解けぬ疑心
「はぁ…。」
上を見上げればコンクリートの天井が見える。いつも通りだ。
「ちょっと休憩しましょうか。」
チトセさんが伸びをしながら言う。
「うん!みんな、なんか手がかり見つかった〜?」
「こっちはさっぱりだ。RWの気候やら建物やらが陳列されているだけで今回の手がかりになりそうなものはない。」
「こっちも大抵みんな知ってるようなシステムの話しか書かれてなかったぁ。」
「Souはどうだい?」
急に名前を呼ばれて驚く。
「あ、えっと、…。」
「?」
「いろいろと、分かりました。」
「え、何が書かれてたの?」
「今読んだ中では推測の話しか出ていませんが、RWがどういう世界なのか、とか。管理人とその仲間の話とか。どういう風にこのRWが今の状態に整備されたかとか。あと…。」
「あと?」
「…とんでもない企み、とか。」
「えなにそれこわいんだけど。」
「少し、自分の中で整理したりいろんな話と繋げていかないとはっきりと理解できないんですけど、その紙とズレている気がするんですよね。」
「…?」
みんな不思議そうな顔をしていたが、特に誰も何も追及してくることはなかった。
それにしてもあの紙束の内容はシステムの異常が起きてしまった、といったような感じだったが手記の内容では意図的に異変を引き起こした(もしくは引き起こす)、といった形になる。果たしてあの内容は何か、それと同時に “エトス” の正体は果たして祖父なのか。何もわからない。祖父は僕に普通に接してくれていた…気がする。少なくとも、OWに恨みを持っているようには思えない。
「何にもわからねぇな。」
「だねぇ…。」
「うーん。」
「やっぱり、これの内容、一緒に考えてもらえますか?」
「おう、ザックリでいいから内容を聞かせてくれ。」
「あっしも考えたい!!聞かせて~!」
「あ、わ、私も一緒に考えます…!」
仲間っていいな。こんなにも頼りになるのか。…頼らせてくれるんだ。
「ありがとうございます。じゃあ、内容なんですけど…。」
「つまり、RWの人間は死んでるのか生きているのかわからない、ってことなのね。」
「化け物…死神…。」
「そのロゴスさん、がどうなったのか気になるわね。」
「気になったんだが、プログラムが弄れるのはRWだけなんだよな?OWには干渉できないはずなのにどうやってその化け物を送り込むんだ?」
「それもなんですが、やっぱりいくつか不可思議な点もあります。なにより紙束の内容は勝手にシステムに異常が生じた、という内容なのにこっちの内容では故意に引き起こすってなるんですよね。」
「コンピュータが吐き出した内容なのか、どちらかに嘘が含まれるのか…。」
「もう少し調べる必要がありそうね。」
「そうですね…。」
少なくともなにかしら異常なことが起こっている…起きるのだろう。
少なくとも僕は管理人なのだろう。
管理人である自分が止めないといけない。
何とかしなきゃ。
自分に何ができる?今まで学校でも矢鮫について回ることしかできなかった自分が?矢鮫が居なくなっただけで社会から逃げた、社会から捨てられた自分が?今も管理者権限でしか行動できていない自分が?仲間がいなきゃ何もできない自分が?
逃 げ て ば か り だ っ た 自 分 が ?
「Sou?どうした?」
みんなが僕を見ている。その目が、僕を蔑むあいつらに見えた。
『お前いつも邪魔なんだよ。』
『ちょっと、近づかないで。あんたがいたらあたしたちの邪魔よ。』
『君、いつも矢鮫さんと一緒にいるよね?そろそろ辞めないと彼女困ってるよ。』
『うわ、来たよあいつ…。』
『そろそろ身の程を弁えてほしいよねー。』
『おんなじ班かぁ。ちぇ。』
『あー、早乙女くんはあっち行ってていいよ~笑』
『出来損ないが。』
「無理だ…。僕は…僕には…。何もわからない…何も知らない…何もできない…。もう嫌だ。僕は…僕にはっ…!!」
「え、きゅ、急にどうしたの?!」
「僕なんて…っ。無理だ…!!」
「何を言ってるんだ…?どうした…?」
みんなの声が聞こえなくなる。そうだ、結局みんなも僕を邪魔だと思ってるんだ。でもみんなは優しいから僕に付き合ってくれてるんだ。でもいつかはみんなにも露骨な態度を取られる。僕が悪いんだ。全部僕が悪いんだ。僕がノンデリだから…!!
突然頭頂部に重い痛みが走る。
「いっ…。」
「ちょ、ちょっとカレン!!何してるの?!」
「お前なぁ!!」
カレンさんが僕の襟元を掴み上げる。
「何うじうじしてんだよ!!みんなこんなに協力してんだろ!!」
「僕は…僕は無理だ…。こんなの…僕は何もできないから…。わからない…。何も…。でも、…だから」
「ここRWはなぁ!!OWで散々除け者にされてきた人間が胸張って生きる場所なんだよっ!!」
勢いよく地面に叩きつけられる。
「そんなにいじいじしてんならさっさとRWから出てけ。そんなやつにここにいる資格なんてない。」
「か、カレン!そこまで言わなくても…。」
「それだけRWは綺麗な世界なんだよ、自分にとって。」
カレンさんが僕に指を指す。
「RWに、あんたみたいなのはいらない。残るなら、胸張って生きれるようになってからにしろ。」
「胸張って…生きれるように…。」
「あとな。」
カレンさんが部屋を出ようとする。
「ここのみんなはそう簡単に君を捨てない。君が苦しんでるなら、君が困ってるならみんなが君を助ける。君だけに重荷は背負わせない。…もっと、みんなのこと、信じてよ。」
部屋にドアの閉まる音が響く。
僕の中では、信じるという言葉が響いていた。
「カレンが言っていたことに間違いはないわ。」
「チトセさん…。」
「私達は、メンバーの誰のことも見捨てない。あなたが困っているのなら私達が助ける。あなたが重荷を背負うなら、私達も背負う。あなたが十六夜の一人である限り、あなたはみんなを信じていい、あなたは安心していいよ。」
「チトセ…さん。みなさん…。」
「ああ。いつでも俺達がいるぜ。」
「信じてくれないと寂しいなぁ。」
「そういうことよ。」
「ありがとう…ございます。」
「すぐに受け入れるということは難しいでしょう。ゆっくりでいいです、あなたなりのペースで考えてください。」
「或都さん…ありがとうございます。ゆっくり、考えさせてもらいます。」
信じていいのだろうか。RWのことは、RWのことだけれども、僕は僕を信じることすらできていない。それでも、信じてもいいのかな…。
こんな僕のことを、信じてくれるんだろうか。




