チーム十六夜
「いやぁ、びっくりしたね。君、何者?」
背の高い女性が僕に話しかける。
「さあ、何者なんでしょうか。僕自身もその答えを知らずにここにいますから。」
「うまいね。」
僕はその場から立ち去ろうとする。
「まって。」
「なにか忘れてましたか?」
「あの…えっと、言いづらいんだけれども、私達十六夜と協力しない?」
「といいますと?」
「正直に言って君の実力はすごい。でも、君一人だと数の暴力にいつかは負けてしまう。だから、私達と協力すれば私達も助かるし、あなたも自身の安全が確保できる。」
「って言ってどこかのタイミングで僕を殺るつもりなんですか?」
「そんなつもりは…。」
相手がごもる。まあ、感じ的には図星ではなくて反論できる証拠がないって感じだけれども。
「逆に、お前はここから逃げれると思ってるの?」
「え?」
急に端の方に立っていた一人がそう言い放つ。
「あんたが拒否すればこっち側とお前側は事実上の敵になる。そうしたら十六夜はあんたをこの場で始末するけど。」
「ちょ、カレン!変な脅ししないで!」
「なるほどね。確かにそれはそうだ。でも、そっちは僕に追いつけるの?」
「知らない。でも、あんた、なんかやってるでしょ。」
「え?」
「バフみたいなの。そしてその効果、切れかけじゃない?で、さらにそのバフをもう一度かけるにはエネルギーが足りない。つまり、逃げれないよ。」
「…!!」
確かに速度上昇の効果はすでに切れかけ。スキル残数もない。
「何者…?」
「それはその身自身では答えられない問だと。」
「なるほどね。」
「え、まって。話から置いて行かないで…。バフって存在するの?」
想、序盤にしてすでにトンデモ事実を発覚させかけています。誰かタスケテクダサイ。
「リーダー!2時の方向から時計屋です!!」
「全員戦闘態勢!君はどうする!」
「後ろで待機してます。」
「逃げないんだ。」
「逃げても時計屋に捕まる気がするからね。」
「反対方向に逃げれば?」
うーん、なんだかんだで助けてもらったし、この際一個だけ事実開示しとくか。
「その軍団は時計屋の一部でしか無い。すでに包囲されてるよ。」
「な?!」
「敵攻撃開始!」
「各自攻撃を耐えて!」
あたりにマイクロミサイルが着弾する。みんなマイクロミサイル大好きだな。
僕も一応剣を目の前に掲げて耐える。ははは、無駄に体力が増えたおかげで痛くも痒くもない。やらかしててよかった。
「リーダー。コルトとエリカ、エルメスが死亡、アオイが行動不能。」
「各自自分の身を守って!」
「だいぶ大変そうですし、僕も手伝いますよ。」
「その言い方、腹が立つ…。」
カレン?がそう呟く。
「別に僕にとって別チームの勝敗なんてどうでもいいんだよ。本来ならね。」
「でもお前もここから逃げ出すことはできない。包囲されてる。切り抜けてもさっきみたく誰も見てるだけなんてことはない。」
「で?」
「は?」
「まあ、いいや、早くしないといけないし。」
十六夜のメンバーで現在生き残っているのは6人。敵は見られる前に処分しちゃえばいいから、6人の目撃者を口封じするだけでいい。
つまり、秘技を使う。
というのも、今僕らを包囲してるのは少なくとも100を超えている。そこから切り抜けるのは速度上昇なしでは厳しい。実際にはカレンの言っている通りってことだけれども。まあ、片付けれたら何でもいっか☆
「十六夜の皆さんは下がって!」
「え、わ、分かった!」
十六夜の人たちが後退し、敵が押し寄せてくる。
でも、
「あなた達には死んでもらいますから。[秘技:鋭水]。」
その瞬間、あたり一面が光に包まれる。
マップからも敵の反応が消えた。
「え…。」
「は…?」
僕は後ろを振り返り、十六夜の人たちに笑う。
「こういうことです。ね、簡単でしょ?」
「君は…本当に…?」
「僕はただの引き篭もり高校生ですよ。ごくごく平凡な。」
十六夜の人たちはただ呆然と僕を見ている。
「…あのー、そんなに見つめられると居心地が悪いのですが。」
「あっ、し、失礼しましたっ!」
あー、もしかして…。
「僕恐れられてる?」
「いえ、そのようなことはございませんっ!」
あ、怖がらせちゃった…。
「あー、うん、ごめんなさい…。仲良くしていただけると嬉しいです。」
「は、はい!もちろんでございます!」
どうすればいいんだ…?
