01
「姉さん、騎士団長の方とはどうだったの?」
弟の助け舟とも言える、その一声。俺の切り出しにくい話は食卓を囲みながら進む。
父、母、弟、そして一緒に食事を許されているナーラを含んだ三人の使用人は、飲食を一旦やめて俺を見る。ここでその期待から逃れる選択はない。何より俺としてもちょうどいい。
「ええ、いい人でしたわ」
「もしお父様が許してくださるなら」
「許すも何も好きなら愛せばいい。ユリー、式はいつにするんだ?」
「あなた、まだそれは早いですよ。まだ出会って日も浅いでしょう?」
この父親は軟派というか、世間とは合っていない価値観。普通、娘がそのような話をしたら多少は、頑なになるもんじゃないだろうか。でも助かると言えば、助かる。昔ながらの親父のように結婚に面倒がつくより、話が早い方がいい。俺は今月までに結婚する予定なのだから。
「そうかそうだな。私としたことが気が早かったよ」
「そうですよ、ゆっくりでも逃げるものではないんですから」
「……」
「お父様は私がいなくなっても寂しくないんですか?」
俺は父にその余裕さは何かを訪ねていた。
父はそれに対し、
「分からないな。寂しいかもしれない、でも娘が、ユリーが幸せになるなら嬉しいこと。喜ぶことだろう?」
「ここを離れたからとて、会えなくなる訳でもない。仮に会えなくなったとしても死ぬわけでもない」
「ユリーがここで一生孤独になるくらいなら、どこかで私の知らないどこかにいったとしても、幸せになってて欲しい」
「ユリー、愛とはそういうものだと私は思うんだ。愛されたいとか、見返りを求めるものではなく、愛したいってことなんだよ。生まれて、ここまで育ってくれただけで充分にもらったんだから、老後を見て欲しいとか、子供をみたいとか、離れないで欲しいとか、そう言った考えは」
「愛されすぎだろう?」
父の人生観に俺は絶句した。
既にもらっているという考え。与えられているのだから見返りは、求めすぎという思考は、俺にはなかったものだ。
「私はあなたと違って子供くらいは見たいですけどね。あとたまには、顔を見たいし、一緒にお話しくらいはしたいわよ」
母は父を茶化しながら、温かみのある微笑みを俺に向けた。
「どう思うグレンは?」
我が息子に問う。
「どうって姉さんが結婚して、ここを出て行ってしまうことだよね?」
父はああと返答。
「……」
「ナーラはどう思う? 執事としてユリーと一番仲がよかっただろう?」
「私はユリー様がいなくなるのは少し寂しいです。ですがそれが喜ばしいことなら、執事、メイドとしては祝福したいです」
他、二人の使用人たちも受け入れの言葉を俺に与えた。
本当にユリー・クラッドは愛されているんだと感じた。
でも一人、弟グレン・クラッドだけは言葉がない。
だがそれも分かる。弟としてはそれが分かっていても受け入れられない、そういう年齢だということが理解できる。
「姉さんは、どうなの?」
グレンは再びはっきりと言い直す。
「姉さんは、僕たちと離れるのは寂しくないの?」
俺にとって難しい質問。
ここに来て日がそれほど長くない俺にとって、この家族に情があるのか。
寂しいと答えるのは容易。
例え短い期間でも、それなりに過ごせばそれ相応の情はある。
だがここで求められているのはそれではない。
千歳優理が彼らに抱いた感情ではなく、ユリー・クラッドが抱いていた愛情ではないのかと思う。
だから俺は答えられる想いを告げた。
「分からないわ。でもみんなには、みんなにも幸せになって欲しい」




