第28話
「じょ、女王陛下がいるぞ!」
良かった。アリス様のお顔を知るものが少なからずいたのですね。アリス様の存在に気付いた者たちが声高らかにアリス様がこの場にいることを叫びまず。それと同時に先ほどまでわたくしを怪しんでいた兵たちが後退りします。
「な、なぜ女王がこんなところに……」
「あなたたち――」
「っ⁉」
「この者が私の近衛騎士と知っての愚弄ですか」
状況から彼らに非があると気付いたのでしょう。アリス様は兵たちを前に静かに怒りを爆発されます。
「私はアリスリーリア・ビュートル・フェリルゼトーヌ。答えなさい。誰の差し金なのですか」
「そ、それは……」
「言えませんか――エーリカ」
「は、はい」
「この者たちはなぜその男を捕らえているのですか」
雇い主を答えぬ兵たちにそれなら仕方ないとアリス様は質問の先をわたくしへ変え、そのまま視線を未だ状況を掴めずにいる露天商に向けられます。
「この者はなにか悪事を働いたのですか」
「い、いえ。度重なる税の負担にこれ以上は応じられない。そう言っていました」
わたくしも全てを見ていた訳ではありません。この目で見聞きしたことのみをお伝えし、アリス様は露天商からも証言を得ようと彼にそれは事実かと尋ねられます。
「貴方を庇うために嘘を言うとは思えません。エーリカの話は本当ですか」
「は、はい。これ以上税を引き上げられたら生きていけねぇ」
「なぜ税は引き上げられたのですか」
「フェリルゼトーヌ城の再建の為、そう言われた」
「そうですか……」
露天商はまだなにか訴えようとしますがアリス様はそれをあえて遮り、いまだ戸惑いの中にある兵士たちを睨みつけました。彼らに怒りをぶつけても意味はありません。それはアリス様もお分かりのはずです。それでも彼らの雇い主への警告になると考えたのでしょう。これは背信に等しいと兵たちを糾弾されます。
「ここは王領ホルス! 誰の許しを得て民を苦しめるのですかっ」
「アリス様……」
「……ですが、私兵である以上は誰かの命があるのでしょう」
「アリス様?」
「雇い主たる貴族へ伝えなさい。これ以上この街の民を苦しめるのであれば王は決して許さないと。良いですねっ!」
二度目はないと言わんばかりに睨みを利かすアリス様を前に兵たちは完全に怖気づいています。
露店主を捕らえ、わたくしを拘束しようとした時の覇気は全く感じません。一国の王とは言え十六、七の少女に怒鳴られてこの有様とは呆れたくなる始末です。兵たちはこれ以上、王の怒りに触れまいと揃って野次馬を押し退けるように市中へ消えていきます。捨て台詞すら吐かずに撤退する姿はなんとも情けなく見えたのはわたくしだけでしょうか。




