05
ゲーム以上に性格が違くないか?
エルベス王国、王族騎士団団長ルドル・グレンド。
肩に触れるか触れないかほどの長さ、澄んだその銀色は、俺の予想以上の美しさ。睫毛は、スッと細く、長く、真っすぐな鼻先はツンと尖り。その真剣に見つめる熱い眼差しは、俺、ユリーの心を、
奪っていた。
予想・ゲーム通りに美形だ。
乙女ゲームのキャラなんだから当たり前だが、
「……カッコいい」
そんな言葉を見逃すこともなく、
「うれしいよ、そう言ってもらえて」
「でも君の方が美しい」
とまた、クサいことをルドルは言った。
もう、彼でいいんじゃないか。どうせ誰かと結婚するなら、もう彼で。そんな迷い、一時の感情が生まれる。
ゲームで攻略したわけじゃないから詳しいことは知らないが、いい人だろうなきっと。ユリーが攻略していいのか分からないが、メルには王子がいるし……って、この世界はどのルートなのだろうか? それとも世界だけ同じで、俺の行動次第で変えられるのか、
いや変えなくてはならない、そうしないと俺は処刑されるのだから。
ならここはユリーがしていないことをするべきではないか?
それはなんだ。この日、主人公メルと王子マークは再び出会う。
……
「ユリーよかったら、こっそりここを抜け出さないかい?」
周りの声にかき消されるような小声で、そんなことを俺は聞かず、悩む。
メルとマークを合わせないとか? 二人の恋路を邪魔するとか。
違う、それだと本当に悪役令嬢じゃないか。
シナリオにないだけで本質的に変わらないだろ。最終的に、ユリーと王子が結ばれて、俺が邪魔してた悪人って形は変わらん。
なら逆だ。応援するんだ。
メルが王子、王子と結ばれるのを、
「ユリー、聞こえなかったかい? それとも駄目ってことかい?」
「ごめんなさい、抜けださないわ」
そんなことをしている場合じゃない、生きるか死ぬかを変えるチャンスなのだ。
主人公が、王子がいるこの時は、一番何か、本来存在しないルートにいるはず。
「どうしてもかい? 少しでいいんだ」
「ごめんなさい、また今度」
「駄目だ!!」
俺の腕を握り、謝罪に割り込む。
俺は虚空から、視線が彼に吸い込まれた。
潤としていた。
「えっと、そんな」
彼の手はしっかりと俺を握る。温かみ、今日の日差しに負けない程の、体温を感じる。
反則だった。
俺の気持ちは、またも彼へと戻っていた。
俺が女じゃなかったら、例えばそれこそユリー本人だったらここで揺らぎ落ちるだろう。
現に俺も、振り切れない、落ちることはないが、振り切れ揺らぎ落ちそうではあるが、揺らぎはしていた。
「恥ずかしいから、とりあえず離してください、ルドル様」
でも彼は、
「離さない、離さないよ」
強く握る、この体では少し痛い。
彼の視線はうるうると熱い。
「僕と結婚しろユリー」
俺は間を開けず、
「急ですね……話が飛躍してますよ」
「ユリーは僕を見てどう思う?」
どうってゲームと違いすぎだろ。どこが冷静で女に興味がないんだよ。あとカッコいいなとしか思わんよ。
「噂と違って情熱的で面白い方と」
「そうだ。僕は噂と違う」
「冷静に聞いて欲しい」
冷静になってほしいんだよな俺からしたら、
「君は死ぬ」
俺は握られていない手で頭を押さえた。
「君は……そう殺されるん。」
「だから僕と結婚しろ。守らせてくれユリー・クラッド」
ルドル・グレンドは告白する。
「君を生かす為にここにきた」
「僕はユリーを死なせない為に、生まれ変わった」
「これは嘘じゃない、僕は君の結末を知っているんだ。」
「それを変えに来たんだ」