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「霊力の脈が滞ってた事は、藤柯(とうか)にバレてたんだね」

藤柯はこくりと頷く。

「そこに霊力を通そうとするから、上手く力が出ないんだって。それなら、いっそ閉じたら普段通り使えるんじゃないかと思って……」

それで、自分で右腕に通じる霊力の脈を破壊したのか。

「痛くなかったんですか」

「…痛かったかな」

翠嵐(すいらん)は一瞬強張った体を意識的に緩めるように脱力し、息を溢すように笑った。その姿に藤柯の方が胸を締め付けられる。

「本当に、右手は何も感じないんですか」

「今は何も。リハビリしたら動くようになるらしいけど、閉じた脈は元に戻らないって。…せっかく藤柯に手を握ってもらえてるのになあ」

残念そうに言う割に、そこまで悲愴感は感じられない。

何でそんなに、割り切れるのか。

何でこんなに藤柯の方が悔しいのか。

彼の右手を自分の心臓の上に持っていく。

「なら、これも分からないですか」

翠嵐の手の下で、藤柯の心臓は痛いくらい大きく脈を打っている。

何回も何回も打ち付けているんだから、一回くらい分かってみろよ。

分かってみてよ。

ぐっと自分の胸に翠嵐の手を押し付け、密着するように彼の肩に頭を預けた。

「…なんで今日はこんなに可愛いのか」

「反省してください」

「してるしてる、とてもしてる」

ずるいなと翠嵐が嘆く。

何もずるいことはない。

翠嵐が普段ひっついて離れなかったのをやり返しているだけだ。

それに「死ぬかも」っていう時に、藤柯を思い出したなんて言う方がずるい。

無事なのかも分からず不安で、何の知らせもないまま日が昇って沈んでいく。

その回数が増えるにつれ、どれだけ心細かったか分かるのか。

帰還の報告を聞いた時も、翠嵐の無事を確認したくて堪らなかったと言ったら信じてくれるか。

翠嵐の言う通り鈍くて何にも分かっていなかったけど、ずっと翠嵐が大切で特別だった。

これが『大切』でなければ、もう一生大切なものは見つけられない。

「帰ってきてくれて良かった」

何かが胸の奥から込み上げてくるせいで言葉尻が揺れる。

小さく鼻を啜ると左腕だけで抱きしめられた。

少しの間、お互いに何も言わなかった。

喋る余裕なんてなかった。

ただ何も零さないように必死に堪えるだけで精一杯だった。

「帰ろう」

翠嵐が藤柯の手を引く。

宥めるように優しく握ってくる手を、藤柯はずっと見つめていた。




翠嵐(すいらん)の部屋に着くまでずっと手は繋がれたままだった。翠嵐の手の温かさが触れた皮膚から伝わってくる。

「宴会は?」

「怪我人に飲ませる酒はないんだってさ。…藤柯(とうか)、本当に酷いクマだね」

翠嵐が藤柯の顔を覗き込んだ。

歩いている内に涙も辛気臭い気持ちも全て引っ込んだ藤柯は、彼から顔を背けて悪態をつく。

「誰のせいだと思ってんだか」

「そうだ、一緒に寝よう。俺、暖かいから一緒に寝たら安眠できるよ」

話を聞け。

世紀の大発見だとでも言いたげに瞳を輝かせるな。

「…結構です。帰ります。むさ苦しい」

まあまあ、と翠嵐は楽しそうに藤柯を引きずって寝台に放り込む。

片腕でも馬鹿力だ。

藤柯を放り込んだ後、すぐに翠嵐も寝台に上がってくる。

表情は楽しそうなのに、逃げられたら困ると物語る目が真剣で怖い。

「ね、ほら温かいでしょ」

翠嵐がぎゅっと藤柯を抱き寄せる。

彼の言う通り、藤柯より少し高い体温は睡眠不足の体を心地よく包んでくれる。

だめだ。侮っていた。本当に気持ちいい。

背中に回った手は、トントンと心地いいリズムを刻んでくれる。

そのおかげで、数分もしないうちに抗えない眠気に襲われる。

より快眠できそうな体勢を探そうと体を動かしていると、無意識に体をすり寄せてしまった。

それを感じ取った翠嵐が小さく微笑んだような気がする。

確かに何日かぶりに熟睡できそうだ。

このまま意識が落ちるように眠らせて欲しい。

「好きだよ、藤柯」

甘く囁く彼の声が聞こえた気がする。

耳に届いた声が夢か現実か分からない。

眠すぎるせいで聞き間違えたのかもしれない。

寝かしつけられている藤柯は、言葉を発する気力もかき集められなかった。

だから、代わりに彼の胸に頭を擦り寄せる。

明日起床したら、朝イチから戯れてくる男の相手をしなければならない。

そんなこと、以前までは面倒だし、首輪でも何でもつけて軍部から出してくれるなと思っていたのに。

今では自分の周りをチョロチョロされるのも悪くないと思ってしまっている。

主人の周りをテンション高く飛び跳ね回る大型犬を想像すると可笑しくなって小さく吹き出した。

仕方がないから、藤柯の名入り首輪で繋いでおいてやろう。

そんな想像をしながら藤柯は眠りについた。



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