構築
「…は?」
目の前の男が私を睨み付ける。まあ、そりゃそうだ。誰だって「この世界は私が整備しました」とか言われて納得できるわけがない。そもそも。
「まずなんでここに人間がいるんだ?」
「だから言ったでしょう。私がこの世界を整えたって。」
「意味が分からない…。世界は人間がそう易々と介入できないから世界なんじゃないのか…?」
「でも実際私が介入してなければこんな整った世界ではないはずです。」
「…このことについて話していても埒が明かない。とりあえずここに関して色々質問するから答えてくれ。」
「分かる範囲でお答えします。」
「まず、あなたは “整備” という言い方をしていました。つまり、ここにはすでに整備できる “基礎” があった、ということでいいですか?」
「はい。その認識で間違っておりません。」
「では、この周囲一帯の構造物ももとからあるものですか?」
「はい。広さは把握しきれないほどです。」
「そしてあなたは具体的にどの点についてこの世界に介入しましたか?」
「まず管理サーバーの存在を発見しました。そこで、プログラムの追加を行いこの世界を簡単に言えば “ゲーム” の世界に書き換えました。」
「は…?」
男が私の胸倉をつかみ上げる。
「ふざけてんのか…?」
「なにがふざけているというのです。ふざけてなどいませんよ。」
「世界にプログラムを追加…?しかもゲームの世界に書き換えだと…?お前の頭湧いてんじゃねぇのか?」
「真面目にやってますよ。」
「お前さも当たり前かのように言ってるけどな…、どう考えても世界の “プログラム” の書き換えとか、禁忌だぞ。しかもゲームの世界とはなぁ、人の命、人の人生、世界の運命…。軽く見すぎやしないか?」
「できることがいけないのですよ。実際、元の世界、Old world、略してOWと呼んでいますが、OWではプログラムを見ることもできない、そもそもプログラムが存在するのかすらわからないじゃないですか。あなたの指し示す常識、禁忌はただの幻想に過ぎませんよ。それに人の命だの人の人生だのは私の知ったことではありません。私がこの世界に辿り着くのが先だった、誰もいない世界だったんですから。未開の地に真っ先に足を踏み入れた国がその地を手に入れられる―それと同じことをしたまでです。」
「なるほどな。納得はできないが道理は通っているのかもしれないな。次だ、具体的にプログラムの何を追加した?」
「現状で言えば、まず化け物を封印し管理者システムを作りました。その他、天候の調整やプレイヤーの精神・肉体の健康状態維持、三大欲求の抑制・不要化、職業設定、リスポーン設定、団体設定などです。」
「思いっきり生物を弄ってるな…。吐き気がする。」
「それがこの世界ですからね。嫌ならバイバイしてもらってという感じです。」
「最悪な世界に迷い込んでしまったみたいだな。まあ、どうせ死ぬつもりだったんだ、あんたの協力をするよ。」
「そう言って頂けるとありがたいです。」
「で、具体的に何をやればいいんだ?」
「これから、この世界の封印を解除し、貴方のように “生きる意志の無い者” を招き入れます。その人たちにはそれぞれチームを設立してもらいますがその説明と、主催チームのリーダーとなりこの世界の主導を頼みたいです。」
「はっ、コミュ障にはきつい仕事だな。まあいいが。で、説明とは?」
「とりあえずこの世界に辿り着いたことと、これから詳しく説明する戦闘システムの解説、チームビルディングについてですかね。私のこと、それからこの世界のプログラムのことは触れないでください。」
「簡単だな。じゃ、具体的な説明を頼む。」
「パトス、システムはすべて書ききった。RW・OWの様子は?」
「RWは問題ない。ロゴス、改札の用意は?」
『こちらも問題ない。すべての改札でAIが自動投影している。』
「了解。それじゃエトス、始めましょうか。」
「わかった。」
試運転なしのぶっつけ本番。ワールド間の “谷” に落ちるプレイヤーが出てこないよう祈りながらプログラムファイルのロックを解除する。これで手元のプログラムがワールドに接続されたはずだ。
「今接続した。バグが発生していないか確認頼む。」
『現在OWと改札の接続を確認。バグが発生しないか暫く監視を継続する。』
『監視より24時間が経過。OWとの接続問題なし。』
「了解。こちらのプレイヤーも問題なく行動開始している。長時間のお勤めご苦労様。一度接続を解除し、こちらの発展を待つ。その後さらに改札を増やしてプレイヤーを導入する。」
『了。帰還次第主催チームの用意も進める。』
「頼む。」
ヘッドセットを外す。ずっと画面と睨みあっていたためひどい頭痛がする。ともかく珍しくバグもなくワールドの接続に成功したことは喜ばしい。問題はこれから始まるデスゲームがうまくいくのか、ということである。まあ、成る様に成れ、と言ったところだが。大勢の人間を巻き込んでこんな無鉄砲な計画を実行している辺り、私も “終わっている人間” だろう。だが、終わっている人間にもそれなりに流儀があるので突き通させてもらう。まあ、パトス、ロゴスの協力を得られたことを思えば私もまだ神には見捨てられていないのかもしれない。




