捜索
「勝てちゃった…。」
ビルの屋上に倒れこむ。
「え、エリカさん!!大丈夫ですか?!」
「大丈夫大丈夫、ちょっと疲れただけだから。」
自分は戦うことはないと思っていた。
空気を圧縮できます、なんていう、使い勝手の悪い奇妙な能力しか持ち合わせていなかった私。でも。
「みんなを、守れたかな。」
「はい!負傷者ゼロです!全部、エリカさんの功績ですよ!」
「ま、途中ビルに登ってきたやつはアカネが地面に叩き落としてくれたけどね。」
「やー、斬れると思ったんだけどね。地面に叩きつけたその衝撃の方で死んじゃうとは思わなかったよ。あっしもまだまだだね。」
相変わらずアカネは化け物だね。本人が自覚していないことが一番恐ろしいけど。
『ごめんな、エリカ。急にこんな綱渡りをさせてしもうて。』
「なんでアヤセが謝るのさ。まあまあ、みんな生き延びられた、それだけでいいじゃないか。」
ふと横を見ると、蒼がそわそわとしていた。
「…いや、まだ問題は山積みだな。」
『ええ。皆さん、これ以降の指示を行います。監視役に当たっている人は所定の位置で業務を再開してください。監視役ではない十六夜の人は、この後すぐに作戦指揮本部へ戻ってきてください。その他の方は、拠点近くの防衛監視を継続してお願いします。』
「了解。さぁ、帰投しようか。」
「は、はい…!」
「やっぱり通信は回復しないの?」
「今やってる。」
必死にキーボードを叩くカレンと、それを囲む十六夜の面々。どの目にも不安が浮かんでいた。
「まずここの通信の仕組みがわからない。少なくとも中継器を介した通信とかではないはず。でも、こうやって通信状況をジャックできる辺り、電気信号ではあると思うんだけれども。」
画面にエラーが表示される。
「だめだ。初めて見るシステムすぎて何もわからない。第一、触れるならすでに弄り倒してる。表面的に使える機能しか見ることができない。言えることはただ一つ、彼らが通信に接続されていない。赤鮫も、Poscordも、Souも、チトセも。それに加えて、OWの状況が一切分からない。運営に連絡は?」
視線が或都に集まる。
「駄目だ。あちらから渡されたトランシーバーで連絡をとれるか試したが、繋がらない。」
「少なくとも、ノルン内の通信は安定して行われている。通信妨害の線は考えにくいと思う。」
「とりあえず行動しよう。アヤセ、捜索部隊を編成してくれ。最低でも4人で。」
「オーケー。」
「チトセについては、今我々が行動するのは得策ではないだろう。彼女を信じるしかない。」
「ま、まぁ、まだ通信がつながらないってだけだから!あっしたちが変に緊張してちゃだめだよ!ね、エリカ!」
アカネの言葉に、私は曖昧な笑顔を返すことしかできなかった。
『…さん…S…ん…Souさん!!』
誰かが僕を呼ぶ声がする。
ここはどこだっけ。
ああ、そうだ。
拠点に走っていて…。
「凛…。」
「Souさん!私の声が、聞こえますか!」
視界が明るくなる。
「Souさん…良かった…。」
「心拍安定…呼吸も大丈夫だね…これ、指何本?」
「…三本。」
「問題なさそうだね。」
回らない思考の中で、起き上がろうとする。
「Souさん無理しないでください!私たちが運びますから、楽な姿勢になってください!」
「蒼さん…。ここは…。」
「Souくん、起きてすぐで申し訳ないが、一つ教えてくれ。赤鮫とPoscordはどこだ?その血塗れな姿からして、なにかあったのだろうが。」
赤鮫。凛。Poscordさん。
あの光景がフラッシュバックする。
「あれは…夢…。」
「Souさん…?」
「待て、無理に思い出さないで。」
「あ…。」
飛び散った血飛沫。崩れ落ちる凛。
揺れる視界。夢じゃなかった。あれは、夢じゃなかった。
「Sou!こっちを見ろ!」
強引に頭を掴まれる。目の前にはアオイさんがいた。
「いいか、今お前は生きている。お前の仲間もここにいる。」
仲間。僕は、守れなかった。いや違う。僕が守られた。僕の身代わりになった。彼らは、僕の代わりに死んだ。凛は、僕は、凛を、…。
「あああああああああああああああぐっ…」
突然視界が真っ暗になる。意識が、沼の中へと再び引き摺り込まれた。
「…すまない。」
コルトが、申し訳無さげにナイフを仕舞う。
「ありがとうコルト。彼には悪いけど、気絶しといてもらうしかない。ここで彼の心が壊れてしまうわけにはいかないんだ。」
「Souさん…。」
「大丈夫、蒼。拠点に戻ればみんながいる。それより、報告が先だよ。」
「それならあっしが連絡しといたよ。エリカたちがここら辺の捜索に来るらしいから、あっしらはすぐにSou君を連れて帰って来いって。」
背中に背負っていたくまくんを胸の前で抱える。これが一番落ち着く。くまくんもこれが一番いいよね。
「ならば、俺たちは拠点に戻るとしよう。Souは俺が運ぶ。」
「 "地よ、その鎖を解き給え" …これで、軽くなったでしょうか?」
「ああ、ありがとう、蒼。」
コルトが片手で蒼の頭をなでると、蒼の表情が少し和らいだようだった。




