第24話
◇ ◇ ◇
翌朝。宿からほど近い広場に出ている屋台で朝食を取ったわたくしたちはそのまま市中を散策することにしました。理由は簡単です。街の者に怪しまれず調査をするためです。
わたくしたちのような他所から来た者――それも女がこの街を治める貴族の評判を聞き集めていると気付かれれば怪しまれ、勘の良い相手ならすぐに目を付けることでしょう。当然のことながらそれは避けなければならず、少なくともホルスの状況を城へ知らせるまでは隠密に動く必要があります。ですが……
「ね、あの屋台寄ってみようよ」
「……アリス様」
「なに?」
「ワタシたちは噂を確かめに来ているのですよ」
「わかってるよ。あ、向こうの店にも行ってみようよ」
「ですからワタシたちは……」
本来の目的を忘れ、人々で賑わう屋台街に目を奪われるアリス様はきょろきょろと周囲を見渡されます。
(こうなるのはわかっていたはず。なのになぜわたくしは……)
やはり昨日のうちに城へホルスの現状を伝える文を送るべきだったと後悔しても遅く、そう思う間にもアリス様は一人先に市場の奥へと進まれます。今日のところは休日を過ごすような感覚で街を散策した方が良いかもしれません。
「エリィ~。早くおいでよ」
「アリス様。勝手に行かないで下さい」
「エリィが遅いんだよ。ほら早く行こ」
「だからアリス様が――」
アリス様が一人先に行くのが悪いと不平を口にしようとした時でした。何処からか怒声が聞こえました。
――ふざけるんじゃねぇ!
わたくしたちの周りにいた方々も驚き、声のする方を向くほどの怒声は喧嘩のそれとは違うように思えました。なにか不満が爆発したような、そんな口調にわたくしとアリス様は顔を見合わせました。そして、
「アリス様はここでお待ちください」
絶対ここから動かないようにアリス様に告げ、わたくしは人混みを縫うように怒鳴り声の方へ向かいました。
(一体なにごとなのでしょうか)
ただの喧嘩であれば良いと思いつつ、野次馬と化した人々を掻き分け進むと声の主は意外と近く、広場の一角に店を構えている屋台の主人でした。
(あれは……)
屋台の男性と対峙し、彼の罵声を聞き流すような態度を取るのは甲冑姿の兵士でした。その数は3人。彼らはいずれも帯剣していますが剣に手を掛ける者はいません。
(見たところ私兵のようですね。しかしなぜ?)
彼らが身に着けている甲冑は騎士団の物ではありません。つまりアリス様の配下でなく、貴族など有力者が個人的に雇った私兵です。それも揃いの甲冑を与えられるほどの財を有する貴族です。
「今月の売上税は払った! まだ払えと言うのかっ!」
「フェリルゼトーヌ城を再建するためだ」
……え?




