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終焉王女と覚醒騎士の王国創世記  作者: 織姫
第1幕 王女と騎士の帰還

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第43話


                 ◇ ◇ ◇


 その晩、わたくしたちは城門を守る警備隊の宿舎に泊まることになりました。

 宿舎は城門の内側、つまり王都へ入ることが出来たわたくしたちは簡単に身分を調べられました。念の為と言う側面が大きく、極めた簡単なもので調べはすぐに終わり、そのまま宿舎へ案内されいまに至ります。

(アリス様をご存じの方がいたとはいえ、本当に信じて頂けるなんて。それも宿舎まで提供いただけるとは)

 用意された部屋は当然客人用ではありません。二人部屋をお借り出来ましたが間取りは兵が使うそれと同じです。細長い室内は二段ベッドと机が一組だけの簡素な造りとなっています。

「あの方は近衛騎士団長だったのですね」

「そうだよ。政変の後、城門警備に左遷されたらしいけど無事で良かったよ」

「はい。こうして宿舎をお借り出来ましたし、グラビス様でしたか。あの方には感謝ですね」

 わたくしたちが王都へ入ることを許されたのはアリス様の御召し物に施された刺繍が王家のみに許された模様であってことが決め手になりました。もちろん、騎士団長として長年、御一家を間近で見られてきたグラビス様の証言が一役買ったのは間違いありません。

「でも良かったよ。グラビスだけでも王都に残っててくれて」

「あの方がいなければ今頃野宿でしたからね」

「別に嫌いじゃないけど、まさか通行証が必要になってたとは思わなかったよ」

「それは仕方ありません。この国はいま伯爵の手にあるのですから」

 読みが甘かったと苦笑いするアリス様を慰めるわたくしは偶然とはいえ、グラビス様に出会えたことを神に感謝しました。

「他のみんなはどうしてるのかな」

「騎士団の方々ですか?」

「うん。皆、辺境に送られたんだよね」

「はい。そう伺っています」

 グラビス様の話によれば近衛騎士団は解体されたのち、属していた騎士のほとんどは辺境の地へ送られたそうです。それでも団長を務めていたグラビス様を始めとする数名の“元”騎士だけが王都へ残ることを許され、城門の警備を命じられたそうです。

「話では王都は鎖国に等しい状態となっているそうですが、目的はいったい……アリス様?」

「ねぇ、エリィ?」

「はい」

 惚けるつもりはありませんが出来ることなら、いまはアリス様から顔を背けたく思います。なぜならいまのアリス様はこれまでにない程にご立腹なのが見て分かるのですから。

「なんで怒ってるか、わかるよね」

「……はい」

「やっと王都に入れたんだから言いたくはないよ。でも言わせて。なんであんな言い方したの」

「それは……」

 アリス様は城門でのわたくしと兵のやり取りについてお怒りになられています。それは言われなくとも理解できます。だからわたくしはなにも言わず、お叱りの言葉を受けます。

「あの言い方なら身に危険が及ぶことくらい分かるよね」

「申し訳ありません」

「なんで自分を犠牲にしようとするの! 私そんなの望んでないよ!」

「言葉足らずだったことは反省しております。ですがあの場ではあのように言うのが――」

「理由にならないよっ。エリィが傷付いて得た物なんか全然嬉しくないよっ」

 涙声で叫ぶように私を叱るアリス様は顔を真っ赤にされています。わたくしに責任があるとはいえ、まさかここまでお怒りになるとは正直思ってもみませんでした。

「ねぇ、エリィ。お願いだから自分を卑下したり犠牲にしないで」

「申し訳……ありません」

「私たちは主君と家臣である以前に友達なんだから」

「……はい」

「私、エリィのことを親友だと思ってる。エリィは違うの?」

「いえ、ワタシも同じです。アリス様のことを一番の友人だと思っております」

「だったらもう少し自分を大切にしよ?」

 いつもと変わらない温かく優しい声でわたくしを諭すアリス様はニコッと微笑まれます。

「さ、お説教はこれくらいにして、そろそろ寝よっか。ベッド、上と下どっちが良い?」

「え、あの……」

「もう怒ってないよ。で、どっちが良い?」

 切替が早いと言うのは実に羨ましいです。先ほどまで昼間の件でお怒りだったとは思えない調子でわたくしに2段ベッドの上下どちらで寝るか尋ねられるアリス様。

「私、こういうベッドにちょっと憧れてたんだよね。あ、やっぱり上使って良い?」

「は、はい。構いませんが」

「やった」

 自由奔放なところがアリス様の良さであり、メリハリをしっかり付けられるところは見習うべきでしょう。ですがこうも頭の切替が早いと先程まで怒られていた身からすれば拍子抜けしてしまうのも事実です。

「? どうしたの?」

「い、いえ。それではワタシは下を使いますね」

「うん。おやすみ」

 こういう形でアリス様と一緒に眠るのは初めてですね。だからという訳ではありませんが今宵はなぜか頭が冴えたままで眠気を感じません。緊張していると言うのでしょうか。身体が強張るような感覚がいたします。昼間の兵たちが見せたあの視線が急に蘇り、いまにも部屋に押し入って来るのではとわたくしを不安にさせます。

「あの、アリス様?」

「眠れない?」

「その、昼間の兵たちは?」

「大丈夫だよ。いまごろ牢屋の中だから。さすがに見逃す訳にはいかないよね」

 わたくしの問いに少し間を置いて答えるアリス様の声は低く、感情を押し殺しているようでした。

「昼間の兵は謁見の機会もない末端の兵なんだって。私の顔を知らなくても当然だよね」

「それは……」

「不純な考えを持った人間がいるのは分かってるよ。でもそんな人間が例え末端の兵だったとしても、一度は王家に忠誠を誓った者の中にいたのはショックだよね」

「……そう、ですね」

「なにより王女(私)の騎士を凌辱しようとした。罪は重いよね」

「アリス様それは……」

「大丈夫。ちょっと痛い思いをしてもらうだけだから」

 さすがに未遂で死罪にはしないと言うアリス様ですがその声に慈悲を感じることは無く、この方にも冷徹な一面があるのだと思い知らされました。

「私だって時には冷酷になるよ。国に戻ったからにはいつもニコニコ笑顔の王女じゃいられないよ」

「アリス様……」

「さ、そろそろ寝よ? あんまり考え過ぎるのも良くないよ」

 自分に言い聞かせるように口にされるアリス様は「おやすみ」と言われ眠りに就かれます。わたくしも早く休まなければと思いますがどうしても寝付くことが出来ず、ようやく寝付けたのは日付が変わりだいぶ経った未明のことでした。


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