永別
いい感じにRWも発展してきた。訳アリの人間が集まるこの世界が私の思惑通り上手く回っていることが不思議だが。
「エトス、大戦システム問題なく動いてる?」
「そのはずだが…。」
「ランキングが投影されてないよ。」
「おっと…なぜだろうか。少し点検する。」
「あたしは他に問題が無いか確認してくるね。」
「頼む。」
プログラム本を引き出してくる。書き込んだプログラムがこの本にも自動的に追加されていくので、プログラムに干渉せず問題を洗い出せる。
「投影システムに問題はない…はず。とすれば統計の方に問題があるのかもしれない。統計は…誰だよこんな量のコードを作った奴は…。あとで目次でも作るか。」
『エトス、こちらロゴス。それぞれのチームについて、大きな問題はない模様。それぞれのチームで大戦の準備が進んでいる。だが、一部のチームでは物資の供給が上手くいって無いようで、もしかしたら十分な戦力を持たないチームが出てくるかもしれない。』
「なるほど…。もう少し、生成師の仕事に調整を加えるか。」
『あと、これはあくまで個人の意見なのだが、あまり銃は導入しないほうがいいかもしれない。フラッグ戦であるはずが膠着状態になりかねない。』
「ふむ…。ならば、生成師の仕事として複数の物質を含むものの生成、特に金属を含むものは時間とコストを大きくして、事実上生成できないようにするなどで対処すれば良いか?」
『そうだな、あとは数で定めることもいいかもしれない。弾丸は矢を扱う場合よりも数が必要になる。それならば数を10などに制限すれば自然に銃火器を諦めるだろう。』
「そうだな。やはり、狙撃手というものは扱いが難しい…。」
『今回の大戦はあくまで第零回だ。今回のデータをバックアップすればいいさ。』
「ありがとう。とりあえず今のところはバグを追いかけて修正することに集中するよ。」
『ああ。こちらも問題を見つけ次第連絡する。』
「頼んだ。」
さて、統計システム…。問題点はどこかな?
「パトス、投影はうまくできてるか?」
『うん、問題なくできてるよ~。よくこんな短い時間で修正できるね。』
「まだ頭の中にある程度残ってるからな。もっと時間がたてばもう手を付けれないだろうけれども。」
『いやぁ、さすがだね、エトスは。ロゴスもあの人数をよく纏めるよ。』
「ああ、彼も凄い統率力だ。私には凡そ不可能だな。」
『エトスは人と関わるの苦手だもんね。でもそれでも取り組むことには誰よりも集中して取り組めるじゃん。』
「それほどでもないよ。」
『あたしなんて得意も何もないよ。二人みたいに得意って言えること、あたしも見つけないとなぁ。』
「君は私たちの中で一番若いじゃないか。これからだぞ、人生。」
『そうかなぁ。まあいいや、ここなら何も考えずに生きていけるし。ある種の “エデン” だね。』
「まぁ、な。」
『じゃ、そろっちまたあたしも確認作業に戻るね。』
「わかった。よろしく頼む。」
「楽園、か…。」
トランシーバーをぼーっと見つめつつ、私は独りごちた。
「ロゴス、報告を頼む。」
『こちらロゴス、全てのチームについて問題なし。想定通りの戦闘が行われている。』
「了解。異常が発生したらすぐに報告してくれ。」
『了解。』
「パトス、そちらの状況は。」
『今のところすべて問題なし。強いて言うならビルの上まで来た人がいた事かな。びっくりしたよ、こんなところには来ないだろうと思って偵察地点にしてたんだから。なんとか隠れられたけど。』
「それは災難だったな。何か、方法があればいいんだが。」
『迷彩とか無理なの?ほら、ゲームでよくある透明化。』
「できなくはないと思うが、それじゃ私やロゴスもわからなくなってしまうから考えないとな。」
『んー。ま、もうちょっといい場所無いか探してみる。』
「わかった。頼む。」
『あいよー。』
昔は、死にたかった。ただ惰性で生きていただけだった。
今は、仲間がいる。意思を持って生きている。
「彼らとの通話が終わったら、少し寂しいかな。」
私はそう独り言ちた。
昔の私なら、こんなことは言わなかっただろうに。
「ねぇロゴス、この世界ってさ、一体何なんだと思う?」
「パトス、悪いが質問の意味がわからない。」
「このRWってさ、あたし三途の川の手前だと思うんだよね。」
