プロローグ
――アリス様!
女王陛下の御寝所。ベッドの中で丸くなっているアリス様を前にわたくしの怒りは頂点に達しようとしていました。
アリス様の寝坊はいつものことであり、多少寝坊しても10分もあれば身支度出来る方です。しかし今日は戴冠式。アリス様がフェリルゼトーヌの新たな王であると民たちへ宣言する大切な日なのです。本当であればすでに身支度を始めていなければならないのです。
「アリス様! いい加減起きて下さい!」
「…………」
「戴冠式まで時間が無いのですよ!」
「………………」
「だからあれほど早く寝て下さいと言ったではないですか!」
「……………………」
「早く起きて下さいっ。アリス様っ!」
幸せそうな寝顔の主君を容赦なく揺さぶるわたくしはきっと鬼のような形相だったことでしょう。ギリギリまで寝かせて差し上げようと決めたのはわたくしです。それは分かっています。ですが限度と言うものがあります。これ以上の寝坊はアリス様の権威に関わります。どんな手を使ってでも起こさなければ。
「アリス様! 起きて下さいっ! 戴冠式なのですよ!」
「……うにゃ」
「なにが『うにゃ』ですかっ。早く起きて下さいっ!」
力任せに揺さぶり続け、ようやく反応を見せてくれたアリス様ですがお目覚め頂けません。こうなれば実力行使です。まったく起きようとしない主君の足首を掴むと静かに、怒りを抑えながら主の名を口にしました。
「アリス様……」
「……うにゃ?」
「いい加減……」
――起きて下さいっ!
叫ぶと同時に勢いに任せアリス様をベッドから引きずり落としました。




