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終焉王女と覚醒騎士の王国創世記  作者: 織姫
第1幕 王女と騎士の帰還

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第48話

                ◇ ◇ ◇


「まったく、あれほど遅くなるなと言ったではないか」

「申し訳ありません」

「グラビス。エーリカは悪くありません。私が我儘を言ったのです」

「だとしてもです。殿下の存在はまだ伯爵へ知られたら拙いのです。殿下が国に戻ってると知られたら命を狙われ兼ねないのですぞ」

 わたくしたちが宿舎へ戻ったのが夕刻。敷地へ入るな否やわたくしたちはグラビス様の執務室へ通され、帰りが予定よりも大幅に遅れたことを叱責されました。

「殿下。城下の街を散策されたいお気持ちは分かります。ですがいまは伯爵を討つ方が先です」

「ごめんなさい」

「エーリカ殿も殿下の護衛ならもう少ししっかりしてくれ」

「申し訳ありませんでした」

「まぁ、ご無事でなによりです――殿下たちが城下へ出掛けられている間に作戦の素案を纏めておきました」

 本題はこちらと言わんばかりにグラビス様はテーブルの上に一枚の間取り図を広げ、これは離宮の間取り図だと説明されました。

「これは離宮の建築当時のものですが現在に至るまで変わりありません」

「よく見つけましたね」

「幸い書庫があった東側は全焼を免れたので残っておりました」

「そうですか。それで、具体的にはどう動くのですか?」

「それについては今からご説明します」

 グラビス様は指揮棒を取り出し、その先端を間取り図に向け、立案した内容の説明を始めました。

「まず、決行は明後日の深夜。夜の闇に乗じて離宮へ向かいます」

「私たちはどうすれば良いですか?」

「殿下たちは裏門から邸内へお入りください。離宮までは我々が護衛いたします」

 「わかりました。グラビスたちはその後どうするのですか」

「表へ回り、正門から邸内へ入ります。女中らがいるでしょうから彼女たちの身の確保をします」

「そうですか。ですが、決して従女達に危害を加えてはなりません。これは厳命です」

 なにがあっても女中らに剣を向けるなと厳に命じられるアリス様は厳しい顔をされています。

(暗闇に乗じての急襲は一理あると思います。ですが――)

 グラビス様が立案した案は欠点があるように思いました。中でも特に懸念すべきは人的な問題です。

 大前提としてアルフォンヌ伯爵に悟られぬよう動かなければなりません。そうは言ってもそれなりの人員を割くべきところをグラビス様が同行させるとした兵はたったの四人。いずれも先日の話し合いの場に参加していた方々です。

「グラビス様、一つ宜しいですか」

「数の問題だろ。確かに出そうと思えばここの人間全員を出せる。だが数が多ければそれだけ気付かれる可能性がある」

「それはそうですが、もし伯爵側に兵がいたらどうするのですか」

「心配ない。伯爵は側に武器を持った人間を置きたがらない。離宮にいるのは奴と女中だけだ」

「そうなのですか。それはそれで不用心ですね」

「心のどこかで命を狙われていると思っているんだろう。女中らも奴に仕えてはいるが今でも陛下に忠誠を誓っているはずだ」

「そうですか。それなら良いのですが」

 心配するなと自信ありげなグラビス様ですがわたくしは一抹の不安を隠せません。グラビス様の考えは楽観的で失敗に終わるリスクが高過ぎると思います。

「大丈夫ですよ」

「アリス様?」

「グラビスの考えは一見すると諸刃の剣に見えますが、こう見えて彼は入念なプラン作りをするのですよ。ですから、私はグラビスを信じます」

「分かりました。グラビス様、失礼を御許し下さい」

「頭をあげろ。それより、殿下を御守り出来るのはあんたしかいない。俺たちの代わりに殿下を守ってくれ」

「言われなくともわたくしは殿下の騎士です。命に代えてでも御守り致します」

 そうです。わたくしはアリス様の騎士なのです。なにがあっても御守りすると決めたではないですか。アルフォンヌ伯爵を討つことに固執していました。アリス様さえ無事であるなら何度でも彼を討つチャンスはあるのです。

「グラビス様。伯爵は普段どこにいるのですか。居場所がわからなければ離宮に入っても空振りになる可能性があると思うのですが」

「安心しろ。ちゃんと調べている。離宮へ出入りしている者の話では伯爵は夜、娯楽室でチェスを愉しむのが日課らしい」

「娯楽室――と言うことは2階ですね。グラビス、私たちはそこへ向かえば良いのですね」

「はい。私たちは邸内へ入ったのち、邸内の捜索を行います」

「わかりました。それで行きましょう」

「承知しました――聞いての通りだ。各自、決行までくれぐれも他言せぬように」

 夜も更けてきたからと作戦会議の終了を告げるグラビス様。同時に参加していた兵の一人が欠伸をしました。

「おい。殿下の前だぞ」

「も、申し訳ありません」

「私は気にしませんよ」

 委縮する兵を前に微笑むアリス様もどこか眠たそうです。わたくしも普段であれば床に就いている時間ですので瞼が重くなっています。

「エーリカも眠たいようですね。部屋に戻りましょうか」

「は、はい」

「それでは。私たちはこれで。なにかあれば明日報告ください」

 眠気を堪えて凛とした姿を見せるアリス様は席を立たれ、それに合わせてわたくしも立ち上がります。

「皆さん、遅くまでご苦労様でした。しっかり休んでくださいね」

「殿下、お部屋まで護衛を」

「大丈夫ですよ。グラビスも早く休みなさい」

「ですが……分かりました」

 なにか言いたげなグラビス様ですが労りの言葉を掛けるアリス様を前に言い出せず、部屋を出るわたくしたちを見送るにとどまりました。

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