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07

 結婚。

 それは俺にとっても、浅川にとっても未経験なことだ。

 

 その二文字がどのようなことなのか、俺らには早すぎることだ。

 意味は分かる。


 俺にも両親がいて、その生活こそがそれ。時代というか世界が違うから、そのままでないにしろ、ああいう愛を持って子供を作って共に、時間を過ごすんだ。これから。


「優理、いつ式はあげる?」


「お前ノリノリだな」


「そりゃ、僕は好きだからお前が」


 分かってはいる。

 ユリー・クラッドのガワがこいつは好きなことを。

 だが、その顔で言われると顔がにやけそうになってしまう。こいつも、ちょっとは恥ずかしいことを言ってることを理解するべきだ。お前、同じこと元の世界で他の女子に言えんのか?


「はいはい分かったよ、お前がユリーのことが好きなことは分かった。なんでそんな好きかは知らんけど、それは言いたくないらしいから聞かねえよ」

「ま、俺は死ななきゃなんでもいいよ。お前は知ってると思うが」


「ユリーは、いつの日か主人公に固執する。元は性格もよく優しい子だった。俺も普通にその日までは好きなキャラだったんだ。だが唐突に人が変わったかのようにまるで悪役令嬢になるんだ」

「そして主人公を毒殺するのがバレて処刑される」


「そうだ。優理は知ってるか知らんが、ユリーは誰とも結ばれない。そして必ず、死ぬんだ」

「知ってる、死にキャラってことだろ?」

「そう、死にキャラだ。例え悪役にならなくても、優しい彼女のままでも死ぬ。争いに巻き込まれて死ぬ、不治の病になって死ぬ、普通に事故で死ぬ、他の貴族から恨みを買って死ぬ、強盗にレイプされて死ぬ、精神を病んで自殺する。誰にも愛されることなく死ぬんだ」


 ふざけている。俺は拳を握りしめ、ユリーになったことを悔やむわけでもなく、強く思った。

 誰だって幸せになってもいいはずだ。その未来さえない彼女は、彼女の人生はなんなんだと。


「僕はね、ユリーを幸せにしたいんだよ」

「俺って何しても死ぬのかな」

「殺させはしない」


 そして彼、浅川岡太郎は頬を染めた。

 もう夕暮れだった。茶会から数時間たった空は、紅く、太陽は雲に隠れていた。


「実は死なない話があるんだ」


 さっきまで何をしても死ぬと言っていたのに何を言っているんだ。


「ゲームの中では彼女は必ず死ぬ」

「だけど死なない話はある」



「優理、二次創作って知ってるか?」

 

 二次創作、それは存在は知っている。

 SNSとかでも好きなキャラとかのイラストが回ってきたりするやつとか、同人誌とか、そういうやつだろ。


「彼女、ユリーにもいくつかあるんだ」

「漫画は彼女が主人公じゃないからないけど、小説ならあるんだ」


「ユリーと誰かが幸せになる小説が」


 俺は期待を寄せた。


「たった一つだけなんだけどあるんだ。この世界がゲームでなくその世界なら、いやその世界にしてしまえばいい。その小説、小説モドキは……」


 勿体ぶらずに早く言え、その気持ちを俺は抑える。

 鼓動が速くなっている。やっぱ焦らさず早く言え。


「僕が書いた話。ルドル・グレンドとユリーが結ばれて子をなす話なんだ」


 彼はまた、俺に新しい、

 告白をした。


 俺とお前との子だって?

 


 俺はお前と結婚すると、命を守って貰えるから結婚することを覚悟したんだ。

 だが、お前が浅川となると……なんか違うだろ。

 確かにメイドのナーラだって「お父様とお母さまが俺に結婚、子供を望んでいる」って言ってたけど、言ってたさ。

 覚悟はしてたよ。誰かとそういう行為をそのうちすることを。だけど、中身これ浅川なんだよなぁ。


「だから優理、僕と結婚して幸せになろう。幸せな家庭をつくろう」


 学校内で見たこともない無邪気さで彼はそう言った。

 頭が重くなる。こいつ乗り気すぎだろ。ガワはこれだけど、中身俺だよ? いいの?


「それしか生きる道はないんだ」

「もしかしたら他にも」

「他にそんな話はない。僕が言うんだ間違いない」

「もしかしたら、別に普通にしててもそんな目に合わないかも」

「あったらどうすんだよ、僕は優理にそんな目に、もしもがあったらやなんだ」


 俺はこいつの信念に負けた。

 確かに、それが無難であることも分かる。


 割り切るか。

 こいつとそうなることを。


「分かったよ。俺、ユリー・クラッドはお前と結婚するよ。お前が言った前提で」


 なんで俺が浅川と結婚して、あろうことか子供まで。


「ただ、今日会って今日結婚ってわけにはいかない。ユリーの両親にも話が速すぎると変に思われるだろ」


「それは分かってる。でも僕の書いた話だと、今月の終わりには結婚する」


 おい、今月で結婚すんのかよ。あと三週間とちょっとしかないけど。お前さ、出逢ってその月ってもうちょっと現実的な話書けよ。スピード感ありすぎだろ。


「それで今年の終わり頃にいたして」


 ん? いたしてってなんだよ


「来年に子供が生まれるんだ、二人」


 言葉がでなかった。


「なぁ、こういう時どんな顔すればいいか知ってるか?」


「笑えばいいんじゃないかな」


 俺は笑った。苦笑だった。

 今月結婚。今年の終わりの初夜。来年にママになる。


 俺は浅川にアドバイスをした。

 

「もう少し現実な小説書こうか」


 と。




  






 

 

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