訓練
訓練場に立つと、風が乾いていた。
砂の匂い。遠くで誰かの掛け声が響く。
沖と潔が着ていたのと同じ、赤黒い袴を渡される。
「これが鬼哭隊の制服だ。刀で斬っても傷一つつかない」
重みのある布が肩にのしかかる。
春は袖を通しながら思う——これを着た瞬間、もう戻れない気がした。
「これが刀だ。初心者のお前用に、一番軽いものを宛がわせた」
「宛がわせた…?」
「それも巫女の仕事だ。彼女たちは俺たち隊員の世話から炊事、刀鍛冶や隊服の整備…。
俺たちの刀も服も、みんな彼女らの手製だ」
姫巫女隊とは、完全なるお世話係なのだなと何となく思った春。
そしてもう一つ気になることを聞こうとする前に
刀を渡された。
「重…っいんだね」
「刀の中でそれは一番軽いものだ。脇差と呼ばれるもので、俺の使うものと同じだ。
刀は必ず毎日の手入れが必要になる
いいな?」
毎日の手入れと言われても…と思いながら、刀を鞘から少し抜いて見る。
刀が刃こぼれ一つしておらず、きらきらと輝いているのを見て、少しひやりと胸の奥がざわついた
それが恐怖か、興奮か、わからない。
「本来、鍔をつけることがないものだが、お前は危なっかしいから大脇差に鍔をつけてもらった」
刀を指さして手元にある丸いものを説明してくれた
これが刀の鍔と呼ばれるものらしい。
______
竹刀で稽古をさっそくつけてもらっている。
沖はどうやら説明をするのが上手いわけではないらしい
「こうやって、こうだ!いいか?こう振るんだ」
先ほどからこのような説明である。
春は必死に真似をする。
__が、刃筋がまるで合わない。
その様子を見て、沖は一瞬だけ表情を引き締めた。
「……刀ってのは、命を奪うものだ。遊びじゃない」
そう言ってから、またいつもの調子で竹刀を振るう。
春は、彼の言葉の重さを理解できずにただ頷いた。
「今日はこの辺にしておいて、次は刀の手入れの仕方を教えてやる」
そうして一日が終わった。
訓練の生傷が絶えない中、風呂に入っていると傷がやはり痛む。
__空を見上げると三日月が美しく輝いていた。
「あぁ、綺麗だ」
この世界に来て、初めてっ心がほっとする瞬間に出会えた来がした。
「俺、何で記憶ないんだろう。なんでこんなことになってるんだろう。
家だ、そうだ__家族は俺のことをどう思ってるんだろう、、何も思い出せない。何も」
そう独り言を思わず呟いてしまう。
___「俺も同じだ」
突然声を掛けられた。。そこを見ると、沖が春の方を見ていた
タオルを肩にかけていて堂々たる様をしている手には護身用の刀が握られていた。
沖は体を流し、湯船に入ってきた。
「俺も、お前と同じで記憶がない。
記憶は何も…何もかも覚えていない」
そう訝しげに言う沖。
「沖という名前も。木蓮さんがつけてくれた、海辺の方で拾われたから”沖”。単純な名だ
俺は木蓮さんに剣を教わった。
あの人は動きに無駄がなくて、教えてもらうのも一苦労だ…。なかなか難しい説明に俺もためらったよ」
まるで、自分の説明は上手くないことを自覚しているかのような口ぶりだった。
沖は孤独そうに見える、だからいつも巫女隊の”凪咲みこ”と話をしているように、春の目にはそう映った
【鬼哭隊噂話】
沖「木蓮さんは実は柿が好きらしい」
春「それ、誰情報?」
沖「本人が柿を盗み食いしながら言ってた」
春「…」




