第9話
「ワタシはいつでもお傍にいます。この国の全てがアリス様の敵になったとしてもワタシは陛下の味方です」
「エリィ?」
「だからなにも不安に思うことはありません。アリス様は自身が目指す民の為の国を造って下さい」
アリス様ならロラウ様が成し遂げられなかった民と貴族が平等に暮らせる国を造ることが出来ます。わたくしはそう信じています。
「明日は宰相候補との面会ですよね。ワタシは下がりますのでお休みください」
「えぇ~。もうちょっといてよ」
「また寝坊したらどうするのですか。ワタシは知りませんよ」
「そう言っていつも起こしてくれるよね?」
期待していると言わんばかりに笑顔を見せるアリス様は立ち上がり、壁際に据え置かれた机へ向かわれました。机上には宰相候補となる貴族の身上書が置いてあり、彼らとの面会までに目を通すようにお伝えしています。
「寝る前に明日の準備するから、エリィは先に休んで良いよ」
「いまから確認するのですか」
「だって明日だよ。なにも準備しないで臨んだら相手に失礼でしょ?」
「それはそうですが――」
そう思うのならもっと早く始めて欲しいところですがいまに始まったことではありません。なにより、わたくしとの時間を作る為に執務を後回しにされているのです。翌朝寝坊するとわかっていても強くは言えません。
「あまり遅くならないようにしてくださいね」
「わかってるよ」
「それではワタシは下がりますね」
「うん。おやすみ」
一礼するわたくしに手を振って応えられるアリス様は椅子に座り、大きく伸びをされると机上に置かれていた書類に目を通し始めました。その瞳には真剣さを感じ取れ、わたくしが声を掛ける隙など微塵もありません。
(あまり遅くならないで下さいね)
執務に集中されるアリス様に再度、一礼をして部屋を出るわたくしは陛下の気が散らぬように退室する際の扉の開閉も静かに行いました。あの様子なら明日の面談は問題なく終わりそうです。今日の懇談会も出席者全員の略歴を把握されていました。事前の準備を抜かりなく行って頂けるのはわたくしとしても助かります。
宰相不在ではアリス様に負担が掛かったままです。少しでも気を楽にして頂くためにも早急に次期宰相を決めなければなりません。ですが、そこには慎重さも求められます。アリス様のことですから性急な判断はされないと思いますがその時は臣下として意見具申しましょう。
懇談会に面談と似たような公務が続きますが全てはこの国の未来に繋がっているのです。
(しばらくは忙しい日々が続きそうですね)
忙しいことは良いことです。少なくともわたくしはそう思います。アリス様には少し無理をさせてしまうことになりますね。しかしそこはわたくしがしっかり支えれば問題ありません。明日からもアリス様の騎士として、なにより一番の友人としてアリス様を支えようと決めたわたくしは城の1階にある自室へ戻りました。




