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・コルトナグ・バンド(自警隊員・男)の仕事について I

 レイネーレだけでは無いが、比較的大きな町には、町と住民が運営費を支払う形で、自警隊が組織されている。

 古くは町の有志が集まり、さらに裕福な者の資金援助に寄って、独自に治安を守るという事がされており、自警隊というのはその手の集団や関係性を始まりとしている。

 一方、昨今においては、町そのものが税を取り、そこから運営費用の多くを捻出するという形態が多くなって来ている様だ。

 この手の武力を持つ事が必然とされる組織は、村や町、引いては国の元で、一元的に管理されていく。そんな方向性が、サントクマルク王国においては出来上がりつつあったと言えるだろう。

 直近の戦争において、個人個人の努力だけで自警隊を維持するのが困難となったという現実もある。

 何はともあれ、レイネーレの自警隊もその例に漏れず、レイネーレ在住の臣民から徴収された税により、その隊員を養っていた。

 つまり、そこで働く自警隊員というのもまず間違いなく、街の風景であったのだ。

 なのでここでは、その元自警隊員であるコルトナグ・バンドという男に聞いた話を書き綴っていく。

 コルトナグ・バンドは現役であった頃、とても活躍していたという事も無く、自警隊員の中でも一般的な立場であったと言う。

 それがどういう立場かと言えば、仕事を探し、街の片隅で貼られた募集のチラシを見て、自警隊の門戸を叩いて後、もっとも下の階級として採用された者という事だ。

 この手の一般的な自警隊員の仕事は、さらに上級の自警隊員の使い走りだったり、手伝い、日々街中を歩き回っての治安維持というものが大半である。

 支給された制服と腰に差した短めの剣を帯び、街を歩くだけでも、街中の厄介な事件というのは起きる前に防がれているのだとコルトナグ・バンドは語るが、一方で一日中歩き回って、足をへとへとにさせたとしても、その給金はなかなか厳しいものであったらしい。

 街の治安を守るついでに自分一人を食わせるための仕事であって、家族を養わせるための仕事では無いとはコルトナグ・バンドの言だ。

 そんな仕事の詳しい内容についてだが、やはりまあ、足を動かし続けるものであるらしい。

 朝起きて、身支度を済ませたコルトナグ・バンドは、街に幾つかある自警隊員用の詰め所へと向かう。

 年に一度、どの詰め所の配属かが決まるそうで、一度それが決まると、週一の休養日以外の朝はそちらへ向かう事になる。

 詰め所内においては、やはり同じ様にその詰め所の配属になった自警隊員が顔を出しており、それぞれ挨拶と共に幾らかの会話が行われるそうだ。

 この時、定例外の仕事があればそれに動員される事となるわけだが、そうでも無い日の大半は、今日はどこそこの見回りをするとだけ伝えて、詰め所を出る事になる。

 その後は歩き続ける。ひたすら歩きである。

 自警隊員の数に対して、レイネーレの街並は広い。基本的に、自警隊が存在する様な街は常にそうなのであるが、水路の多いこの街は通路が入り組んでおり、街を見回るという作業もそれだけで複雑になりがちだ。

 新人の自警隊員がはりきりながら、地図を見てここからここまでを今日の見回り範囲とすると言い始めれば、優しい目で見つめつつ、内心で明日、こいつは足が動かせなくなるだろうと考えるのが、恒例のイベントになるほどだという。

 コルトナグ・バンドの場合、既にその通過儀礼を何年も前に終えた、経験を積んでいる自警隊員だったそうだが、それでも自警隊の中における地位は、街の見回り役であり続けたらしい。

 そんなコルトナグ・バンドが詰め所を出て、担当する通りまで足を進めるにあたり、まず注意するのが道の端であるという。

 ゴミというのが通りの中心では無く、端へ端へと溜まっていく様に、自警隊が注意しなければならない物というのも、どういうわけか通りの中心では無く端にあるのだそうだ。

 具体的には、どこから持ってきたか知らぬが壊れた本棚の様なものが捨てられていたり、誰の許可も取らぬ建築物の端材が置かれていたりするのだそうだ。時に酔っぱらった人間が捨てられている場合もある。

