勝率は賭けと等しく
スキル発動と同時に右に全力回避。眼の前を何かが過ぎ去り、突風で吹き飛ばされそうになる。
直ぐに立ち上がり、別のビルに飛び移る。
「…!」
相手は、駅員の姿をした人物だった。
「対象を発見。直ぐに捕獲致します。」
「捕獲?!」
『敵は主催チームのプレイヤーと断定。1vs1なら勝率は60%。』
「1vs1ならってことは…。」
敵が剣を構え、こちらに突撃。それを咄嗟にトライデントで受け、穂で絡めて奪う。
「チッ。」
相手が懐からナイフを取り出し、投げてくる。
「ああ、面倒なやつだ…。」
剣を絡めた流れでトライデントを地面に突き立て、柄に飛び乗る。
そのまま、トライデントを手に持ち、相手に上から振り下ろし攻撃を仕掛ける。が、バックステップで回避される。
「緊急。増援求む。」
『敵、増援の可能性大。退避を提案致します。』
「あ、ああ。」
退避、か。
「なあ、AI、相手の目的は僕、だよな?」
『そのように思われます。』
「十六夜の方に被害が及ぶことは?」
『断定はできませんが、十六夜と直接的な接触をしなければ無いでしょう。』
「じゃ、ここで負けても一応大丈夫ってことか。」
『いえ、それは…!』
相手がさらにナイフを投げてくる。それを左後方に避ける。とすれば、今度は後ろから矢が飛んでくる。今度はそれをトライデントで薙ぎ払う。
「ナイフも矢も、別に避けることは難しくないな。」
『Souくん今どこにいる?』
インカムからチトセさんの声が聞こえる。
「どうしよ。」
『トライデントの耐久が半分程度です。相手は主催チームなので十六夜の戦力では敵わないと考えられます。これより、武器の供給を十六夜に要請することを推奨します。』
「ちなみに十六夜でも倒せない相手を僕が倒せるの?」
『通常では不可能です。ただ、理論上は鋭水などの秘技の使用で勝率は格段に高まります。』
「なるほどね…。」
やっぱり秘技ありきの戦闘力になるんだな、僕。まあ、そりゃそうか。
『後方、敵アタッカーと思しき反応。また、西方向より敵反応多数。注意!』
「こっからはフラグを立てたらだめだな。」
『フラグは最初から立てないでください。』
自身に筋力上昇と飛翔をかける。加速は残り2分。
「Sou、現在主催チームと戦闘中。援軍は必要ありませんが、武器だけ送ってもらえませんか?」
『主催チーム…?!大丈夫なの?!』
「えぇ。武器だけお願いします!」
『わ、わかった。』
敵のナイフと矢を交わしつつ、マップを確認する。自身の周りに敵2。遠方にだいたい20、そしてマップ外に狙撃手1といったところか。うーん。
「とりあえず、あんた。」
目の前のナイフ使いにトライデントを投擲し、一キル。相手が回避に夢中だからって油断したら駄目だな。
『後方注意!』
後ろを振り返ると、剣を振り上げた敵の姿が見えた。
「やっべ。」
左に回避。インベントリから剣(初級(Lv.1))を取り出す。
「捕獲開始。」
「いや物騒?!」
相手が突き攻撃を仕掛ける。それを左に回避。さらに薙ぎ払いをバックステップで回避。飛んできた矢はかがんで回避。振り下ろされた剣を白刃取り。捻って奪おうとするがその前に相手の蹴り。剣を奪うことを断念し、バックステップで距離を取る。
「ていうか、あんたたち僕を『捕獲』するんじゃなかったの?そんな殺しに来てたら捕獲できないじゃん。」
「…。」
相手は無表情で、ただ剣を振るってくる。僕はそれを回避し続ける。
『警告。敵複数が接近しています。これ以上の戦闘は危険です。撤退を強く推奨します。』
「まじかよ。」
加速スキルも切れてしまった。とりあえず加速スキルを掛け直し、隣のビルに飛び移る。
「逃がすな!」
「やだね、逃がしてもらうよ!」
-スキル・加速-
速度上昇の上位互換。3倍までであれば、自由に速度上昇ができる。
簡単に言えば、速度上昇だと2倍で固定されてたから速度調整が難しかったけど、加速では速度調整が簡単にできる。今は全速力で逃げる。おそらく時速60kmくらいにはなる。まあ、もちろん敵はついてこれない。…普通なら。
『敵に完全に包囲されています。この地域からの脱出は不可能と判断。』
「なんで…?」
ふっと矢鮫の言葉が脳裏に蘇る。
「知識チート、地形を使った協力プレーってこれか…。」
『あー、あー、プレイヤー “Sou” に告ぐ。君はすでに包囲されている。諦めて降参するように。』
拡声器の音があたりに響く。なんか、発言内容があるあるな気が…。
「残念だけど、この局面は大して難しくないんだよね。」
[秘技:鋭水]
辺りに、水の矢が降り注ぐ。大雨の日のように周囲が真っ白になる。
「…え?」
霧が晴れてくると、ゆらゆらと人の影が浮かんで見えてきた。
マップからも、赤い点は消えていない。
「鋭水が…効いていない?」
『敵、行動再開を確認。』
「えぇ…?」
もしかして、すでに秘技がバレている?そして、何かしらの対策をしてきた?
「とにかく、なんとか逃げるしかないな。」
『相手は捕獲を目的としています。殺してはくれないでしょう。』
「そもそも捕獲されるようなことをした覚えないんです…が!」
また、あの赤い矢が飛んできた。それと同時に、取り囲んでいた敵もこちらに接近し始める。
「ああ、もう、面倒っ!」
スキルは、筋力上昇と飛翔はすでに効果が切れた。スキル残数も残っていない。加速は、残り1分弱。
『Sou、Bビーコンから南東200m地点に来れるか?』
打さんの声が聞こえる。マップで確認すると、ここから大体1kmくらいの距離。
「頑張って向かいます!」