第6話
「難しく考える必要はない。エーリカ殿はいまのまま、陛下の側にいるだけで良い」
「はい。わたくしの命はアリス様にお預けしました。ずっとお傍にいます」
アリス様と貴族たちを結ぶ懸け橋になろうとなど大それたことは思っていません。ですがわたくしだから出来ることはあるはず。その思いを胸にわたくしは晩餐会も終盤に差し掛かる中、サミル様たちと談笑されるアリス様を見守りました。
◇ ◇ ◇
晩餐会を終え、私室へ戻ったアリス様は部屋に入るや否やベッドへ飛び込み「疲れた」と嘆かれました。
「招待状出し過ぎたよ~。もっと減らせば良かった」
「減らせばって……他では言わないでくださいね」
「わかってるよ。で、グラビスとなに話してたの?」
「気付いてたのですね」
時折視線を感じていましたがやはり見られていたのですね。身体を起こし、ベッドの淵に座り直すアリス様は首を傾げわたくしを見つめます。特に疚しい話ではありませんが、ありのままをお伝えする気にはなれません。
「アリス様をしっかり支えるよう、そう言われました」
「そっか。グラビスも心配性だね」
思っていた通りなのかクスッと笑われるアリス様。いまでも充分だと仰いますがわたくしは素直に謝意を伝えることが出来ません。
「ワタシにはまだまだ至らぬ点があります。グラビス様はそれを見抜いた。それだけです」
「ほんと、エリィは真面目だよね」
「事実を述べただけです。ワタシには近衛騎士として足らぬところが多くあります」
「自分の欠点に気付けるのは自分を俯瞰して見れているってことだよ。でもエリィの場合、少し卑下し過ぎかな」
客観的に自分自身を評価するのは悪いことではない。そう言って下さるアリス様はいまのわたくしで良いと仰いました。
「これから先、私に対して真正面から物を言える人はこれまで以上に減ると思うんだ。ある意味仕方がないことだよね。だって私がこの国の王なんだから」
「それは……」
「でもね、それだとダメだと思うんだ。ちゃんと悪いことは悪いって言ってくれる人が側にいなきゃ」
「それがワタシですか?」
「うん。エリィは私が悪いことをすれば怒ってくれる。この国の人間には出来ないことだよ」
民を見下しているわけではない。そう付け加えられるアリス様の言葉の意味はわたくしにも分かります。クーゼウィンにいた頃のわたくしは宰相の娘という異名が常に付きまとっていました。何処に行こうともレーヴェン家の娘だからと特別扱いされました。アリス様が言いたいのはそう言うことです。




