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終焉王女と覚醒騎士の王国創世記  作者: 織姫
第1幕 王女と騎士の帰還
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第4話

                    ◇ ◇ ◇

 離宮に戻ったのは四時過ぎのことでした。

 馬車から降りたところで門番の兵に変わったことはないかと尋ねると「アリス様が……」となにか言い難そうに口籠るではないですか。

「また、お忍びですか」

「申し訳ありません」

「それでアリス様はどちらに?」

「すでにお戻りになっております」

 お帰りになられているのであればこの者をこれ以上咎める理由はありませんね。いえ、アリス様のことですから衛兵たちの目を盗んで柵を乗り越えたのでしょう。そしてお戻りの際は堂々と門から入り、そこで初めて兵たちは気付くのです。まったく、一国の王女という立場でありながらなにを考えておられるのか。護衛として仕えるわたくしの身にもなって欲しいものです。

「アリス様にはわたくしから強く言っておきます」

「申し訳ございませんでした」

 恭しく頭を下げる門兵の横を抜け、離宮の中へ入るわたくしはどうアリス様を叱るか考えつつ屋敷の中に入ります。お忍びと称して自由奔放な行動をされるアリス様には本当に困っています。お怪我でもされたらわが国の恥であり、外交問題に発展しかねません。

(ですが、いずれ殺めることとなるのなら一層のこと――)

 外出中のアリス様をだれかが襲えばわたくしは自らの手を汚すことなく、あの人からの命令を遂行できます。それなのになぜ衛兵たちの目を盗み不用意に外出なさるアリス様を咎めようと思うのでしょうか。

「あ、エリィおかえり。サミ君なんか言ってった」

「アリス様――また勝手にお出掛けになられたんですか」

「バレた?」

「……」

 廊下の向かい側で手を振り、わたくしを出迎えるアリス様にため息すら出ません。

「どうしたの? サミ君に怒られた?」

「アリス様。陛下のことを気安く“サミ君”などお呼びするのはお止めください」

「会う時はちゃんと“陛下”って呼んでるよ」

「そういう問題では……それより、どうして勝手にお出掛けになるのですかっ」

「だ、だって……」

 退屈だからと言いたげなアリス様は上目遣いでわたくしを見つめますがその程度で許すほど甘くはありません。

「アリス様はフェリルゼトーヌの王女であり、王家唯一の生き残りなのですよ! もしものことがあったらどうするのですかっ」

「ご、ごめん。でも、クーゼウィンの人たちはみんな優しいから――」

「それでも万が一ということがあるではないですか。お願いですから外に出られるのなら、せめてワタシには前もって言ってください」

「うん。わかった。ごめんね」

 きつく言い過ぎたのしょうか。シュンとするアリス様を見ていると少し可哀そうに思えてしまいます。

「あの、別に怒っている訳じゃないのですよ。ワタシはただアリス様が心配で――」

「ありがとね。次からはちゃんと言うよ」

「お願いしますね」

 このやりとりも何度したことでしょう。毎回注意してはその場限りの反省を見せるアリス様は翌日にはまたお忍びと称して離宮を抜け出し、城下を散策されるのです。わたくしたちにとっては日常なのです。

「それで、今日はどちらまで?」

「城の西側。孤児院があるでしょ」

「え、ええ……って! お一人で行かれたのですか⁉」

「エリィはサミ君のところ行ってたでしょ」

 そういうことを言ってるのではありません。他国の王女とはいえ、王族が孤児院へ行かれるなどクーゼウィンでは考えられません。向こうの方もさぞ驚かれたのでないでしょうか。

「最初は驚かれたけどね。いまは私が来るのを楽しみに待ってくれてる子もいるみたいなんだ」

「初めてではないのですかっ」

「う、うん」

 まったくこの人は。この国の慣行を壊す気なのですか。孤児や貧しい者への施しは教会の役目であり、援助はしても国が関わることはありません。ましてや王族が視察などあり得ないのです。やはり、この方はクーゼウィンにとって悪しき者なのでしょうか。

「もしかして、やっぱり怒ってる?」

「そう思うのなら少しは自重してください。フェリルゼトーヌとクーゼウィンでは王族の立場が違うのですよ」

「ご、ごめんなさい」

「次からはワタシも同行します」

 なぜここで行くなと言えないのでしょう。アリス様の身を守り、節度ある行動を促すべき護衛騎士なのにわたくしは逆のことをしてしまっています。

「アリス様をお一人で行かせる訳には参りません。今後はワタシもご一緒します」

「ほんとっ⁉」

「はい。ですからあまり勝手な行動はなさらないでください。食堂に行きましょうか」

 立ち話にしてはだいぶ時間を使ってしまいました。気付けば窓の外は日が暮れ始め、侍女たちが廊下に等間隔で据え付けられたランプに火を灯していました。夕食の時間を少し過ぎてしまっているでしょうか。

「給仕たちを待たせるのも悪いですし、早く参りましょう」

「エリィがお腹空いてるだけじゃないの~?」

「そ、そんなことないですっ」

 ニヤッと笑うアリス様を前にプイとそっぽを向くわたくしですが怒るつもりはありません。強いて言うのであれば、いずれは殺すことになる相手とこのようにじゃれ合う自分に戸惑っているのです。

(わたくしはいったい、なにをしているのでしょうか)

 アリス様の暗殺を命じられて半月あまり。依然として実行に移すことが出来ないわたくしは今日もこうしてアリス様との他愛ない一日を終えようとするのでした。


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