第4話
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アリス様の即位を祝う晩餐会は城の1階、大広間でサミル様をはじめとする来賓の祝意に包まれ始まりました。
(本当に良かったのでしょうか)
アリス様の我儘……もとい、希望で戴冠式に続きアリス様と共に時間を過ごすこととなったわたくしは久しぶりの華やかな場に少し戸惑いました。
クーゼウィンでは貴族令嬢だったわたくしもいまでは平民。アリス様の御高配で近衛騎士の身分を与えられていますが、なんとなく居心地の悪さを感じます。
(あれは……ブラーギン伯爵?)
会場の隅で宴の様子を見守っていると見慣れた顔と視線が合いました。戴冠式に続き、この場にもクーゼウィンの貴族が招待されているとは聞いていましたが彼も来ていたのですね。
わたくし自身は特に接点はありませんでしたが父上とはそれなりの交流があったと記憶しています。直接話したことはなく、どんな考えの持ち主なのか分かりませんがわたくしに向ける視線は決して好意的とは言えません。
「……宿命、なのでしょうね」
アリス様の騎士となったことに後悔はありません。貴族令嬢の身分を剥奪され、国外追放となったことも異論ありません。ですが、わたくしのせいでアリス様やサミル様に向けられる目が歪んだものになってはなりません。
「――わたくしは命に代えてでもアリス様を御守りすると決めたのです。ならばその役目を果たすのみです」
過去を変えることは出来ません。アリス様を殺そうとしたことも父上がアルフォンヌ伯爵と共謀していた事実もなにひとつ隠すつもりはありません。いまはただ、それでも近衛騎士として傍に置いて下さったアリス様の期待に応えるのみです。それで良いのです。




