祖父の遺品
「RW…?なに…これ?」
題名に目を通す。
気になったのは紙の方。
「正体不明の生物?システムダウン…暴走?管理者権限の期限切れ?」
中身に簡単に目を通してみると、どうやらこれらの資料もRW関連のもの。
「…持っていこう。」
一旦それらの資料を袋にまとめて玄関へと急いで向かう。
玄関のドアを開けると、救急隊の人がストレッチャーを車両から出しているところだった。
「通報はこちらですか?」
「はい。お願い、します。」
救急隊の人を急いで部屋に案内する。
その後、救急車で病院に向かったが祖父は死亡と判断された。
「…ありがとうございます。」
母に救急車の中で連絡を入れたのだが、母は未だ来ない。あと数分で到着するだろうけれども。
祖父の枕元に近づく。その顔は、とても穏やかで、今すぐにでも目が開きそうな表情だった。
「じいちゃん、じいちゃん…。」
視界が霞む。
「じいちゃんは、幸せでしたか…?」
ほんの数日前まで見ていた、あの笑顔が脳裏に浮かぶ。
「じいちゃんは、人生を楽しめましたか…?」
何があっても僕を否定せず、嬉しいときは一緒に喜び、悲しいときは慰めてくれた、じいちゃん。
「じいちゃん、僕は何をすればいいんですか…?」
頬が熱くなる。
「じいちゃん、じいちゃん…、僕は、僕は…!」
心が痛いって、こういうことなんだな。人との別れって、こんなにも、こんなにも辛いんだな。
「おじいさまは、とても立派なお方だったのですね。」
お医者さんがぽつりと呟く。
「え…?」
「こんなにもお孫様にも尊敬されていたのですから。」
「…はい、祖父は、とても立派な人でした。本当に、本当に立派な人でした。僕も、祖父のような優しくて、誠実な人になりたいです。」
「辛いだろうけれども、おじいさまのお気持ちを継いで、日々を大切に生きてくださいね。」
「はい。」
部屋が静まり返る。機械からは、もう、何の音も出ない。
「失礼します~。」
ゆっくりとしたノックの後に母が部屋へと入ってきた。
「早乙女さんですか?」
「はい、そうです。」
「こちらに。」
母が祖父の枕元に寄る。
「お父さん…。」
普段ゆったりとした性格の母が、いつも柔らかい表情の母が、寂しい、辛い表情を浮かべている。
「あれほどちゃんと寝て、食べて、程よく運動してエアコンをつけなさいって言ったのに…。」
母の目から涙が零れる。
「お父さんって…ほんとに馬鹿ね。もっと長生きしてよ…。」
寂しい笑顔を浮かべながら祖父を見つめるその顔を、僕は忘れられずにいた。
「大変な思いをさせてしまってごめんね、想。」
「母さんが謝ることじゃないでしょ。仕方がないよ、こればかりは。」
「優しいね、想は。」
「そんなことはないよ。」
病院を出て、二人で病院の前のベンチに座る。手続きなどをしていたらとっくに日が暮れてしまっていた。その夜は蒸し暑いような、少し涼しいような、そんな風に感じた。
「母さん。」
「ん~?」
「始業式まで、少し出かけていてもいい?」
「どうしたの?」
「じいちゃんが部屋に紙をばら撒いてたんだけど、その紙に書いてる場所を巡りたくて。」
「…いいよ。でも、事故とか、気を付けてね。ちゃんと戻ってきてね。」
「うん。もちろん。」
「あと、それなら。」
母が財布から1万円札を15枚程度出す。
「これ、使いなさい。」
「え、いやでも、これ、この大金…。」
「いいの、おじいちゃんから、想が旅をしたくなったら渡してあげなさいって貰ったものだから。」
「…わかった。余ったら、返すよ。」
「遠慮せずに使ってね。」
「ありがとう。」
母から受け取ったお金を財布に慎重に仕舞い、ベンチから立ち上がる。
「…もう行くのね。ご飯は?」
「大丈夫。母さんも、どこかでおいしいご飯を食べて温まって帰ってね。それで、また僕が帰ってきたら二人でご飯を食べよう。」
「ふふっ。約束ね。」
「うん、約束。」
そう言って、僕はその場を立ち去った。
「おかえりなさいませ。」
RW改札にて、駅員さんと挨拶を交わす。
「すみません、RWへの持ち物の持ち込みってできますか?」
「原則できませんが、どのようなものですか?」
「これです。」
袋から本や紙を出す。
「これは…。え…てぇ?」
駅員さんが目を見開く。
最初、これらの資料を駅員さんに見せることが果たして良いのか迷ったのだが、RW内への持ち込みが可能かは駅員さんに聞いてみないと分からないので見せてしまうことにした。
さらに、RWへ持ち込む理由の一つは『RWシステム』という本にある。これは、おそらくRWに組み込まれている “プログラム” の一覧になっている。ただ、僕には到底解読できない。そのため、この本の解読は誰かに依頼するしかなくなるのだが、RWを知っていてかつプログラミングに精通している人に頼むことになる。そして僕の知り合いでそんな人と言えば…ハッキング大好き少女ことカレンさんのみ。ということでまずこの本をRWへ持ち込む必要がある。
ほかの本も、僕一人ではすべて解読しきれないためRWを知る人に協力を求めようと思い、それならば十六夜メンバーしかないということですべて持ち込むことにした。
「RWの…文献?こっちは…システム暴走?これは一体…?」
「僕の祖父の遺品です。今僕が把握している内容からの推測では…。」
最初はこれらが何なのか全くわからなかったが、移動する間ずっと考えて一つの結論にたどり着いた。
「RWで、異常事態が起こっている可能性が高いです。」




