其の目に映るは愛か殺戮か
「まさかこんなところに隠し扉とはね。よく見つけたね、Souくん。」
「偶然が重なっただけですよ。」
そんなことを話しつつ、扉の中へと足を踏み出す。
「想、待って!」
突然凛が僕を後ろに引っ張った。その勢いで僕は転げた。
「っととと、どうした?」
「トラップが仕掛けられてる。」
「おっとぉ、どれどれ?」
Poscordさんが扉の辺りを調べ始める。
「確かに、ワイヤーが張られているな。古典的な手法だが、堅実でもある。」
「ありがとう、凛。」
「ここにトラップが仕掛けられているってことはつまりビンゴってことかな。」
周囲を見渡す。およそ崖に不審な点はないが。
「岩の崩落か、地面か、部屋の中、どれだろうな。こんなだったら誰か罠師を連れてくるべきだったな。今から呼び出すか?」
Poscordさんがインカムで連絡を取ろうとしたその瞬間。
「招かれざる客とは、貴方達でしたか。」
その言葉に咄嗟に白兎を抜くが、遅かった。脇腹に激痛が走る。
振り返れば、見たことのない女が後ろに立っていた。
「想!」
「Souくん!」
痛みを堪え、刀を振る。水飛沫が辺りに散った。
「わぁ、怖いですね。」
視界が一瞬ブラックアウトする。そして、体に走る激痛。
何が起きたのか分からなかった。
「っがぁ…!」
「想っ!」
「駄目だ、距離を取るぞ。こちらに勝ち目はない。」
「あら、逃げるの?」
Poscirdさんが僕を引きずっている感覚がする。
そして、それを上から塗りつぶすほどの異常な強さ感じる。
「私がヘイトを買っておく!Poscordは想の応急処置を!」
「わかった。無理はするな。」
パチパチと弾けるような音が聞こえる。
「電気…?でも残念、私には効かないよ!」
「あらそう。」
金属の擦れる音。
視界がだんだん戻ってくる。
「大丈夫か?止血はした。」
「何、が起こって…。」
「その前に撤退だ。俺が背負う。少し痛むだろうが、耐えてくれ。」
Poscordさんが僕の肩を持ち上げる。
「あら、逃がさないわよ。」
突然地面に叩きつけられた。横を見れば、Poscordさんがいなくなっていた。
否、跡形もなく潰されていた。
真っ赤に染まった世界。顔に付着した、どろっとした固形物が何かなど考えたくなかった。
「え…。」
「危ない!」
僕が、ぼっとしているうちに頭上で大剣とナイフが交わる。
「逃げて!」
凛が僕を蹴り飛ばす。
10数mは転がっただろうか。全身の痛みが、僕の生を激しく主張している。
そして、ほんの一瞬秒前まで僕がいた場所で、凛と女が激しくしのぎを削っていた。
「ふふっ、彼氏思いのかっこいい子ね。」
「黙れ!」
「隙だらけよ。」
その言葉と共に、女が凛の胸に手を押し当てた。
刹那、凛が膝から崩れ落ちる。
「凛っ!」
立ち上がろうとするが、体が言う事を聞かない。
動かないと、凛が危ない。脳が放つ警告。恐怖。
「想…ごめん、逃げて。」
凛がこちらを振り返る。その目に映る諦念に、涙に、声を失った。
まだ。まだ。立ち上がらなきゃ。凛を、失いたくない。
「ごめんね…ありがとう。」
そう言い残して、凛は倒れた。
「り、ん…。」
僕は弱い。誰も助けられないどころか、庇われてばかりだ。
「ふふふ…。そんな顔しないで。」
顔を上げると先ほどの女が僕の前に立っていた。血飛沫一つ付いていないその白いドレスが、僕との差を示している。
殺してやる。殺してやる。許さない。許さない。許さない。
「あなたは殺しちゃダメ、って言われてるからね。ふふっ、愛らしい顔。殺意ばかりの弱い目。今すぐにでも我が物にしてしまいたい…♡」
「許さない…っ!」
「貴方には何もできないわ。諦めなさい。でも、そうね。ヒントはあげようかしら。」
女が凛の方へと戻っていく。その背中に、冷静さに刃を突き立て切り刻んでしまいたいが、体が動かなかった。
いつしか僕は、自分の体の動かし方すら忘れていた。
「私の名前、ここではパトスって言うの。ふふっ、これで十分でしょう?」
パトス。
なぜ、ここに?なぜ?
頭がぐちゃぐちゃになる。殺意が、哀しみが、怒りが、憎しみが。そんな感情的な自分と対照的に、疑問を持つ冷静な自分もいた。それが、悔しかった。
「なんで、僕たちを襲った…?!」
「あら、こっちに来たのは貴方達の筈だけど。まぁ、もともと貴方達は殺す予定だったけど。良いお土産ができたし、こっちのストーリーの方があたしは好きね。それじゃ、この娘は貰っていくね。」
「待て…!」
無理矢理に体を動かす。刀を構えようとする。
外から見れば、そんな僕の姿は滑稽なものに映るだろう。
「だから、貴方の抵抗は無駄なんだって。諦めなよ。」
その冷たい目が、僕の中まで見透かしている。そんな気がした。
視界がぼやけていく。感情が静まっていく。
「凛…みんな…。」
倒れまいと離れ行く意識の糸を必死に手繰り寄せる。
だが、何か強い力が僕を沼に静かに引きずり込むようだった。
「まだ、ここで…。」
「おやすみなさい。また会いましょう…ふふふ…。」




