創造の魔女 ミーシャ
新作までの間の、思い付き短編…魔女シリーズ
5人の魔女のそれぞれの日常的な内容ですが、
気に入ってくだされば幸いです
…魔女と言うものは、基本的に悪魔と契約し、望んだ力を扱えるモノ。
その中でも、この世界において5大魔女と呼ばれるものが想像しており…そのうちの一人が、『創造の魔女』と呼ばれたミーシャである。
「…そんな魔女に、このたび助力をお願いするために向かうわけだが…果たして、結果は得られるだろうか」
「デュメレン宰相、大丈夫です。きっと、我々が誠心誠意、交渉すれば応じてくれるでしょう」
その創造の魔女が住まう、破滅の森と名付けられたおどろおどろしい動植物が跋扈する森の中、デメキンダネ王国のデュメレン宰相は馬車で魔女の元に向かっていた。
その理由は、王国のとある改革案のために魔女が必要であり…その力を借りれないか交渉するためである。
「そして、ようやくたどり着いたのは良いが…何だ、このギャップは」
兵士たちにも守られながら、たどり着いた魔女の家。
この地であればこう、もっとボロボロな小屋風と言うべきか、ともかく恐ろしげな魔女の家を想像していたのはあった。
しかし、実際に見てみればどうだ。
「…何で、お菓子の家なんだ」
見れば、あちこちがチョコやクッキー、飴細工などで工作されたお菓子の家で、甘い香りがあたりに漂っている。
蟲とか寄ってきて悲惨な光景になりそうなものなのだが、魔女の家と言うこともあってか、魔法か何かで保護されているらしく、清潔さは保たれたままであり、事前に覚悟してきた恐ろしい家の光景を想像していた身からすれば、拍子抜けしそうなものではあるだろう。
これはこれで、ある意味間違っていないのかもしれないが…子供たちに読み聞かせするための、恐ろしい魔女話はいくつか存在しており、その中に菓子の家に住まう魔女と言うのもあるため、このような家が出来ていてもおかしくはないのだろう。
とにもかくにも、扉を見つけノックをすれば、ちょうど魔女がいた。
「…おや、人間か。この森に来るなんて、珍しいね」
「突然の来訪、申し訳ない。伺いたいのだが、貴殿がその…創造の魔女、ミーシャ殿でよろしいだろうか」
「ああ、そうさ」
ふはぁっとたばこの煙を吐きながら、出てきたのが今回の目的の魔女。
しかし、老婆のような見た目を想像していたのだが、どうも裏社会の女ボスと言うようないでたちの姿をした見麗しい美女でもあり、その雰囲気と相まって宰相は困惑しかけたが、間違ってはいなかったようだ。
「ふぅん、何か目的がありそうだね…ここで立ち話もなんだい、中に入ると良いさ」
「あ、ああ、ありがたい」
魔女に招かれ、デュレメン宰相は魔女の家の中に入り込んだ。
護衛も中に連れてくるべきだろうが、それは魔女に拒否され、仕方がなく一人で入ったとはいえ…中は中で、お菓子の家のそのままの光景で、クッキーで出来た椅子や、チョコで出来た床など、ここも甘い香りで満たされていた。
「…その、なんだが、このお菓子の家のつくりは、魔女殿の趣味…なのだろうか?」
「ん?ああ、違う違う。これは今度、夫がいる国の孤児院に寄付しようと思って、住み心地をチェックするために、一時的に元の家と交換しているだけのものさ」
「そ、そうか…ん?夫、だと?魔女殿、結婚をしておられるのですか」
「ああ、そうだね。三日前に結婚した。正確に言えば、創って速攻で籍を入れたのさ」
…何かいくつかおかしい話が入ったような気がするのだが、気のせいだと思いたい。
速さはともかく、魔女と婚姻するようなもの好きがいたのか、それとも「創った」の部分を受け止めて置けば良いのか、考えたらきりがない予感がしたからである。
「とりあえず、さっさとここへ来た要件をよこしな」
「あ、はい。ええとですね、じつは…」
魔女の雰囲気に流されそうになりながらも、デュレメン宰相は魔女の家の訪問の目的に関して、正直に話した。
話を聞き、ふんふんと相槌をしながらも、魔女は考え込む様子を見せる。
「そっか…デメキンダネ王国の領土拡大のために、帰らずの森へ侵攻をかけたいと」
