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終焉王女と覚醒騎士の王国創世記  作者: 織姫
第2幕 女王と騎士の初行幸

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第29話

「エリィ?」

「い、いえ。なんでもありません。申し訳ありませんでした。このようなことになると思慮が足りませんでした」

「気にしないでよ。帰ろ?」

 兵たちに向けた覇気はとうになく、普段と変わらぬ笑顔を見せるアリス様はわたくしの手を引きます。

「お、おい!」

その様子をキョトンとした様子で見つめるのは小競り合いの渦中にあった露天商の男性。目の前の光景が現実とは思えないと言った感じでわたくしたちに声を掛けます。

「助けてくれたことは礼を言う。けどあんたたちは――」

「王家のせいで迷惑を掛けてしまいましたね」

「……ほんとうに女王陛下なのか」

「必ずあなた方の生活を好転させます。それまで辛抱して下さい」

 あからさまに身分を明かすことは避けつつ、優しく語り掛けることで答えるアリス様はわたくしへ目配せをされます。それを合図にわたくしたちは人混みの中に自然と出来た通路を進み宿へ戻ります。今日はこのまま宿に籠った方が良さそうです。

(想定外の展開になりましたね)

 朝食を食べに来たついでに市場を巡るつもりが小競り合いに巻き込まれ、しかもそれが酒場で聞いた噂を証明することになるとは誰が思うでしょう。ですが噂が事実であるとわかったのですから街を散策する目的は達成されました。あとはこれを城へ知らせて本格的な調査に乗り出すだけです。

「アリス様。明日、城へ戻りましょう。グラビス様たちにこのことを伝え調査を――アリス様?」

「みんな、苦しい思いをしてたんだね」

「アリス様のせいではありません。とにかく城へ戻りましょう」

「ねぇ、もう少し私たちで調べたらダメかな」

「アリス様。相手は私兵を使っています。こちらも相応の準備が必要と思います」

 こちらも騎士団を出せば一触即発の事態もあり得ます。アリス様はそれを危惧されているのでしょう。争いごとがお嫌いなアリス様らしい我儘であり、出来ることなら叶えて差し上げたいと思っています。しかし王領といえども王都から離れた地です。わたくしたちだけで動くには限界があります。アリス様を御守りする騎士として今回は体制を整えることを優先しなければ。

「アリス様。お気持ちはわかります。ですが、ここは一度城へ戻りましょう」

「そっか。そうだよね」

「申し訳ありません。ワタシの不注意でこのようなことになってしまいました」

 わたくしが野次馬ごとく騒ぎに首を突っ込んだせいで騒動が大きくなり、アリス様がこの街を訪れていることも民に気付かれてしまいました。いずれ知られることだったと言ってもいまはまだそのタイミングではありません。

「エリィは悪くないよ」

「ですが……」

「エリィが間に入ったからあの人は連行されずに済んだんだよ。騎士として当然のことをした。私はそう思うよ」

「ありがとうございます」

「さ、帰ろ?」

 落ち込むわたくしを励ますように笑顔を見せて下さるアリス様は本当にお優しい方です。

 結果としてはこれで良かったのかもしれません。偶然とはいえこの街で蔓延る悪事の一端を見ることが出来ました。あとは城へ戻り、本格的な調査に乗り出すのみですが一つだけ気になることがあります。

「アリス様――」

「なに?」

「ウィレットと言う方をご存じないですか」

「ウィレット?」

「はい」

 周囲に人がいるので詳細は伏せさせて頂きました。ですがその名に心当たりがあるのかその場に立ち止まり、そして――

「宿で話そうよ」

身近に思い当たる人物がいるのかアリス様はそれ以上なにも言わず、難しい顔をされ宿へ向かわれます。

 アリス様の表情から状況が悪い方向へ流れ出している。そう感じるわたくしは一人先を行かれるアリス様を追いかけました。


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