第12話
「ワタシはサミル様の慈悲で生かされました。十字架を背負い、騎士としてアリス様をお守りする事で罪を償わないとなりません」
生かされた以上、多少の誹謗は甘んじて受けなければなりません。それを覚悟のうえでお仕えしています。けれどもアリス様はそれを良しとせず「違うよ」と自信のお考えを述べられました。
「罪は償わないといけない。でも謗言が許されるわけじゃない」
「ですがアリス様。ワタシは――」
「私は間違ってることを間違ってるって言ってるだけだよ」
別にエリィを特別扱いするつもりはない。アリス様はそうキッパリと言い切られます。
「エリィのことは好きだよ。でも特別扱いはしない。そうしないとフェアじゃないからね」
「それならなぜブレアム様にあのようなことを言ったのですか」
「エリィは言わないの? 私が同じように悪口を言われても怒らないの?」
「怒りますっ。アリス様はワタシの大切な方です。相手が誰であろうともアリス様を悪く言う方は許しません!」
「それと同じだよ」
皆がどう思うか関係ない。わたくしの悪口を言う者には厳しく接する。そう言われるアリス様はもう一度練り直しだねと苦笑されました。
「この話はもう終わり。少しだけ一人にしてくれる?」
「え、あの。アリス様?」
「ブレアム卿との懇談日を考えなきゃ」
「でしたらワタシも――」
ワタシも一緒にと言いそうになりましたがアリス様の目を見ると最後まで言えず、わたくしは自室にいる旨を告げて素直に執務室を出ることにしました。アリス様も彼の発言にはショックを受けていたようです。わたくしを見つめる瞳は悲しみを堪えているように見えました。
(わたくしのせいでアリス様を悲しませてしまうなんて……臣下として最低ではないですか)
執務室から自室へ向かう僅かな道程、いつもより長く感じる廊下ですれ違う従女たちはわたくしの姿を見るたびに立ち止まり深く一礼します。アリス様の近衛騎士というだけで貴族でもない自分を敬う姿に申し訳なさを感じます。
「陛下の騎士ならもっと胸を張れ」
「え?」
聞き慣れた声に振り返るとそこには部下を連れたグラビス様がいました。おそらく城内を見回っている際にわたくしを見かけたのでしょう。なにも知らない様子のグラビス様は周囲を気にしつつ、ブレアム様はどうしたと尋ねられました。
「つい先ほどお帰りになりました」
「なに?」
「実は――」
出来るだけブレアム様の名を汚さぬよう、言葉を選びながら事情を説明するとグラビス様は難しい顔をしつつもアリス様の言動を肯定され、あまり公にしない方が良いと判断されたのか背後に控えていた二人の部下に屯所へ戻るよう命じました。その際、部下の一人がわたくしにだけ礼をせずに立ち去り、彼らの姿が見えなくなるとグラビス様は困った奴だと溜息を吐かれました。
「礼をするなら俺よりエーリカ殿だろ」
「い、いえ。騎士団長はグラビス様ですから」
「だがエーリカ殿は陛下を直接御守りする唯一の近衛騎士だ。もっと誇りに思え」
わたくしが羽織っているケープに目をやり、それが証拠だと言われるグラビス様はきっとわたくしが謙遜していると思われたのでしょう。ケープに施された金糸の刺繍に自信を持てと言われます。




