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・コルトナグ・バンド(自警隊員・男)の仕事について II

 さて、そんなコルトナグ・バンドの一日の仕事は、担当する道の見張りで足をくたくたにさせ続ける事で終わる。

 それなりに経験を積み、効率的なルートを頭の中で考えられたとしても、昼食を持って歩ける類の物で済まさなければ間に合わない時もあるらしい。大変な仕事であろう。

 日が暮れる頃になり、漸くその日の役目を終えた後は、再び詰め所に戻り、幾らか報告を終えた後に自宅へ戻る。もしくは酒場へと寄っていくというわけだ。

 これがレイネーレにおける、一般的な自警団員の、特に問題の少ない日の仕事である。

 つまり、問題の多い日の仕事というのは、また違うものになるわけだ。

 問題の多い日の頻度が多いのは困るが、それでも起こる時は起こるし、重なる時もあるものとコルトナグ・バンドは語っている。

 それは朝、詰め所に顔を出したタイミングで分かるそうだ。だいたい上役が怖い顔をしているので、そこで察するらしい。

 諸君にはこの上役という存在の説明からするが、コルトナグ・バンドの様な一自警隊員と違い、自警隊長や上級隊員とか、その手の名前が付いた役職を指す。名前の種類は色々であるが、コルトナグ・バンド曰く、とにかく特別な名前が付いていれば偉いは偉いと考えるそうだ。

 どっちの偉い人間どっちの偉い人間より上だ下だのははっきりと把握していない様で、一括りにして、偉い連中と呼んでいた。

 この認識はコルトナグ・バンドの不精から来るものというわけでも無く、他の隊員も似たような考え方をしていたらしい。

 つまり、それだけ一般隊員とその上に立つ人間とで、大きく身分の差があるという事である。

 相手の事を上手く想像出来ないというのはそういうものだ。我が輩が調べた限りにおいても、一般隊員の上に立つ自警隊員というのは、やはり扱いが違うものとして見えた。

 もっとも重要な部分の差異としては、やはりその手の上役の隊員というのは、給金の支給を受けていないという部分にあるだろう。

 勿論、飢えながら働いているわけではない。大抵、別口で生活のあてがある。

 土地を持っていたり、家が商家の大家であったり、誰かしらから生活費を貰っていたり、そもそもが貴族であったりだ。

 何故給金の出ない様な立場に、その手の人間が着こうとするのか疑問に思う者もいるだろうが、この手の職というのは、肩書が立派であればあるほど名誉にもなるのである。

 この名誉とやらには、むしろ損をしてでも得たいと考える人間が寄ってくる。

 一つの街の自警隊規模であれば無給で働く程度の損となるが、これが国全体に広がる組織の要職であったり、建国時点から存在する歴史ある肩書などであれば、自ら金銭を払ってまでも得ようとし、尚且つ、得られないという場合もあるというのだから、なかなかに遠大な話である。

 かくいう我が輩にも、その手の話が舞い込んできた事がある。興味は一応あったものの、手続きを進めるうちに酷く面倒臭くなり、その手の面倒臭さが、どれほど価値があるものかという馬鹿らしさにも繋がった結果、縁の無いものとなってしまった。

 ただ、この様な職が必要か必要でないかという話であれば、間違いなく必要であると分別ある我が輩などは言い切れる。

 面倒さと馬鹿らしさを背負い込む心と、そうして十分な財力があってこそ、その地位に付けるのだ。国や町にとってどれだけ価値がある人材か分かるだろう?

 今、この様に人々の生活を書き進めていると切に思うわけだが、人々にはそれぞれ、生きる世界や階級というものがあり、そうして、相応の苦労というものがそれぞれにあるのだから、そこを安易に馬鹿にする者こそ馬鹿と言えるのやもしれぬ。

 もっとも、その手の職や肩書も、今後は無駄な代物になるかもしれないが。

 閑話休題。とにかく、自警隊における上役という職は、金と手間を掛けるだけの時間がある者が就く職であるという事だ。

 給金無しでも働ける金と時間のある者が事実その通りであると証明する仕組みとも言える。

 これで真面目にその職務を実行してくれるのかどうか不安になる者もいるだろうが、そこは人それぞれだろうとコルトナグ・バンドも語っていた。

 いったいどこにそんなやる気がと思うくらいに日々真面目に働く者もいれば、顔を一切見ない類の者もいるらしい。

 それでも動くのが組織というものであろうし、何より、先程自警隊の一般的仕事で説明した通り、通常の仕事は一般の自警隊員がするのであるから、上役の仕事の様子がどうであれ、まさに通常であれば回るわけだ。

 ではその手の上役が何のためにいるのかと言えば、自警隊そのものの方針を決める会議などが適宜開かれて、そこで結論を出すのが一つ。組織の意思決定者がまさしく上役であるわけだ。

 それだけでは無い。さらにもう一つがある。自警隊にとって通常ではない仕事。しかしそれは起こり得る類のそれ。街において、影響の大きい事件が発生した時である。

 例に出すならば、飛空船が街中に落下したり、突然の赤い嵐の後に、赤い魚が街中に溢れかえったりといった事件だ。

 この手の多くの人間の口々に話され、影響の範囲も大きな事件というのは、何らかの解決に至らせるというのがある種の名誉になる。

 むしろ自警隊における上役に就く目的というのは、そういう類の名誉を得るための部分が大きい。

 これも例であるが、王都に出没した盗賊集団として有名なオビラズム一党の一斉捕縛を行った、マスラビ・ドンドリア治安維持官の名前など、知る者が多いだろう。もう二十年も前の話だというのにだ。

 時に、ある種の英雄と言っても良いくらいに名を知られる事があるというのは、既に何かしらの財力を持っている者にとっては、喉から手が出る程に欲しいものらしい。自警隊はその欲求を叶えるための装置という性格もあるのだろう。

 つまり、不謹慎極まり無いかもしれないが、レイネーレにおいてそれだけ影響の大きい事件が起きた場合、自警隊内部の上役と呼ばれる人間たちのやる気が増すという事である。

 コルトナグ・バンドの仕事の話に戻せば、ある日、コルトナグ・バンド自身が自警隊員仲間や親しい知人から、街中でこういう事件があったみたいだと聞く事になる。

 それを聞いた時点で、嫌や予感を胸に抱えつつ、心の準備を行うのだという。

 明日の朝、詰め所に向かった時は要注意だなと。

 多くの場合、その手の心の準備は実を結ぶも、まったくもって喜ばしい状況とはならない。

 コルトナグ・バンド。今日の見回りは良いから、どこそこの誰々の指示に従って働け。という様な言葉を耳にしてしまうからだ。

 例え予想が当たったとしても、うんざりする話でしか無い。

 もしくは、既に詰め所に普段居ないはずの上役に、自分の元で働けと言われる場合も、同様の感情を抱く事になる。

 コルトナグ・バンドの様な自警隊の下っ端というのはつまり、小間使いに近い役目でもあるのだ。逆らう事なんて出来ないから、覚悟をしつつ、給金がその分上がってくれれば良いのにと心の中で愚痴を言うだけ。

 この様な状況は、事件の発生と同様、頻繁には無いが記憶と経験に残り続けるくらいにはあるらしい。それを我が輩が聞くより前に、直近にあった事件をコルトナグ・バンドは思い出し、話してきた。

 殴殺ボニー事件である。


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