 コルトナグ・バンドの記憶に、鮮烈に刻み込まれている物の中には、なんと馬の屍骸が転がっていた事あったらしい。

 自警団員はそういう道の端に転がっているものに対して、どう対処するのか。尋ねてみたところ、コルトナグ・バンドはどうしようも出来ないと返してきた。

 そういう、そこにあって困る類のゴミというのは、自警隊員だって困るのだそうだ。

 ただ、一般人と違う部分として、では誰に任せれば良いかを知っている。それが一人前の自警隊員なのだとコルトナグ・バンドは語っている。

 廃材ならばどこそこの大工が引き取っているだったり、酔っぱらった人間はどこの家の旦那で、どの奥方に伝えれば良いかだったり、馬の屍骸の鮮度を見て、これは肉屋の仕事だなと判断したりもする。そんな仕事をスムーズに出来る者こそが自警隊員なのだという。

 そうなのかといまいち納得しがたかった我が輩に対して、コルトナグ・バンドは勿論、怪しい人間がいないかどうかを警戒したりもしていると釈明してきた。

 ただし、日の高い街中を出歩いている最中に、その手の怪人物と出会うなどは、そう頻度の多いものではないらしい。

 街全体で言うのであれば、一日に数名は必ずいるだろうが、自分の持ち場においてその数名が現れる頻度というのは、それほど高く無いのだそうだ。

 だいたい週に二か三度。面倒な仕事であろうし、時に嫌な顔をされる事はあるだろうとは思うが、自警隊員の仕事として、多くを占める事は無いという事だろう。

 故にコルトナグ・バンドは、記憶にしっかり残っている自身の仕事として、道の端のゴミの処理について語り始めたのだと思われる。要するに、そっちの方が多く忙しかったというわけだ。

 この手の話を書いていると、ならば自警隊員などぶらぶらふらつき、時折面倒に巻き込まれ、とりあえずの解決をする以外に役割が無いと思われるかもしれないが、我が輩個人の印象としては、そこまで役立たずでも無い。

 道の端のゴミにしても、道中の不審人物への対応にしても、自警隊員は道と繋がりがある。自警隊員は毎日、担当された道を見回るというのもそうだ。

 つまり、それが自警隊員の仕事の本質なのである。

 自警隊員は制服と剣というものを自警隊より支給されている。仕事中はその支給された物を装備する事が絶対であるし、デザインを勝手に変更する事も禁止されているというのは聞き取り済みだ。

 誰がどう見ても、自警隊員の仕事をしている者は、それが自警隊員であると分かる様にしているのだ。

 そんな自警隊員が常に道を歩き、見回りをしている。それだけで、街に害を与えようとする誰かの考えを抑制出来るという事だ。抑制する以上、それは見えぬ部分であるから、効果もまた分かりにくくはあるだろう。

 しかし、無視出来ぬだけの効果はあるはずだと我が輩などは考えている。

 今日が平和だと考える者がいるならば、その平和の一割くらいは自警隊員の存在が担っているはずである。

 それを実感する様な事もまた、最近あったのではあるまいか。戦争でどこの街も自警隊員の一部が徴用された事は記憶に新しい。

 そうなった時、隊員不足が出た街の治安というのは、目に見えて悪くなっただろう。

 その手の甚だ不本意な状況になった時に実感するしかないのだとしたら、やはり、普段は無用なのではと思いつつも給金をしっかり支払い、自警隊員を街が雇っておくというのは、意味のある行為だと言える。

 それに、コルトナグ・バンドが何度も漏らしていた様に、自警隊員に支払われる給与はあまり高く無いのだし。


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