ロジック
「それで、今のRWはどうなっているんだ?」
「RW内では既におおよその事実は伝達されています。」
「君が流したんだね。それで?」
「 “死神” について、こちら側には死者も出ています。戦力としてRW全体で見ても死神に対抗するのは厳しいでしょう、何かしらの対策を取らなければ。死神含む未知の脅威に対し恐怖心を抱いたり、親しい人が犠牲になり錯乱してしまったりなどでRW内でも分裂が起き、団結することは非常に難しいと言わざるを得ません。」
「残っているメンバーだけでももう一度規律を正す必要があるだろう。」
「ええ。ただ、現状としてそれをする余裕を持つことすら厳しいのです。」
彼は少し退屈そうな顔をして、コーヒーを口に含む。
「難しいな。残念ながら、もうロゴスはいないのだ。俺という一人のサラリーマンが残っただけだ。」
「ですがあなたはロゴス…」
「RWが俺の中から消えたとき、俺の中からもロゴスは消えたのだ。少年よ、君にはわからないだろうな。」
「ええ、だからこそそれを知るあなたが必要なのです。」
「少年よ、何も理解せず理解した振りをするのは止めた方がいい。他人を裏切る結果になる。」
「あなたも僕の何も知らないでしょう。」
「俺が君の何を知る必要がある?簡単に言おう、俺はこの件に関わりたくない。そのことをずっと君に態度で示していたはずだが。」
「そうでしょうか?それならば、なぜこんな場所にまで僕を連れ込んでいるのでしょうか?」
「他者に対する期待、値付け。社会に出ればそんなことばかりだ。諦めたまえ。」
「パトスさんは果たしてそれを許すでしょうか?」
「…君、発言には気を付けたまえ。」
「ビンゴですか?」
ロゴスさんが、動きを止める。
彼は僕を睨み、席から立ちあがる。
「逃げるんですか?」
彼はこちらに顔を向けず、伝票を手に取る。
「過去から逃げるんですか?エトス、パトスから逃げるんですか?それが "論理" の帰結ですか?あなたは、あなた自身から逃げるのですか、ロゴスさん?」
「だまれ。」
「へぇ、期待外れですね。僕らのご先祖様がそんな腰抜けだなんて。」
「大人を挑発するのも控えめにしろ。そんなのがエトスに通用すると思えば間違いだ。君は彼には勝てない、今この場の君の行動で全て証明された。ヒーローごっこなんてやめな。」
「パトスさんは、今もあなたを待っていますよ。」
「君は何を言っているんだ?」
「パトスさんは、今でもあなたを待っている、と言ったんですよ。」
ロゴスさんの目が大きく見開かれる。
「何かの間違いじゃないのか?」
「僕が嘘をついているように見えますか?」
「…話を聞こう。」
「ロゴスとして?」
「…ロゴスを知る者として。」
「わかりました。」
もう一度、互いに正面から向き合う。
「第一にすでにRWを去った人を連れ戻すことは不可能として、残っている人々の士気を高め、再度団結をする必要があります。そのために欠かせないのが運営の存在です。彼らは現在、RWの調査のみを行っていますがその存在がRWの中心であることは否定できませんし、彼らの実力は相当のものです。その運営の協力を仰ぐのに最も最適な方法が、あなた、ロゴスなんです。」
「俺を交渉材料にする、ということか。」
「あなたの安全も確保されますよ。」
「こんなただのサラリーマンの命一つ消えたとて何も変わらないだろうに。まあ、良い。君に任せよう。俺は今からどうすればいい?」
「とりあえずまずは運営と取り次ぎます。そこで運営側にこの事態への本格的な介入を勧告していただければ。」
「わかった。先ほどの駅に戻ろう。RWについて知っていることについてもそこで話す。」
街に人影はなく、ただ静寂がそこに広がる。
そんな街中を、変わった服を着た高校生とくたびれた様子の男が歩くこの異様な風景は、果たしてどのように形容されるのだろうか。
『Sou君、そちらはどうなっている?』
「ああ、チトセさん、こちらの殲滅は完了しました。」
『それは知っているわ。なんでこんなにも報告が遅いのかしら?』
「ある人と会いました。今から一旦運営と取り次ぐので、その後そちらに戻ります。」
『…分かったわ。報告だけ忘れないように。』
「了解。」
「RWの回線がOWでも使えるのか。やはり、侵食だな。となるとあいつの計画は…。」
ロゴスさんがぼそぼそと呟いている。彼は何を知っているのだろうか。だが、何かを知っているのは間違いないだろう。
「…Sou君。私が言いたいことは、分かっているわよね?」
「…はい。」
「あなたは仮にもノルンの代表なのよ?他所様と関わりがないとはいえ、チームとしての統率のためにも勝手な行動は慎んでもらえるかしら。」
「…申し訳ないです。」
「別に今回のことを申し訳ないと捉えるかどうかはあなたの勝手よ。それでも、もう一度、よく考えてちょうだい。」
「まぁまぁ、今回のことは私の責任でもあります、彼を攻め立てないであげて下さい。今回の事での一切の責任は私が負いますから。」
「えぇ、その辺の話についてはあなたと彼に任せます。ただ、もしよければRWについて知っていることを教えていただけますか?」
「ええ、協力させて頂きましょう。私の知ることであれば、何でも。」
ロゴスがふと遠くのほうを見遣る。
「お嬢さんも、此方に来て頂いて構わないですよ。」
影から、凛がおどおどしながら出てきた。
「想…。」
「ああ、大丈夫だ。」
彼女を隣の席に手招く。
「さて、人も揃いましたし、約束通り私の知ることについて話させていただきましょう。まずは、RWとの今後の協力関係についてと私からの助言。それと…RWの構造についてです。」




