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終焉王女と覚醒騎士の王国創世記  作者: 織姫
第1幕 王女と騎士の帰還

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第54話

           

                  ◇ ◇ ◇ 


 アルフォンヌ伯爵を討ったその日。わたくしたちはグラビス様の計らいで王家と親交が深く、国王陛下とも個人的な付き合いがあったと言うある貴族の屋敷で過ごせることになりました。

 屋敷の主人であるローレン伯爵や使用人たちはアリス様の姿を見ると涙を流し、血まみれのわたくしを見れば全てを悟ったようでなにも言わず、淡々と着替えを用意して下さいました。

「噂には聞いておりましたが、本当に王女殿下がご無事だったとは。お亡くなりになった陛下と王妃様も安心しておられることでしょう」

「そうだと良いのですが。わたくしまでお世話になってしまい申し訳ありません」

「エーリカ様は王女殿下を御守り下さいました。当然のことでございます」

 屋敷の主に代わりわたくしたちの世話をして下さる女中は「なにも気にされることは無い」と言い、恭しく一礼をして部屋を出て行きました。

「…………」

 女中が出て行き一人となったわたくしはベッドに横になるわけでもなく、ただ茫然とその場に立ち竦みました。アリス様を御守りする為とは言え人を殺めたことへの恐怖、不覚にも父上の仇を取ったことを喜ぶ己への嫌悪感、あらゆる感情が入り混じりとても休もうとは思えませんでした。

 ふと窓の外に目をやれば廃墟となったフェリルゼトーヌ城があり、その右手には離宮が見えます。アルフォンヌ伯爵は死にました。わたくしがこの手で彼の胸に剣を突き刺しました。まもなくグラビス様の部下が離宮へ入り、死体の処理を始めるでしょう。

「……全て終わったのですよね」

「まだ終わってないよ」

「アリス様?」

「もう。やっぱり気付いてなかったんだ。無防備過ぎるのはダメだよ」

「あの、いつからいらしたのですか」

 確かアリス様は伯爵とグラビス様の3人で話をされていたはず。今後の道筋を決める話し合いだと思っていましたがもしかして違ったのでしょうか。

「せっかちだよね。私の顔を見た途端、ローレン伯爵ったらいつ戴冠式するかって言いだすんだから」

「は、はぁ……」

「アルフォンヌ伯爵は討てたけど、この事実をどうやって民に伝えるかが問題なのにね。エリィはどう思う?」

「その、いきなり聞かれても……」

 口を尖らせ不満を露にされると言いことは話が纏まらなかったのでしょうか。もしそうなら新たな火種にもなり兼ねないと心配になります。

「大丈夫だよ。別にそう言うのじゃないから」

「顔に出てましたか」

「エリィって解り易いよね。それで、なにを考えてたの」

「ワタシは人を殺めました」

「うん」

「正しい判断だったと確信しています。それでも怖いのです」

 胸の中を蠢く迷いを打ち明けるわたくしを前にアリス様はなにも言わず、ただ静かに話を聞いて下さいます。

「伯爵に剣を向けた時、不覚にも父上の仇を取りたいと思いました」

「うん」

「父上が処刑された際もなにも感じなかったと言うのに、この期に及んで仇を取りたいと思ったのです」

「そっか。それって当たり前だと思うよ」

「当たり前、ですか?」

「だってレーヴェン公はエリィのお父さんなんだよ。どんなことがあっても親子の縁は切れないし、心の底から嫌いになんかなれないよ」

「アリス様……」

「私ね、王政を廃止しようと思ってるんだ」


「……え?」


 思いがけない告白に言葉が詰まりました。王政の廃止? それはつまりアリス様が女王ではなくなると言うことですか? 思考が追い付かないわたくしはアリス様を見つめてしまいます。

「急にごめんね。別にすぐって訳じゃないよ。ただ、いつかは無くすべきだと思ってる」

「理由を教えて頂けますか」

「アルフォンヌ伯爵を見て分かったんだ。貴族って身分はこの国に必要ない。この国に住まう皆が平等に暮らすには身分制度を変えなきゃいけない」

「だからって王政を廃止しなくて良いではありませんか! 誰がこの国を導くのですかっ」

 主君に対して詰め寄るわたくし。八つ当たりと言われても構いません。アリス様なりにお考えになった末の結論なのです。私がどうこう言える筋合いはありません。それでも納得できるわけがなく、自然と涙が頬を伝いました。

「ワタシはアリス様が統べるこの国の未来が見たいのですっ。亡き王に代わって民を導くアリス様が見たいのです……その為にお仕えすると決めたのです」

「ごめんね。確かに王政は無くしたい。でもだからこそ、その時が来るまで、私が責任もって皆を導くよ。最後の王として、誰かがエリィみたいに悲しい思いをしなくて良いように、私が道を作るから」

「……アリス様?」

 優しく抱きしめて下さるアリス様は「ごめんね」と口にされます。当然ながらアリス様が謝る必要などありません。それでも我儘な王女でごめんねと言われる我が主君は涙を流されました。

「私一人の力じゃどうにもならないかもしれない。けど頑張るから。頑張って皆を導くからっ」

「アリス様……」

「だからお願い。これからもずっと側にいて」

「アリス様……」

 本当はもっと強く思いの丈をぶつけたい。そう思ってもアリス様はわたくしの主君。わたくしが感情を露にすることは控えるべきです。でも今日だけはお許しください。

「……何処にも行く訳ないじゃないですかっ」

 決めました。アリス様が最後の王になるのであれば見届けましょう。最後の王として民に未来を託す姿を傍で見守り共に進みましょう。


――アリス様、ずっとお傍にいます


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