第11話
「貴殿は確か……」
「王立騎士団所属、エーリカ・H・レーヴェンと申します。縁あって女王陛下の近衛騎士を務めさせて頂いています」
「……反逆者の娘か」
「…………」
「こんな小娘が騎士とは先が思いやられる」
わたくしにしか聞こえないような小声で呟かれる辺境伯の言葉に思わず唇を噛みました。わたくしを傍に置いて下さったアリス様の顔に泥を塗っているようで悔しくて仕方ありませんでした。
「――ブレアム卿」
「アリス……様?」
「いまの言葉、本気ですか」
「っ⁉」
普段のアリス様では考えられない低い声、そしてブレアム辺境伯を睨みつける姿にわたくしは背筋が凍る思いをしました。
「答えなさい。誰が反逆者の娘ですか」
「アリス……陛下。わたくしは構いません。どうかお気になさらず」
「あなたは黙ってなさい」
「アリス様……」
「エーリカは王立騎士団の騎士。それも私の近衛騎士です。彼女を侮辱することは王家への冒涜です。良く心得なさい!」
声を荒げ、怒りを露にするアリス様はブレアム辺境伯へ今日は下がりなさいと命じられました。
「この状況で国の将来を語り合うなど出来ません」
「し、しかし陛下。この者は――」
「聞こえなかったのですか?」
「っ⁉」
「もう一度だけ言います。下がりなさい」
「……失礼しました」
怒りを鎮めようと試みる辺境伯を容赦なく切り捨てるアリス様の態度にこれ以上は不利だと悟ったらしく、不満げながらも命令に従う姿にわたくしは居心地の悪さを感じます。彼の一言で執務室の空気が重たくなりました。
「懇談の場は改めて設けます。次、エーリカを侮辱するような真似をすれば、わかりますね?」
「――畏まりました」
アリス様に背を向けたまま答えるブレアム様はそのまま執務室を出て行きます。その姿を見送るわたくしは自分のせいで両者の予定を狂わしてしまったことへ罪悪感を覚えました。わたくしがクーゼウィンの人間でしかもアリス様に手を下そうとした過去があるから故に起きてしまったことなのです。
「アリス様――」
「嫌な気持ちにさせちゃったね」
「い、いえ。ワタシは別に――」
「宰相候補があんなこと言っちゃダメだよね」
ごめんねと呟かれるアリス様の表情は暗く、彼を宰相候補にした責任を感じていられるようでした。謝るのはわたくしです。それなのにアリス様はわたくしを気遣ってくださいます。そのお気持ちはとても嬉しく、身に余るものがあります。ですが……
「アリス様」
「なに?」
「ワタシはアリス様にお仕えする騎士です。しかし、父上の行った愚行は事実であり、私もその片棒を担ぎました」
本当であれば父上と同じく死を賜るはずでした。ですがサミル様は国外追放という形で御許しになり、アリス様も自身の騎士としてわたくしを迎え入れて下さいました。それで十分ですし、生かされたからと言って罪が消える訳ではないのです。




