命を繋ぐ綱
『緊急!C52地点に死神発見!タイプは小狼の群れ、拠点方面へ移動中、拠点への到達まで25分。』
「このタイミングで?!」
「チトセ。…応答なしか。」
或都が立ち上がる。
その瞬間、作戦本部の空気は一つになった。
「今作戦における全体管理・責任者は、十六夜副リーダーの或都が担当する。戦術指揮リーダーはアヤセ。医療部リーダーは和紙剛に一任する。」
『『『了解!』』』
「作戦開始時刻は15分後、C15地点に小隊ごとに集合。各員、行動開始!」
「Souくん、今すぐ戻ってこれる?…あれ?」
Souからの返事は、なかった。
「嫌な予感がするな。」
『最悪だ。Sou、赤鮫、Poscordの三人が通信接続から外れている。』
「カレン、つまりそれはどういうことだ。」
『こんな未知の世界の通信技術なんて詳しく知るわけがないよ。でもね、こっちの通信監理画面にあの三人の名前が載ってない。…だから最初の頃正体もわからない技術を使うなと言ったんだ。』
この現状をどうすべきか。あたしは思考をフル回転させる。
Souと赤鮫ちゃん以外に死神を殺せる人はおらん。その二人がおらん今、それも多数を相手に、あたしたちが勝つ方法はあんのか?
あたしたちは気付いてなかった。いや、気付いてはいたんだ。
あたしたちは、あの二人にどれほどの期待を背負わせていたんやろう。
あたしたちは、あの二人にどれほど無理をさせていたんやろう。
「…エリカ、動ける?」
『私がどうかした?』
「頼めるのはあんたしかおらん。…お願い、前線に立って。」
「エリカを…?理由を聞いてもいいか、アヤセ?」
『私も。私の戦い方は対人戦でも十分な火力を持たない。ましてや死神相手に勝てるわけがない。』
死神はどうすれば死ぬのか。あたしはここに着目した。
ただの推測。本来、戦略家としてあってはならない作戦計画。
あたしは、これを提案した。
「死神を殺す方法。一つは赤鮫のような高火力をぶつけること。でももう一つある。」
『エネルギー利用、か。』
「ご名答、この声はPhyscかな。これがSouくんの戦い方。」
Souは水を扱っている。が、あの水はどこから発生するのか。
今ある情報から推測するに、あれはエネルギーの集合体だとあたしは考えとるわけで。
そして、エリカの攻撃方法。彼女の能力は、 "空気を圧縮すること" 、そしてそれを銃で撃ち出す。
対人では敵に対し痛みを与える程度の威力ではある
「エリカの空気の圧縮は、エネルギーを利用してるんやないかな。とすれば、死神相手には効果的やないかと。」
『あまりにもこじつけが過ぎないか?』
「ああ。その不確定な事実でエリカを死線に送り込むのはいかがなものか。」
「Souくんたちと連絡が取れない以上、私たちに残された選択肢はない。タンクで防ぎきることはできない。」
重い空気が流れる。それもそうだ、これは命掛けの戦い。油断は許されない。
『分かった。私がやろう。』
「エリカ?!」
「こんなこと頼んでごめんな。…謝って許されるもんやないのは重々承知してる。」
『誰かがしなければ、皆死んでしまう。私にできることなら、何でもやろう。これまで、皆に守ってもらった、そのお返しを今させてもらおう。』
『私も、前線に立ち…ますっ!』
「蒼ちゃん?!」
突然無線に乱入してきた蒼に、全員が驚く。
『彼女の技術は俺たちが保証しよう。』
『蒼は力をうまく使えるようになった。 "広域付与術補助機" が、完成したよ。』
「え、はやない…?」
『ははは、これを応用すれば "広域治療補助機" も作れるぞ!』
およそ、この世界では戦闘力のインフレだけでなく機械技術までもインフレしてるようです。
『この装置を作るために数名の鋳造師には犠牲になってもらったがな…。』
横を見れば、或都が頭を抱えていた。なしてや…?
「ま、まぁ…。とりあえず、指揮を執るよ。」
情報によれば、死神は大通りをただまっすぐに進むだけで裏道に分散はしていないみたい。
盾師が地上で狼のヘイトを取りつつ、その後方で近接戦専門に待機してもらう。
そして、その地点が良く見えるビルの上でエリカ、蒼、アカネが待機。
上空からの遠距離強襲。
「この作戦の成功率は、正直に言えば高くありません。犠牲を生むかもしれません。ですが、我々に残された手段は他にありません。どうか、みなさん、生きて帰ってきてください。」
『エリカ分隊、配置につきました。』
『十六夜小隊、準備オーケー。』
『弦雷第4防衛小隊いつでもいけます。』
『弦雷特殊行動分隊、指示待ち。』
『C16ポイント、敵を補足!』
『ノルン医療部隊、全員所定の位置につきました!』
『こちら、カレン。通信は良好。全て問題なし。』
「了解。準備が完了しました、或都リーダー、指示を。」
或都が静かに目を伏せる。皆が或都の言葉を待つ。
「この作戦は困難を極めるだろう。我々はそれほどまでに、あの若い二人に負担をかけていた。」
静けさ。皆が、同調し、感謝し、後悔し、それでも未来を見ている。
「我々もノルンだ、彼らだけのノルンではない。戦う理由がある限り、我々は武器を手放さない。」
あたしたちは何が為に戦うのか。それは人によるかもしれない。でも、全員が明確に理由を持っている。だからここにいる。
「我々は決して仲間を見捨てることはしない。いつでも、一緒だ。」
決意、というにはあたしたちの覚悟は貧弱なものかもしれない。それでも。
「只今より、作戦行動を開始する!健闘を祈る。」