「リーダー、下にならなくて良い。」
「カレン…。」
「彼女の言う通りですよ。本音を言えば僕もちょっと…。最初と同じ話し方でお願いします。」
「あ、あら、そう…。改めて、さっきはありがとう。」
「いえいえ、僕も死んでしまうのは嫌でしたし。」
「それにしても、さっきのは…?」
「あー、…。えっと…。さっきの技と、バフに関しては外部に情報を漏らさないでもらえますか?」
十六夜の人たちは一瞬目を見合わせた。
「ええ。もちろんいいですとも。」
「ちなみに詳しくは言えないんですけど、この情報が必要以上に外部に漏れると冗談抜きでRWの崩壊が起きてしまうので…。」
嘘は言っていない。暴動が多発するはず。
「どんな深い闇抱えてんだお前…。」
「…マリアナ海溝より深いかも?」
全員に冷ややかな目で見られました。
「ま、まあ、今回のこともありますし、口止め料?として僕も十六夜に協力します。」
「ありがとう…!!」
リーダーがキラキラした目で僕の手を掴んできた。うん…。
「あ、えっと…よろしくお願いします?」
「よろしく!」
ということで十六夜と正式に協力関係となった。
でも、しばらくは警戒しておかないと。この人たちが何かを企んでいる可能性だって十分ある。裏切りがないとは言い切れないし。
「じゃあ、十六夜の拠点に戻りますか。」
「「「了解。」」」
「それにしてもあなたたちなんであんなところにいたんですか?それも9人だけで。」
「本来ならポンプってチームを攻める予定だったんだけどね。まさかあんなところで弦雷と時計屋と遭遇するとは思わなかったよ。もちろん君と遭遇したことが一番驚いたけれども。」
「大戦って思っていたより激しい…。」
「そうだねぇ。多いときは一日だけで100回くらい戦闘することもあるよ。」
もしかして:人間やめてる。
「そんなに戦ってて体力持つんですか…?」
「まあ、終わったらしばらく動けなくなるね。」
「ひぇ…。」
もしかして:RWは地獄。
「まあ、ペナルティのほうがしんどいからね…。」
「ペナルティってどんなものなんですか?」
「うーん、いくつか種類があるんだけれども。普段の戦闘とかだと時間を “盗まれる” とかが多いかな。そこまで重くは無いものが多い気がする。でも、大戦に参加しなかった場合は寿命が削られたりとか、RWに入場できなくなったりとか最悪OWで死んでしまう可能性も捨てきれないね。」
「ヒェッ…。」
魔境であることはすでに知っていたけれども、思っていたよりも厳しい世界だな。僕はスキルで無双してるけれども…。スキル無しで個人は確実に無理だ。
「さて、そろそろ拠点よ。」
拠点はビルの中の地下にあった。内装は大きめのテーブルと床に適当に置かれたクッション、なにかの機材程度しかない簡素なものだった。
「さて、みんな注目!」
中にいた5人くらいの視線が僕に集まる。
「彼はチーム無所属の個人プレイヤーで、私達と協力することになったわ。仲良くしてね。」
「Souです。よろしくお願いします。」
「おう、よろしくな!困ったことがあったら頼れよ!」
◯十六夜メンバー
・チトセ:十六夜リーダー。信頼できる雰囲気。サブアタッカー/司令。
・或都:十六夜副リーダー。優しい。タンカー。
・アカネ:チーム最強格のアタッカー。一人称「あっし」。
・カレン:ハッキング大好き。ちょっと尖ってる。戦況把握担当。
・アオイ:ぬいぐるみを常に抱えてる小学3年生くらいの子。ヒーラー。
・蒼:パーカー少女。いつも死んだ魚のような目をしている。1vs1の戦闘に強い。
・コルト:パッと見、暗殺者。基本個人で動く、一応サブアタッカー。
・エルメス:常に笑顔で口数の少ない少年。実はチームメイトも彼をよく理解していない。
・タクヤ:明るい人柄が印象的。サブアタッカー。武器が中華鍋。
・一ノ瀬結月:どんな武器でも使いこなせる。凄すぎて防衛担当。
・和紙剛:謎めいたネーミングをしている人。一応ヒーラー。
・エリカ:ゴツいマシンガンを使う、アタッカー。
・メタ:コタと双子。テイマー。
・コタ:メタと双子。ヒーラー。
・アヤセ:頭脳戦ならRW最強と言われる、戦況把握/司令担当。
・打。:何でも作る。剣でも刀でも銃でも中華鍋でも作る。
・Sou:十六夜と協力関係。実は主人公あるあるの無双状態。