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積み上げるもの。積み上げたもの。

 指の悴むような寒さ。

 光の無い空間。

 振動が頭に痛みを与える。

 空っぽの心。枯れた涙。

 呼吸の音。


『…淋しいよ。』


 笑みが零れる。ただ、口角が上がっただけ。

 私にはもう、何も残されていない。希望も何も…。


『あれは…。』


 光を見た気がした。炎を見た気がした。誰かの悲鳴が聞こえた気がした。誰かの笑い声が聞こえた気がした。


 感じた、人の温もりは、私の望みだったのかな。




「大丈夫、蒼?」

「…あっ、う、うん。ごめんなさい、ちょっとぼっとしてて。」

「無理はしないで。何かあればちゃんと口に出して言うこと。いい?」


 フードの中を覗き込むカレンさんの顔。その不思議な安心感に私は救われた。


「はい。私は大丈夫です。まだ、やれます。」


 棒を支えに私はもう一度立ち上がる。

 棒に両手を添える。

 力を、流し込む。優しさを、流し込む。

 私ならやれる。


「…ッ。」


 消えない記憶。それが私の限界点。


「私がやらなきゃ…。これを、超える…んだ…!」

「蒼…。」

「大丈夫。大丈夫。私は一人じゃない。もう、一人じゃないんだ。私ならできる。私じゃなきゃできない。私が…っ!」

「ストップ!Physc、切断!」


 途端、全身の力が抜ける。


「まだ、できる…。」

「駄目。」


 カレンさんが、私の手から機械を奪い取る。


「無理はしない、これが約束だったはずだけど。」




「本当に大丈夫なのかい…?」


 Physcさんがココアの入ったコップを手渡してくれる。


「ただ、私の…嫌なことを思い出しただけ。大丈夫。」

「この実験は確かにこれからの我々の戦闘をより安全で楽なものにするかもしれない。だが、犠牲の上でそれを得ることは我々は望んでいないんだ。」

「第一、()()にはまだ改善の余地がある。今すぐ実証実験の必要はない。」


 カレンさんが振る、先ほどの機械。


 未知のエネルギーの存在は確実なものとなった。それと同時に、役職ごとの "特殊能力" はこのエネルギーによるものであることも分かった。

 そして、そのエネルギーの制御…これが現段階の目標点。


「それでも、得られるものがありますから。私の中でも、感覚がある。あと少しで、超えられる。」


 過去は越えなければならない。力に限界点はない。


「私なら、できます。」


 カレンさんから機械を受け取る。

 私のバフを広範囲に、正確に撒くことを可能にする。まだ私にはバフを正確に扱えないけど、できる。

 その実感だけはあった。


「何度も言うが、無理は禁止だ。いいな?」

「はい。」


 即席の実験室に足を踏み入れる。


 あの時の光を、もう一度掴めるなら。




 一生役目はないと思っていた。

 無意味なトレーニングと、ガトリングとマジンガンの整備を終え、仮の作戦本部に足を踏み入れる。


「あら、エリカやん。トレーニングしてきたん?お疲れさん!」


 弾けるような笑顔のアヤセに、いつしか作り笑顔も本物になった。


「ありがとね。」


 ガトリングを机に置く。いつしか、このガトリングの重さも感じなくなっていた。


「今は何をしていたんだい?」

「OWで死神が出た時の担当区域を作ろうと思ってね、みんなにOWでのゲートの場所を聞いてたんよ。そうそう、エリカはOWでどこら辺なん?もちろん言いたくなかったら言わんでもええよ!個人情報やし。」


 そういいつつ、アヤセは床に地図を広げた。

 地図には、大量に赤い印が描かれていた。


「これは…印の場所が固まっているのか…。」


 赤い印が、特定の地域に偏っていることが一目見て分かった。


「そうなんよ。今の段階の話ではあるけど、日本は広いのにこの半径100kmに収まってる。」

「そしてその中心が、()()()()()()()、とね。」

「…そういうことよ。」


 気色悪い――——エリカが覚えた感想はただそれだけだった。それで十分だった、と言う方が正しいだろうか。


「私はここ。あまり人がいないエリアだね。」

「おっけー。ありがとね!」


 赤い印を書き込むと、アヤセはすぐにどこかに行ってしまった。


「RWね…。」


 元から、エリカにはRWの存在に対する考察があった。

 そして、次々に明らかになるRWの "管理人" の正体や、 "システム" の中身などから、エリカの中で既に一つの仮説が完成していた。

 そして今回の地図。


「ふふ…いよいよピースが揃ったわね。」




 一方。

 想は拠点へ向けて走っていた。重く鈍い色の空は、まるで想の心を映し出しているかのようであった。

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