第2話
「――女王陛下。お客様をお連れいたしました」
「お通ししなさい」
扉越しに聞こえるグラビス様の声に落ち着いたトーンで応えるアリス様は少し硬くなっているようでした。王として初めて迎える客人なのです。緊張しても仕方ありません。ですがそれは客人の入室と共に緩み、王の威厳を醸し出していたアリス様は一気に力を抜かれました。
「サミ君!」
「お久しぶりです。女王陛下」
「もう。お客さんってサミ君だったんだ」
久しぶりの対面に立場を忘れ、サミル様との再会を喜ばれるアリス様は思考が追い付かない様子のグラビス様へ他人祓いを命じました。
「クーゼウィン王が客人です。呼ぶまで外に控えなさい」
「畏まりました。なにかあればお呼び下さい」
「アリ――陛下。わたくしも下がった方が……」
「エリィもサミ君と会うのは久しぶりだよね」
「しかし――」
アリス様の誘いに戸惑うわたくしは思わずサミル様を見つめてしまいます。国外追放を受けたあの日を最後に拝見することはないと思っていたサミル様の顔はあの時と同じでバツが悪そうでした。
「女王陛下が構わないと言うのなら私は構わん」
「だってさ。さ、立ち話もなんだからこっちへおいでよ」
「で、ですが……」
気を使わなくて良い相手――いえ、本来なら気を使うべき相手なのですが普段通りのアリス様に困惑するわたくしにサミル様は苦笑されます。
「相変わらずのようだな」
「いつものことです」
「そうか。元気にしているようで安心した」
アリス様の騎士という立場上、アリス様の客人との私的な会話は慎まなければなりません。そんなわたくしに気を使われ、軽く言葉を交わしただけでアリス様の側に向かわれるサミル様をわたくしはどんな顔で見ていたのでしょうか。複雑な思いではありますがいまのわたくしはアリス様も近衛騎士です。その名に恥じる姿は見せれません。
「エリィも座りなよ」
「いえ。わたくしはこのままで構いません」
「却下。いまは関係ないよ。だよね?」
「女王陛下がそう言われるなら」
「サミ君も堅いなぁ。もっと気楽にして良いんだよ」
「アリス様。サミル様はクーゼウィン王なのですよ。いくら親しいとはいえ少しは――」
臣下として苦言を呈すわたくしをサミル様が遮ります。
「いまは非公式の場だ。気にすることは無い」
「ですが……」
「それより、陛下が許されているんだ。座ったらどうだ?」
主君の気遣いに応えるのも臣下の務めだと言われるサミル様とそれに同意するアリス様。サミル様から諭されるのは良しとして、アリス様が頷かれるのはなんだか釈然としません。
「なんか怒ってない?」
「怒ってません。アリス様が頷かれるのが腑に落ちないんです」
「怒ってるじゃん」
「怒ってませんっ」
アリス様の隣、サミル様と向き合うようにソファーに座るわたくしですがその所作は少々乱暴なものでした。客人に見せるような動作ではなく、主君の顔に泥を塗るような態度ですがお二人ともそんなわたくしに笑みを溢されます。




