第15話
アリス様は素っ気なく答えます。ですがその声色には本当は行きたいという思いが隠されているようでした。
「フェリルゼトーヌ家の人間は先祖(王家)のお墓に行けない決まりなんだ。父上も王家の棺を拝したことは無いんだ。だから私も出来ない」
「もしかして聖堂へ行かれないのはその為ですか」
「うん。行ったら会いたくなるでしょ」
「そうだったのですか……申し訳ありません。そのような仕来たりがあるとは知らず」
「気にしなくて良いよ。私もいつかは同じお墓に入るんだし」
無理に笑顔を作られるアリス様はその時まで我慢だねと言われます。その言葉をわたくしはどんな顔で聞いていたのでしょうか。
(お二人の最期を見届けることも出来なかったのに、墓参りすら許されていないとは……)
ロラウ様と王妃様の棺がある大聖堂は城のすぐ近くにあります。行こうと思えばすぐに行ける距離なのです。それなのに仕来たりがあるからと聖堂へ近付くことすらされないアリス様の心境は計り知れません。
「エリィ、我儘を言っても良い?」
「ワタシに出来ることなら」
「私の代わりに父上たちのお墓に行ってくれる?」
「ワタシで良いのですか」
「うん。フェリルゼトーヌ王の名代が務まるのはエリィだけだよ。引き受けてくれる?」
「アリス様――」
まるであの時のようですね。わたくしを近衛騎士として迎え入れて下さった時と同じです。決して無理強いはせず、けれど瞳の奥ではわたくしが頷くのを待っています。
「陛下の名代、謹んでお受けいたします」
「ありがと。もう。そんな固くならなくて良いんだよ」
「これが普通なんですっ」
まったくこの方は。わたくしたちは親友であると同時に主君と臣下の関係なのです。メリハリは大切だというに二人の時は主従の関係性を嫌われます。
(もうこんなところまで来たのですね)
何気なく車窓に目を向けると王都を囲む二重城壁の内側の壁、第一城壁を超えていました。この先、外側の壁にあたる第二城壁までは牧草地や畑が広がるほか農夫たちの家が点在しています。
(愛する人が待っているのですから当然ですよね)
窓の外眺めるアリス様の表情は頬が緩んでいるように見えます。わたくしもウィル様へは一度挨拶をしなければと思っていました。アリス様がクーゼウィンではどのようにお過ごしになっていたのか。祈りという形でご報告し、そしてウィル様がなされたようにアリス様を御守りすると誓いを立てなければなりません。
ウィル様が眠る墓地まではあと少し。アリス様の正面に座るわたくしは馬車の心地良い揺れに身を委ね、遠くまで見通せるような青空が広がる景色を楽しみました。