「それを提案されたのは陛下では無く、軍務大臣のボウジャックなのだが…無茶だなと思うものが多いのだが、それでも最近力を付けてきた家でな。すぐに却下もしきれなかったのだ」
「それで、どうしたものかと悩んだ挙句に、その森に住まう奴らを排除するための戦力があればいいとして、一旦私へ助力を願うごまかしでやってきたと」
「ああ」
正直な話、魔女との交渉は発案者がやれと思うところはある。
それに、帰らずの森…5大魔女の一人が住まう地に対してのやらかしはどう考えてもハイリスクすぎるので、無理だと判断させて終わらせたいのだ。
「なるほどねぇ…一応は、国防の要でもある軍を統括するおバカさんで、力を付けてきちゃってやりにくっから、こっちで断られてなかったことにしたいのかぁ…ふぅ、その話、どちらかと言えば悪食の教信者の魔女のほうに流せば、嬉々として迎えに行くと思うよ」
「そうなのですか?」
「ああ、間違いないね。そのおバカさん、魔女に対しての認識がどうも甘すぎる。だからこそ、認識させるには、もっとやばい奴に相対してもらえばいいのさ」
にやりと微笑みながら、そう提案してくる創造の魔女。
盛大に悪だくみをしているような表情だが、間違ったことは言っていないはずである。
「紹介状を書いておくよ。あとで話しに向かいな。ああ、手土産として、物凄く魂がどす黒く濁っていそうなやつらも持ってくれば、もっと快く引き受けてくれるだろうねぇ
「は、はい。ありがとうございます」
さらっと贄の要求のようなものが出たが、この無茶な案に対しての強い抑止力になってくれるのであればありがたいモノ。
そのため魔女にお礼を言い、宰相はすぐに紹介状を貰って向かうのであった…
…それから1カ月後。どうやら目的は無事に果たされたらしい。
「魔女殿、このたびはご協力をありがとうございました。つきましては陛下より、お礼の品々を持参してきたのですが…今度は何ですか、この建物」
「ああ、これは将来的に夫から搾…ごほんっ、ともに楽しむための家を創造しようとしてね、試行錯誤中の試作品さ」
宰相が国王から持たされたお礼の品を渡すために、再び森へ訪れれば、今度はお菓子の家から何かの城のような建物へ変貌していた。
「…失礼ながら、その夫は他国にいるのでしょうか」
「ああ、そうだね、こことは違う地で今、一生懸命学び舎にも通っていてねぇ…ふふふ」
にやりと笑みを浮かべながらも、どこか楽しそうな声を上げる魔女。
しかし、その話しぶりからして何か犯罪臭のようなものが漂ってきている気がしてならない。
「あと数年…いや、成長を速めればもっとできるが、それでもじっくりと待つのも楽しみだ。他の女に奪われないように、たっぷりとまじないも施してあるからねぇ…」
「魔女殿の夫…大丈夫なのか?」
「問題ないさ。知り合いに頼んで技術を少し貰って、創ったホムンクルスだがしっかり成長するからね。魔女の長い寿命に耐えられる耐久もばっちりさ。…いかんせん、材料不足でまだ幼い少年からだが…ふふふ、成長するからな」
思いっきり、何かの禁忌に手を出している。
確実だが、藪蛇と言うこともあり、宰相はツッコミを入れることを放棄した。
世の中、何事も気にしないほうが良いこともあり…5大魔女もまた、迂闊にやらかさなければ良き隣人として付き合っていくことができる…はずである。
「ちなみに聞いておきたいが、軍務大臣、どうなった?」
「あ、ああ。魔女殿の紹介通り、悪食の教信者の魔女とやらに頼み、無事に色々と片付いたのは良いのだが…帰ってきた彼、何があったのかと言いたいほど変貌していてな。まるで中身が別人で…」
「良い方向になったのならば、中身が別人でも良いじゃないか」
「筋トレにはまったようで、超えた豚から筋肉ゴリラへ変わったのも、国防を担うものとしては良いのですが…いかんせん、筋肉を筋肉として筋肉のために筋肉の政策を筋肉で作るとかいう、おかしな脳筋者になって…」
…ふと、どうなったのか気になって訪ねた魔女が、宰相のその回答を聞いて、なんだそりゃと驚かされていたのは言うまでもない。
魔女の解説は後日、まとめたものを出す予定…かも?
後4人、書き終わるまでに新作の方もすすめたいなぁ…