というのは実情であるが建前でもあり、正直なところ、その名の役職の中では下に見られる立場であるそうだ。

 アダー・スン・ジャックス自身、一応、貴族としての姓を持っているのであるが、話を聞いている間に感じた所作や言葉づかい、そうして生活態度については、一般の臣民とそう変わらないものであった。

 そういう部分が役職に就いた後も影響している。などと思うのは邪推かもしれないが、一応、参考までに書いておく事にする。話を聞いている相手がどういう立場なのかも、この手の話には重要であろう。

 そんなアダー・スン・ジャックスは前線都市オズフリアンクにおいて、日々、戦争に関わる技術の実験を行っている。

 その権限や種類は多岐に及ぶが、予算が無いし上から成果を出せとの圧が辛かったなどともアダー・スン・ジャックスは伝えてきた。

 当人から聞いた話の内容については、この様に愚痴が八仕事内容が二ほどであったが、二の方を書き記していくので安心して欲しい。

 そんなアダー・スン・ジャックスは魔法大学の出身であり、その仕事内容もそちらに傾きがちである。要するにひたすら頭を働かせる仕事という事だ。

 ある日、アダー・スン・ジャックスは弓矢には改良する余地があるのではないかと気付いたらしい。

 戦争における遠隔武器として魔法杖が作られてもう随分と経つが、それでも弓と矢というものはサントクマルク王国だけで無く、各国利用している武器であり、そこへの改善点を発見するというのは、まさに戦争技術実験官という仕事の一つと言えるだろう。

 勿論、実現出来ればの話である。

 アダー・スン・ジャックスの当初の考えとしては、弓か矢尻に彫り物をするというものであったらしい。

 ただの彫り物では無く、魔力を流す線なのだとか。

 その様な線で特定の紋様を描くと、特定の現象が発生する。魔法陣と呼ばれる技術らしい。そうしてその魔法陣を弓矢のどこかに刻み込む事で、弓矢に普通では無い現象を発生させようと試みたそうだ。

 実験そのものも簡単であったとの事である。そうでなければ、こんな文字通り辺境の街で行える物ではないなどとも言っていた。

 少なくともこの実験に関して言えば、アダー・スン・ジャックスの手先と魔力の扱いだけで可能な代物だったのだから、予算も対して掛けなくて済んだのであろう。

 なので、結果も早々に出た。彫り物をした結果として、確かに矢は従来のものと比較して、遠くに飛んだらしい。ならば成功かと尋ねてみたところ、大失敗だったと返って来た。

 弓の方に彫り物をしたらしいが、その遠くに飛ばす効果が出た実験を数度したところ、弓が折れたそうだ。

 どうにも彫り物をしたせいで、弓そのものの耐久性が落ちたらしく、さらに流す魔力からも影響を受け、道具としての劣化が早まってしまったとの事。

 いくら距離が伸びても、放てる矢の数が減じてしまえば性能が向上したとは言えないだろうし、アダー・スン・ジャックスもそういう結論を出していた。

 これで射出距離が飛躍的に伸びていればまだ一考の余地ありと言えたのだろうが、せいぜい数歩分だったそうである。

 ならばと矢の方に彫り物をしたところ、やはり耐久性が落ちたそれは、上手く刺さってくれず、しかも矢側のバランスが崩れ、的に狙いを付ける事も難しくなってしまったとの事。

 何より問題は、魔力を流すという技能がそれなりに学ばなければ出来ないものであるため、どう足掻いたところで、一般兵向けの代物にはならないという結論へ達したとの事。

 戦争のための技術を実験していくのだから、そこが致命的だったとアダー・スン・ジャックスは語ってくれた。

 一応、実験の経過と結果については報告書の形でまとめたらしいが、無駄な労力で終わってしまったかもしれないと、アダー・スン・ジャックスは自嘲と共に伝えてきた。

 ただ、我が輩がその話から受けた印象としては、そう卑下するものでは無いというものだった。

 この手の実験というのは、大半が無駄に終わるのだ。特にそれまでに無い技術を試すという場合、試行回数と種類の多さこそが重要である。

 これでも時代の先端を行く技術に関わっていた事もある身なので、アダー・スン・ジャックスより聞いた仕事内容については、一定、その役割を果たしているという気さえしたものだった。

 なんだったら、自分で思い付いて自分で試してみたという内容がすぐに出てくるだけ、上等と呼べるかもしれない。少なくとも、給金分の仕事はしていたのだろうと思われる。

 ただし、アダー・スン・ジャックス自身はそう思う性質の人間では無いらしい。

 真面目と言うのも少し違う印象はあるが、とかく自分の責務というものを重く考え、過剰に反応している印象があった。

 オズフリアンクの戦争技術実験官という字面に対して、地方所属の端役という意味では無く、国の状況を左右する存在という意味を見出している。そんな人間なのだろう。

 だからこそ我が輩がこの話を聞いている時、アダー・スン・ジャックスは戦争の敗北は自らに責があったという様な暗い顔をして、オズフリアンクの酒場の隅で酒を飲んでいたわけだ。

 それが出来るくらいに、アダー・スン・ジャックスは戦争を幸運にも生き残っていたのだ。戦争技術実験官という職こそ失ったものの、その技能と知識から、別の仕事を見つけてもいた。

 それはつまり、アダー・スン・ジャックス個人は戦前も戦後も、それなりに働いていた、それなりの人間だったという事を示している。気付いていないのは当人のみだ。

 何にせよ、アダー・スン・ジャックスは戦前も今も、余計な責任感を背負いつつ仕事をしている人間だったわけである。

 朝起きて、朝食を終える頃から、自分の能力と現場に揃っている器材、そうして与えられた資金を頭の中で整理しつつ、日々、それらで何が出来るのかを考える仕事を続けていたはずだ。

 周囲の評価も悪いものでは無かっただろう。少なくとも、良く分からない事をしているや、日がな一日仕事をしていないという評価とは無縁だったと思われる。

 特によく分からない事をしているという評価に関しては、アダー・スン・ジャックスの実験が卑近なものであった事から、無縁でいられたと見るべきだろう。

 例えばこの手の実験の中で、国や組織やらが力を入れて行う場合、世間からは何をしているのか良く分からないという意見が出がちなのだ。

 今では世間一般の目にも晒されている魔法杖などでも、サントクマルク王国が取り入れようとした際は、兵士が木切れで遊んでいるとか、どこからか来た怪しい連中が世の理を乱そうとしているなどと噂されたそうである。

 アダー・スン・ジャックス当人にとっては不幸であり、端から見れば幸運だったのは、その手の話に、やはり無縁な仕事だった事であろう。

 実験器具片手に地面を掘ってその特徴を資料に残したり、他人に質問をしてその答えをやはり資料に残すといった程度の事を日々続けていれば、何やら仕事を真面目にしているのだなと受け止められるだけだろうし、それが恐らく、戦争技術実験官という仕事の中で、もっとも安穏とした種類のものになるはずだ。

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