「ほう…。その理由は?」
「あたしさ、ここに来た方法、自殺したからなんだよね。」
「…そして?」
「エトスもパトスもさ、 “扉” から来たって言ってたじゃん。だからあたしが死のうとしたらここに居たことが不思議でさ、ずっと考えてたんだよね。で、そこで辿り着いた答えが生と死の狭間なんだって。三途の川の手前側だとしたらさ、天国とか地獄とか、そんなところには辿り着けない一般の人も死んでしまったあたしもここにいることに説明がつくじゃん?」
「…少々回りくどい説明ではあったが、言いたいことは伝わった。確かにその考えは十分にあり得る。実際、我々も生きる意志がない状態でここに辿り着いたからな。死にきれない者達の集う場所、といったところか。それは理にかなっている。」
「…でさ、もしそうだとしたら、あたしもうすぐ三途の川を渡らないといけないと思うんだよね。」
「それは何故だ?」
「さっきも言ったけど、あたしは自殺してここに来た。田舎のね、誰もいないような駅のホームから、通過する電車に飛び込んだの。自分の体が砕ける音、ちゃんと聞いたんだよ。痛みは、あまり感じなかったけど。でもあの感じ、生きてるわけがないんだよね。」
「ここは生きているのか、死んでいるのか、わからない人間が集っている、と。」
「そゆこと。でもあたしは少しの間生き延びれたとしても、もうさすがに死んでるはず。」
あたしは空を見上げる。そこにはいつもと変わらず灰色の雲が浮かんでいる。
「あたしは、もうここには居られない。消えちゃうんだよ。」
「…そうか。」
「あっさりしてるね。」
「寂しいのか?」
「まあね。初めてだよ、こんな気持ちになれたのは。寂しいし、怖い。」
「死を、恐れているのか。」
「死は怖くない。初めてのこの感情が嬉しくて、胸が締め付けられて、初めてが怖い。」
「…そうか。」
「あたしね、初めてだったんだよ。こうやってさ、ロゴスとエトスと仲良くなれて。こうやって話してくれる人、初めてだったんだよ。こんな気持ちにさせてくれたの、初めてだったんだよ。…もう死んだのに、死にたくなくなっちゃったじゃない。」
「死は生きとし生けるもの全てに平等に訪れる。そして死は…。 “約束の休み” だから。」
「あたし、難しいこと言われてもわかんないよぉ。」
「きっとわかるさ、いつか。」
「ほんとに〜?」
ロゴスの頬を突っつく。ロゴスは不機嫌そうな表情を浮かべた。
「でも、あたし、ここで一つ、願いも持つことができたんだ。」
「どんな願いだ?」
「輪廻転生があること。それで、あたしが鳥に生まれ変われること。」
「…素敵な願いだ。」
「あたしね、ここでエトスとロゴスと会って、自由を知ったんだ。自由ってほんとにあるんだって。あたしも、自由になっていいんだって。鳥は、空を自由に飛ぶ。あたしも、次の命があるなら鳥になって自由な人生を続けたい。」
「実に美しい夢だ。」
「もう、さっきから素敵とか美しいとか、堅苦しいっていうか薄っぺらいっていうか…。むー。」
「その願いが本当であればいいが、天国が存在するのか輪廻転生があるのか、どっちかわからないぞ。」
「いいもん。もし輪廻転生がなくて天国があるなら、あたしは待ってるからね。二人のこと。天国から見てるからね。二人のこと。」
「ああ。もし天国があるなら君を一人にはさせない。もし君が鳥になって困ってるなら、手を差し伸べよう。」
「約束だからねっ!!」
「もちろんだ。エトスにも、約束させておく。」
「うん!いろいろと、私に初めてをくれて、ありがとね。それじゃ、そろそろ…。」
「あ、これ持ってけ。」
ロゴスが懐からお金を出した。
「えなんで?」
「三途の川を渡るには六文銭がいるんだ。今のお金が使えるかは知らんが、お金はお金だ。」
「ああ、なるほど。ありがと。」
「いいさ、これくらい。…ありがとうな、いろいろと。君は我々に初めてをもらったと言っていたが、それはこちらもだ。ありがとう。」
「そうなのかな…。どういたしまし、て?」
不思議と笑みが浮かぶ。心がポカポカする。ああ、あたしって、ちゃんと不幸者だったんだ。それで今、世界で一番の幸福者になれたんだ。
「ああ、幸せ。」
涙があふれる。悲しさとか、痛みとか、苦しさじゃない。
この涙は、
幸せの涙だ。




