第31話
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ウィレット邸はホルスの街の中心から少し離れた場所にあり、石造りの屋敷は広々とした庭園を擁していました。
(まさかなんの疑いなくわたくしたちを屋敷へ招き入れるとは。用心が足りないのではないでしょうか)
屋敷へ出向いたわたくしたちを迎えたのは妙齢の従女でした。王族とはとても見えない装いを不審に思うことなく、アリス様が名を名乗るとすぐにウィレット様のもとへ案内して下さいました。本来であれば当主自ら出迎えるのが筋ですが事前連絡なしでの訪問ですから目を瞑りましょう。
(それにしてもやけに静かですね。人気も無いように思いますが留守なのでしょうか)
従女に従い邸内を進みますが使用人らの姿は一人もありません。案内された部屋も目立つ調度品など見当たらず絵画が一枚飾られているだけ。賓客をもてなす部屋なのでしょうがなんとなく寂しさを感じます。しかしそれも束の間。部屋に入って間もなくこの屋敷の主が現れました。
「ようこそ御出で下さいました。わざわざ王都から足をお運び頂きありがとうございます」
賓客室へ現れたウィレット様はわたくしたちの顔を見るや否、笑顔で歓迎の言葉を述べられます。ですがさわやかな笑顔は儀礼的で早く追い出したいと思っているのが犇々と伝わってきます。
この屋敷の主でホルスを治めるウィレット・ローレン卿は20代前半らしくローレン様の御子息にしては若いように思えます。背丈はサミル様よりやや高めで見た目は好青年という印象です。ですが父であるローレン様のような穏やか雰囲気は見られず、アリス様も同様の印象を受けたのか儀礼的な言葉で歓待の礼を述べられます。
「突然の訪問にも拘らずこのような歓待。礼を言います」
「女王陛下がお見えになるのなら当然のこと。そちらはお付きの方ですか」
「私の近衛騎士です」
目配せされるアリス様に従い、わたくしへ怪訝そうな目を向けるウィレット様へ挨拶をします。
「王立騎士団所属、エーリカ・H・レーヴェンと申します。お目に掛かれ光栄でございます」
「ウィレット・ローレンだ。レーヴェンとはなかなか聞かぬ名だな。もしや貴殿が?」
「はい。クーゼウィン王に仕えるレーヴェン家の娘でございます」
慣れたこととはいえ初対面の相手に事情を説明するのは億劫です。いまはアリス様の騎士であり、過去を詮索されるのは嫌いです。




