第41話
村を出たのは日が昇る少し前。物置小屋を宿として提供して下さった農夫はすでに起きており、出立する旨を伝えて宿代代わりの心付けをお渡ししました。最初は受け取りを拒まれましたが最後は受け取って頂き、その礼としてパンと干し肉を頂きました。
「あのおじさん、良い人で良かったね」
「そうですね。お礼をお渡ししたつもりが食料を頂くなんて、なんだか申し訳ないですね」
「それはそれだよ。あとどれ位かな?」
王都を守る城壁までの距離を聞かれるアリス様はもうすぐのはずなんだけどと言われます。確かに手元にある地図と照らし合わせれば、あと小一時間も歩けば城門に辿り着く距離まで来ています。
「城壁って言ってもそんなに大きくないから近くまで行かないと見えないんだよね」
「そうなのですか?」
「うん。高さは二階建ての建物くらいかな」
確かに都を守る壁にしては高さが足りない気もします。梯子を掛ければ容易に超えられる低い壁が城壁として機能するとは思えません。
(きっと地理的な要因もあるのでしょうね)
フェリルゼトーヌは三方を山に囲まれ、開けた西側はクーゼウィンと国境を接するだけです。両国は古くから親密な関係にあり、互いに攻め入るなどあり得ない話とされています。故にわざわざ高い壁を作る必要ないのかもしれませんね。
「あの、アリス様。通行証などは要らないのですか」
「通行証?」
「はい。城門を通る際に必要ないのですか。それに通行税の支払いなどもあると思うのですか」
「あー、アレね。無いよ」
「え?」
通行証も通行税も無い? 聞いたことがありません。
通常、都市間を移動する際は身分を証する書類の提示や税を払う必要があります。クーゼウィンでも王都へ入る際は城門で税を払い、領主が発行した身分証を提示しなければなりません。それがこの国では必要ないと言うのは驚きですが、言われてみればセルフィスの街に入った際も税を納めた記憶がありませんでしたね。
「父上がね、国内を移動するだけで税を取るのは間違ってるって廃止にしたんだ」
「なるほど。それは一理ありますね。ですが……」
「収入が減る貴族たちからの反発はあるよね。けど、おかげで人の往来が活発になったから悪いことばかりじゃないんだけどね」
おそらく、前フェリルゼトーヌ王は人の往来を活発にすることで経済の発展を望んだのでしょう。考えとしては理解できます。やはりアリス様の御父上は民のことを思った国づくりをされていたようですね。
「まぁ、もし『通行税を払え』って言われても、私は顔パスだから大丈夫だよ」
「その言い方は人聞きが悪いですよ」
珍しく王族と言う立場を誇示するアリス様を窘めるわたくしは再度地図を確認します。地図に記されている通り、この道を真っすぐ歩けば城壁に辿り着きます。城門を抜ければ小さいながらも街があるようなのでそこで休息を取りましょう。さすがに王都の中心まで行くのは無理があります。到着する時間にもよりますが宿を取る必要もあるかもしれませんね。




